日はとっくに沈んで、灯りは先程までいたレストランから漏れる光と、大きな庭園の木々にポツポツと掛けられている ランプのみ。 灯りが少ないお蔭で、夜空の星々がいつもよりもたくさん見える。 帯できつめに締められた胸に吐息を吐きながら、僕はそっと後ろを振り返った。 庭園に出てきて彼の手が離れてから、お互い何一つ喋ってはいない。 やはり、沈黙が続いた。 きっと先程までの紳士な彼は、彼自身の演技によるものだったのだろう。 思考がそのことに行き着くと、何故か僕の中で『落胆』が生まれた。 どうして自分が、落ち込まなければならないのだ。 最初から、わかっていたことではないか。 彼は根暗で、口下手で。 紳士だなんて、ありえない人物なのだ。 なのに、わかっていたはずなのに、どうしてがっかりしてしまう自分がいるのだろうか。 僕は静かに月を見上げている彼を見ながら、自分の心を怪訝視した。 V 「ねえ、アスラン?」 いい加減我慢の限界なので、取り敢えず声をかけてみる。 「・・・・・・・・・・」 しかし、返答はない。 彼はこちらに目もくれず、ただ月を見上げているだけだった。 そんな彼に、何故だか怒りを感じた。 彼の視線を奪う綺麗に澄んだ三日月に、何故だか嫉妬心が生まれた。 どうしてだろう。 自分の心が、わからない。 初めてだ、こんなのは。 自分の心が、気持ちが、わからないなんてことは初めてなのだ。 なんて説明したらいいか、全く検討もつかない。 そんな自分が、沈黙が続く度に嫌になってきて。 こんな自分を、彼に見られたくなくて。 「アスラン!!」 思わず、声を荒げて彼の名前を叫んだ。 「!?っな、何・・・でしょうか?」 その彼の驚き様から、きっと気付かなかったのだろうと予想が出来た。 「何って、さっき呼んだのに、気付かないから・・・」 苦笑交じりにそういえば、彼の驚き顔が目に入る。 「あ、その、すみません・・・ぼーっとしてて、つい・・・・・」 焦りながらも、口調はのんびり。 けれどなんだかその姿が、可愛らしく感じるのだ。 「口調、さっき普通でいいって言ったじゃない?」 彼の傍に歩み寄りながら、彼の顔を覗きこむ。 すると、面白いくらいに顔を真っ赤にして。 「えっ!?あ、いや、だって、慣れてないから・・・」 そりゃそうだ。 学校でも、人と話す彼は滅多に見ない。 というか、僕自身は見たことがない。 「じゃあ、これから慣れればいいんじゃない?ていうか前から気になってたんだけど、なんでアスランはいつも一人なの?」 そう微笑を湛えながら小首を傾げると、彼の表情は一変して。 「・・・俺は、一人でいいんです。・・・・・そうじゃなきゃ、ダメなんだ・・・・・・・・・・」 まるで自分に言い聞かせるかのように。 けれどその、自分を責めるかのような、追い詰めるかのような声に、何故だか僕の胸がズキリと痛みを訴えた。 どうしてそんな声で、そんな言葉を吐くのか、大きくも小さくもわからない疑問を、僕はこっそりと胸の内に仕舞った。 「でも、僕がいるじゃない?・・・それとも君は、僕との婚約を断る気なの?」 故意に瞳を潤ませて、彼の黒縁メガネを覗き込んだ。 彼は小さく肩をビクリと震わせて、そして小さく苦笑した。 「いいの?」 不意に聞こえた問いに、思わず首を傾げてしまう。 「何が?」 彼の、溜め息の気配。 「俺と、婚約すること・・・・・。本当に、俺でいいの?」 今度は笑みを、綺麗に消して。 彼は真っ直ぐ、僕に問うた。 彼に答えたいから。 真っ直ぐな問いには、真っ直ぐな答えを返さねば、と。 それが僕の、務めだと思うから。 「いいよ。どうせ、破棄なんてそう簡単に出来ないし。いざとなったら、判を押さなければいいんだし」 もしも結婚、ということになったとしても、婚姻届に判を押さなければいいのだ。 まあ、それまでにこんな婚約、破棄してやるが。 そう考えて、ズキリと胸が痛んだ。 何だろう、さっきから。 この痛みが、なんだか嫌で。 それでも彼の驚いたような顔に、微笑を浮かべた。 「破棄するのなら、君がして。僕には元より、そんな権限はないから」 そう。何があっても、この婚約は成功させねばならない。 それが、家の為だ。 たとえ相手が学校で有名な『根暗君』でも、自分のすべきことはきちんとこなさなければならない。 それが、ヤマト家の家訓なのだ。 だから本当は、この婚約を破棄させるような発言は控えたい。 けれど彼の気持ちも、汲み取りたいから。 だから敢えて、彼に主導権を握らせる。 若しかしたら自分は、試したのかもしれない。 彼の、僕に対する感情を。 だから。 「俺は、君さえいいと言うのなら、構わないよ・・・・・」 その答えに、心の底から湧き上がる嬉しさを隠しきれずに、満面の笑みを浮かべたのだ。 あとがき 拍手、ありがとうございました。 拍手小説第三弾。 メガ婚Vです。 何と言うか、キラが片思いチックに!? でもまだ自分の気持ちには気付いてません。 大分間開きましたが、如何でしたでしょうか? 感想等、何かありましたらお気軽にどうぞ☆ |