あの後僕たち二人は携帯番号とメールアドレスを交換し合い、互いの親と共に帰宅した。
そうして、家に着いてしばらく経ってから彼から届いたメールは、僕を不機嫌にさせるには十分なものだった。
「何さ・・・」
ポツリと呟いた声は、初めてのアスランからのメールで浮かれて飛び込んだまま、照明の点いていない真っ暗な部屋に虚しく
響いた。
先ほどから何度も読み返す携帯のディスプレイに映る文字。
『今晩は。行き成りメールなんかしてしまって、すみません。キラとはクラス一緒だけど、学校では話したりするの、
やめませんか?キラが俺なんかと一緒にいるなんて皆に知れたら大変だろうから。用件はそれだけです。では、よい夢を。
アスラン・ザラ』
何がよい夢を、だ。
人を馬鹿にするのもいい加減にしろ。
無意識のうちに僕の手が携帯を持ったまま、小刻みに震える。
それは怒りからか、それともまた別の要因か。
それは僕自身でもわからなかった。
W
ざわざわざわ。
ああ、煩い。
そんなに驚くことなのだろうか。
周りのクラスメートたちは僕と目の前で罰が悪そうに俯いている婚約者、アスランを遠巻きに見ながらこそこそと囁き合っている。
「で?これ、どういうこと?」
アスランの目の前に僕の携帯を翳して、意識して目を半眼にし、俯いている為に顔が見えないので彼の藍色の髪を睨み据える。
「どういうこと、って言われても・・・・・」
ぼそりと返ってきた返事に、苛立ちが更に増す。
「あのね。そもそもなんでメールが敬語になってるのさ!?普通メールなんかに敬語なんか使わないでしょ?」
「メールなんかって・・・俺がどんな思いして文字打ち込んだか・・・」
「ああ知らないね。知りたくもない!!ていうか僕が言いたいのはそんなことじゃなくて、なんであんなメールを送ってきた
かってことだよ」
何故か話の矛先が逸れてどうでもいい口論をしてしまったが、直ぐに話題を持ち直す。
「なんでって、そりゃ、君が困ると思って・・・・・」
「だーかーら。どうしてそこで僕が困ることに結びつくのさ!?」
わけがわからない、と言いながら、僕は思い切りアスランから顔を逸らした。
「だってそうだろ!?俺は・・・あんまり、周りからよく思われてないし・・・・・キラだって、周りからの視線気にするだろ?」
徐々に風船が凋んでいくように勢いを無くしていく彼の声に、自然と僕の中の怒りも勢いをなくしていく。
「・・・・・気に、しないよ」
ぼそり、と小さな声で言って、アスランを見やる。
「気にするだろ。いいよ、気を使わなくて」
そう言いながら、アスランは目を逸らした。
心配してくれているのだということはわかるけど、けれどそうやって自分自身を下げてしまう彼のその性格にいっそ悲しささえ感
じる。
「気なんて使ってない!!・・・・・アスラン、もっと自分に自信を持ちなよ。なんか・・・見てると苛々してくる」
そう言い捨てて、僕は思わず零れ出てしまった声に自分自身で驚いた。
こんなこと、言うつもりなんてなかったのに。
けれど、後悔先に立たずとはよく言ったもので。
アスランは辛そうに、眉を顰めていた。
『ごめん』。
短い言葉だけど、今の僕の口からは紡ぎ出せない言葉だった。
その一言を言うのが、こんなにも難しいなんて。
僕はこっそりと、ギュッと拳を握った。
ああどうしよう。
あれからチャイムが鳴って席に着いて、今は未だ授業中だ。
だが僕の心の中では、先ほどの自分がアスランに向けて言ってしまった暴言と彼の辛そうな顔が渦巻いていた。
教師の書く黒板の文字を写す振りをしながら、必死で頭を回転させる。
どうやって謝ろう。
なんだかもう、普通に謝っても済まされそうにないような気がする。
ああ本当に、どうしたものか。
そんなことを考えていると、制服のポケットに忍ばせてある携帯が振動した。
その微かな振動音が、教師が黒板にチョークで文字を書く音と生徒がそれをノートに写す音と重なる。
慌ててそれを止めると、そっとそれを取り出して机の影で携帯を開いた。
見ると、メールが一件。それも、先ほど口論してしまったアスランからだった。
驚いて目を剥くと同時に、彼の席を見やった。
彼の席は僕の席よりも前にあるので、多少視線を動かしたとしても教師にバレることはない。
アスランは相変わらず、真剣に黒板の文字をノートに書き写している。
その後姿に、なんだか見入ってしまう。
漸く黒板を書き終えたのか、教師がチョークを置いて説明を始める。
その声にハッとなって、僕は早々に携帯のディスプレイを見やった。
そこには短い文章で、けれど彼の優しさが感じられる文章があった。
『さっきはごめん。授業が終わったら、ゆっくり話そう』
僕の意見を汲み取ってくれたのか、それとも先ほどの言葉を気にしているのか、アスランの言葉には敬語は使われていなかった。
それでも、なんだか僕たちの壁が薄れたような気がして、思わず頬が緩む。
それに目敏く気付いた教師が、僕を指名した。
「ヤマト、ここを説明してみろ」
勿論僕は答えることが出来ず、俯いてしまったが。
呆れた教師が次に指名したアスランが、代わりにスラスラと答えた。
ああ、そういえば。
アスラン・ザラは根暗だけど、頭はよかったんだ。
そのことを、今更ながらに思い出した。
あとがき
拍手、どうもありがとうございます。
今年最後の拍手小説です。
皆様には本当に元気付けられます。
来年もどうぞ、よろしくお願いします。
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