どうしてもっと早く、彼女のつく嘘に気付けなかったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 毎日、とまではいかないまでも、しばしば訪れるバー。

 落ち着いた雰囲気で、仕事や家のことで疲れたイザークの心を少なからず癒してくれる、唯一の場所でもある。

 仕事帰りにふらりと寄ったここには、客はほんの2、3人しかおらず、やはりイザークの心を落ち着かせる静かな空間

は保たれていた。

 イザークはバーテンダーに水割りを頼むと、カウンターに腰かけながら頬杖をついた。

 そうしていると、聞き覚えのあり過ぎる声が後方から聞こえてきた。

 「あれ?イザークじゃないか」

 まさに苦虫を噛み潰したような表情をその秀麗な顔に浮かべ、酷く緩慢とした動作で眼を後ろに向ければ、案の定そこ

には憎いともいえる男がいた。

 「アスラン・・・・・」

 地の底を這うような苦渋に満ちた低い声に臆することなく、アスランと呼ばれた男は笑みさえ浮かべてイザークの隣に

腰かけた。

 「・・・隣に座っていいと、誰が言った?」

 アスランを常にも厳しい眼光を更に厳しくし、睨み据える。

 「別にお前の椅子じゃないだろう?そう睨むなよ」

 笑みを崩すことなくそう答えると、バーテンダーにイザークと同じものを頼んだ。

 それに嫌そうな顔をしたのは勿論、バーテンダーではなくイザークで。

 「何のつもりだ?俺は貴様と話すつもりは毛頭ないが?」

 それを言い終えるのと同時に、イザークの目の前に注文した品が差し出された。

 「はは・・・随分な嫌われようだな。久々に会った友人なのに」

 悪びれもなくそう言ってのけるアスランを、いっそ尊敬したい気分になったイザークであったが、今はそんなことを考

えていられるほど内心は穏やかではない。

 「・・・何の用だ?用もなしに話しかけてくるほど、貴様も野暮じゃないだろう?」

 そう問えば忽ち笑みを消し、アスランは表情という表情全てを消し去った。

 そこに喜怒哀楽どれも見当たらず、イザークは一瞬その背に悪寒を感じた。

 「キラのことで、話がある」

 イザークはそんな恐怖を心の奥底へ押しやり、無理やり口の端を歪めた。

 「ほう・・・・・どんな話か、聞かせてもらおうか」

 瞬時に凍りついたその空気に、イザークの頬に冷や汗が伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが嘘であって欲しい。

 彼女を想っていないからこそ、イザークはそう思う。

 彼女が奇跡を犠牲にしてまで得たいと望んだ恋は、イザークにとっては重荷にしかならないのだから。

 アスランから齎された言葉は二つ。

 イザークがキラと床を共にした後、アスランもキラと交わったということ。

 そして、キラはその子供を利用してイザークに近づいたということだ。

 イザークは誰もいなくなった椅子を見つめ、一人項垂れた。

 こんなことがあって、たまるものかと。

 「くそっ!!」

 ダンッと店全体に振動を伝えるかの如く、カウンターに拳を振り下ろす。

 この上ない屈辱と、この上ない絶望。

 何故こんなにも悲しいのだろうかと、イザークは自らに問うた。

 しかし答えが返ってくるはずもなく、ただ眉間に皺を寄せるしかできない。

 「あの、嘘吐きめがっ!!」

 両掌に力を込め、血が滲む程に強く握りしめる。

 ギリリと奥歯を噛みしめ、憎しみを露にする。

 それは先程話をしてきたアスランにか。それとも自らの妻キラにかは、イザーク自身ですら最早理解することができな

かった。

 それからイザークはキラにある疑いを持ったまま、約一年の月日が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、いつもの時間に目が覚め、いつものように身支度を始める。

 嫌な夢を見た。思い出したくもない夢だ。

 たとえそれが事実でも、自身のプライドをズタズタに切り裂かれた思いは今も薄れることを知らない。

 それでも未だ尚彼女と共にいるのは、自らと愛するラクスの為に体裁を気にしているからだ。

 だがそれも、いい加減我慢が利かなくなってきている。

 早くキラと別れ、ラクスの元に行きたい。

 一瞬たりとも忘れたことのない、望み。

 しかし今はその時ではないと、何よりも自分の理性が主張してくる。

 イザークは仕方なしに溜息を吐くと、部屋の扉を押し開けてキラの部屋へと向かった。

 体調が悪ければ、病院に連れて行かねばならない。                                                        

 それは人として当り前のことだが、イザークにとっては過去に対する贖罪と言ってもいい。

 キラが階段から落ちて倒れている様を見て、つい言い過ぎてしまった刃のような言葉。

 イザーク自身、今も後悔している。

 彼女の意識が朦朧としていたのは知っていたがそれでも、あの言葉は少なくとも声に出すべきではなかった。

 あの時の自分は、思った以上に子供だったようで。

 だがしかし今更それを自覚したところで過去を変えられるわけがないということを、イザークは痛いほどに理解してい

る。

 キラの部屋に辿り着き、三回ほどノックをした後に一言入るぞと言うと、イザークは半ば遠慮気味にその扉を開いた。

 恐る恐る中を見渡すと、しかし彼女の姿が見当たらない。

 何故だろう。このパターンは以前にもあったような気がする。

 そしてそれがいつのことだったか思い出すや否や、イザークは慌てて部屋を飛び出し居間へと向かった。

 「キラ!!」

 その怒号とも似た叫び声を上げると同時に、居間へと続く扉を開け放つ。そして、それと共に鼻腔をつく仄かな甘い香

りに、イザークは思わず目を丸くした。

 「あら、イザーク。どうしたのです?何か、急な用事でも?」

 そう言うのは、今まさに探していた人物本人で。

 「お、まえ・・・もう、いいのか?」

 驚きを隠しきれてはいないが言葉を途切れさせながらそう問うと、キラは小首を傾げながらもう大丈夫だと笑顔を見せ

た。

 「ごめんなさい、迷惑をかけてしまって・・・」

 項垂れたように表情を曇らせイザークに詫びる彼女を見るとどうやら熱は下がったようで、イザークはホッと息を吐い

た。

 「そうか。それにしても、なんだこの甘ったるい匂いは?」

 安心した様子を見せまいと顔を下に向け、すぐ傍にあるソファに腰かけながらそう問うと、キラはクスリと微笑を零し

た。

 「クッキーですわ。これでも甘さは控えめにしたんですよ?もしよろしければ、味見してみてくださいませんか?」

 そう言いながら、近くに置いてあった陶器の器を手に取り、イザークの目の前に運んでくる。中身は先程キラも言って

いたように、こんがりと程好く焼けたクッキーであった。

 「・・・いや、俺はいい。メイドにでもくれてやれ」

 本当は小腹が空いていたのだが、好きでもない女の手作りの菓子を口に入れるなど、イザークのプライドが許さなかっ

た。

 この女は自分を騙し、何もかも手に入れようとした。

 いくつもの嘘を積み重ね、誰もを欺き、自身の思うままに。

 いっそこの女を地獄へと突き落とせられれば。

 その考えが過った瞬間、イザークの心に闇にも似た情が生まれた。

 それはあまりにも、残酷で。

 それでもこの屈辱を今でなくいつ晴らすことができようかと、イザークは目を細めた。

 どうせ離れるのであれば、今のうちに。

 「・・・・・すまない。やはりもらおう」

 いっそ立ち直れないほどの、苦しみを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

皆様、お久しぶりにもほどがありますが、お久しぶりです。

えっと、はい。すみません。もうみんな真っ黒ですすみません。












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