ザワザワと、騒がしい教室。 掃除も終わり、誰もが帰宅し始めるこの時間。 オレンジ色の日差しが、窓ガラスから差し込んでくる。 その光が眩しくて、僕は無意識に目を細めた。 ふと、ざわめきが一層大きくなり、僕は反射的に扉の方に目をやった。 すると、閉まった後の扉のガラスの向こうには、藍色の残像が見えて。 僕は反射的に、ムッと顔を顰めてしまった。 Z 「あの二人、あんなに仲良かったかしら?」 ぼそり、と小さく紡がれた声でも、放課後の静けさの中ではいっそ明瞭に聞こえてしまう。 「さあ?でも、ザラ君が誰かとお話しするなんて、見たことないわ」 僕に聞こえてないとでも、思っているのだろうか。 「ええ、私も。でもきっと、ヤマトさんの気紛れに違いないわ」 その言葉に、僕は何故とは思わない。 だって僕には、わかり過ぎるほど、わかっているから。 「あの何にでも無関心なヤマトさんが、あんな陰鬱とした人に、本気になるはずがないわ」 耳に入ってくる、その言葉に。 「アスランの悪口、言わないで!!!」 思わず、反論してしまった。 「アスランは、そりゃ、前髪長いし瓶底メガネだし、口下手だしで、ちょっと凄く暗いイメージあるけど、ちゃんと、紳士なんだ からっ!!」 わざわざ立って、声の主たちを振り返って、僕は一気に捲し立てた。 「あなたたちみたいな、人の悪口を陰で言っているような人に、アスランを悪く言う資格なんてないっ!!」 そこまで言って、急に恥ずかしさが込み上げてきた。 頬に急速に熱が集まってきて、心臓がバクバクと音を立て始める。 僕は居た堪れなくなって、驚きに硬直している彼女たちを尻目に教室を飛び出した。 慌てて鞄を引っ掴んできたので、教科書など一冊も入っていないし、ノートも然りだ。 唯一入っている空の弁当箱は、蓋が完全に閉まっていないのか、カタカタと小刻みに音を立てている。 そのまま僕は、突き当りまで真っ直ぐに走った。 そして立ち止まって、膝に手をついて、俯く。 走って来たせいか、はたまた羞恥心にか、荒くなった息を僕は深呼吸をしながら整えていく。 「・・・・・・・・・・僕、なにやってんだろ・・・」 なんだか、自分だけ必死になって足掻いて、馬鹿みたいだ。 それでも。 「それでも僕、あんなふうにアスランのこと言うなんて、許せない・・・・・」 ポツリ、と心の中だけで思っていたはずが、何故だか声に出てしまい、僕は慌てて口を塞いだ。 キョロキョロと辺りを見回して、人がいないかを確かめる。 そうして漸く人がいないことを確信すると、思い切り溜め息を吐いた。 しかし安堵したのも束の間、突然肩を叩かれた。 「おい」 次いで聞こえた声に、ドキリと心臓が跳ね、おまけに身体がビクリと強張ってしまった。 恐る恐る振り返ると、なんとそこには、あの『銀髪おかっぱ』と陰で囁かれている、ジュール評議会議員の一人息子、イザーク・ ジュールが不機嫌そうな顔でこちらを見ているではないか。 「・・・・・あ、えと、なんで、しょうか?」 しどろもどろ尋ねると、彼は一層眉間の皺を寄せて不機嫌さを色濃くした。 「『なんでしょうか?』だとぉ!?貴様、足元を見ろ、足元!!」 は?足元??と思いつつも、目の前でこうも睨み付けられては見ないわけにもいかない。 そうして怪訝に思いながらも足元を見てみると、何故だか見知らぬノートが。 「・・・・・って、これ、あなたのっ!!??」 一瞬脳内の回転が完全に停止したが、直ぐに足を退けてそのノートを拾う。 「違う。それはクラスの奴のだ」 それを聞き、もう一度手元のノートの名前のところを見やると、そこには『ディアッカ・エルスマン』と書かれていた。 どこからどう見ても、『イザーク・ジュール』とは書いていない。 よくよく見てみれば彼の後方で、クラス全員分であろう程のノートの山が、密かにその存在を主張していることに気づいた。 どうやら、彼はそこにあるノートたちをぶち撒けてしまったらしい。案外ドジなんだな、などと思っていると、何故だか感じる 痛い視線。 再び恐る恐るその視線の根源を見やれば、何やら険しい顔の美青年。 「下方にも注意を払うことだな」 しかし、来ると思われた怒鳴り声は来ず、代わりに小さな風が頬を撫ぜた。 イザークは僕の手からノートをそっと取ると、踵を返して背を向けた。 「・・・っあ、あの!!」 あまりにあっさりとしていた為に呆気にとられてしまった僕は、彼の後ろ姿で我に返り、咄嗟に彼を呼びとめた。 意外にも彼は足を止めてくれたが、表情は見せることなく、向こうを向いたままだった。 「すみませんでした、気づかなくて・・・。その・・・・・」 何を言ったらいいのかわからなくなり口籠ってしまう。 自然と目が泳ぎ、これではうろたえているのが丸わかりではないか。 「いや、構わん」 いつの間にか俯いていた僕の耳に、聞こえてきた声はどこか優しくて。 「気にするな。こんなところにノートなんぞをぶち撒けた俺が悪い」 顔を上げれば、美しい銀糸に包まれた整った顔立ちが、こちらを見て微笑んでいた。 僕はそれを見た瞬間、思わず眼を見開き、固まってしまった。 自分でも気づかないうちに、僕の頬には朱が差していたのだ。 そうして呆け立っているうちに、彼はさっさと踵を返して去って行ってしまった。 あとがき 拍手、どうもありがとうございました。 とっても久しぶりの更新で本当に申し訳ないです。 拍手第7段です。メガ婚、Z話です。 前回出てきた3人組、ちゃんと決めました(今更?)。 今度はもっと早めに更新します・・・orz |