一緒に帰って、そして。

 アスランの家が案外近いことを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一緒に帰り道を歩いていると、不意にキラの中に疑問が生まれた。

 送ってくれるといっているが、アスランの家は一体どこにあるのだろう。

 もしかしたら、駅が違うかもしれない。

 そう思い、キラは尋ねてみることにしたのだ。

 「ねえ、アスラン。アスランの家って、何処にあるの?」

 アスランはキラの問いかけにすぐさま彼女を振り返るが、聞こえた問いに、ふと顔を顰める。

 「・・・?」

 「まさかキラ、今まで気付いてなかったのか?」

 「へ?」

 予想外なアスランの返答に、思わず間の抜けた声を出してしまう。

 一体、何に気付いていなかったと言うのか。

 「・・・・・俺の家は、キラの家の真ん前。越してきたの、もう三年前になるけど」

 そう。つまりアスランの家は、彼の言った通り、キラの家の真ん前にあるのだ。

 アスランが丁度中学を卒業してすぐに、そこに越してきたのだ。

 だがキラはそれを知らない。若しくは、アスラン本人を見ていないとか。

 「ああ、そういえば、『ザラ』って表札に書いてあったような気がする」

 気がする、ではなく実際そうなのだが、まさか三年間も気付かなかったとは、なんともおめでたい。

 アスランはそんなキラに小さな溜め息を吐いた。

 「あ、何さ!!しょうがないじゃないか!!アスランと、会ったことないし。接点なかったし」

 「俺は三年前から気付いてたけど?」

 「・・・・・・・・・・?」

 アスランの言葉に、首を傾げる。

 「あ、ほら。もうすぐ着く」

 そう言ってまた、前を見るアスランに、キラは思わず頬を染める。

 それはつまり、三年も前から自分のことを見ていてくれたということなのだろうか。

 自惚れても、いいのだろうか。

 募る思いに、キラはアスランと握り合っている手に、ほんの少しだけ力を入れた。

 俯く顔は首に巻かれたマフラーに隠れて、不思議そうに振り返ったアスランには垣間見ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それじゃ、と別れようとした矢先、待ったをかけたのはキラの方だった。

 「どうした?忘れ物でもしたか?」

 などと笑いながら言ってくるアスランに、そうじゃなくてと真面目に返すキラ。

 「携帯番号・・・と、メールアドレス、教えて、くれると、嬉しい・・・かも」

 だんだんと小さくなっていく声。けれどアスランにはしっかりと聞こえていた。

 お昼の時に聞きたかったのだが、どうにも切り出せなくてここまで来てしまったのだ。

 「ああ、いいよ。赤外線、付いてる?」

 優しく微笑みながら何処からともなく携帯を取り出し操作をし始める彼に、キラはポソリと先程よりも小さな声で、付いてない、と呟いた。

 「じゃあ、打つよ。貸して?」

 気分を害した風もなく、笑顔のまま手の平を見せるアスラン。

 キラは彼に打たせるという罪悪感の中、渋々携帯を渡そうとする。

 だが、すぐに引っ込めて。

 「やっぱり、僕が打つよ。貸して?」

 その言葉に、目を丸くするアスラン。素直に渡してくれると思ったら、行き成り抗うキラに驚いたのだ。

 「いや、俺が打つよ。こういう時は、男がやるもんだろ?」

 「でも・・・・・」

 「あら、キラ。帰ってたの?まあ、もしかして、お向えさんの?」

 突然の第三者の介入に、アスランとキラの心臓はドキリと跳ね上がった。

 二人揃って声のした方を見ると、そこにはキラの母、カリダの姿があった。

 「あ、ああ、はい。こんばんわ。アスランです」

 「そう。そういえば、レノアから聞いてたわ。同じ学校で、同じクラスなんだってね」

 レノア、というのは言わずもがなアスランの母親である。

 いつの間に、母とキラの母は仲良くなっていたのだろうか、とアスランは只管首を傾げる。

 「よかったら、上がって行かない?どうせレノア、いないんでしょ?しばらく出張だって言ってたから」

 確かに、レノアは先週から出張に行っている。

 序に言うと、父親は毎日仕事で忙しく、帰ってくるのはいつも夜中だ。

 「アスラン、上がってく?」

 早く暖かい場所に行きたいのか、キラもアスランを誘ってくる。

 「・・・じゃあ、お邪魔させていただきます」

 軽く一礼して、アスランはニコリと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「アスラン君はレノアがいない時、夕飯いつもはどうしてるの?」

 「自分で作ってますよ。弁当も普段は自分で作ってますし」

 「あら、偉いのねー!!キラとは大違いだわー!」

 そう言って、先程から不機嫌を顕にしているキラに話を振るカリダ。

 どうやら、アスランを母親に取られているようで、気に食わないらしいのだ。

 「アスラン、僕の部屋行こう」

 「え!?いや、でも、流石にちょっと・・・」

 仮にも年頃の男子を、可愛い娘の部屋に上げるなど母親であるカリダが許すはずがない。それ以前に、アスランの理性が持つかどうかも怪しいのだ。

 「あら、いいんじゃない?序だから、勉強でも見てもらったら?」

 だが、アスランの頼みの綱は、カリダの言葉によってきっぱりと切られてしまった。

 「ね、アスラン?行こうよ!!」

 上目遣いに言われたら、断れるわけがないではないか。

 「・・・わかった。勉強ぐらいなら、見てあげる」

 その返答に、キラは満面の笑みを浮かべてアスランの腕に飛びついた。

 「キ、キラ!?」

 瞬時に染まる頬を隠す暇もなく、アスランはそのままキラの部屋に連行、基、連れて行かれた。

 後に残ったカリダは一人、楽しそうに。

 「あらあら、仲がいいのね」

 などと、呟いていたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で、キラ?」

 「なぁに?」

 「勉強はどうなったの?」

 「何さ、勉強星人」

 「何だよその、勉強星人って!?」

 「だってそうだろ?僕の部屋に来て何回目だよ、勉強勉強って」

 「何回目って、俺は一回しか言ってない!!・・・そもそも、キラが言い出したんだろ?」

 「違うよ。アレは母さんが言ったんであって、僕はコレの為にアスランに来てもらったんだから」

 「帰る」

 「はぁ!?」

 「帰るったら帰る。勉強しないんなら、俺は用無し用済みはいさようならまた明日」

 「ちょっ、まっ、アスラン!!」

 などと、大変可笑しな会話が行き交う場所は、言わずもがなキラの自室である。

 何故このような会話が繰り広げられているかと言うと、それはキラの一言から始まった。

 部屋に入ってすぐ、キラはアスランに1Pと2Pどっちがいい?などと問うてきたのだ。

 さすがに、首を傾げるアスラン。

 わけがわからないので、取り敢えずキラの行動を見守っていると、キラは何処からともなくゲーム機を取り出して、テレビに備え付け始めたのだ。

 そして先程の会話に至るわけだが。

 「待ってってば!!悪かったって!!」

 アスランの腕を必死につかみながら、必死に謝るキラ。

 「謝っても帰る!!第一キラ、わかってるのか!?」

 「何が!?」

 声を荒げるアスランに、キラも負けじと声を上げる。

 「男をそんな簡単に部屋に入れるなって言いたいんだ!!」

 「何でさ!?」

 「それは・・・っ!?」

 尚も言い募ろうとするアスランだったが、何故だか急に顔を顰めた。

 「・・・アスラン?」

 先程の勢いは何処へ行ったのか、キラはまるで風船が凋んでしまったかのように勢いを無くしたアスランを怪訝そうに見つめた。

 「・・・・・なんでも、ない」

 キラには感づかれないように、アスランはそっと胸元に手をやる。

 バクバクと音を立てる心臓。

 それに伴い、痛みが増す。

 それを遣り過ごすように、アスランはただ俯くばかりで。

 キラはそんなアスランの姿に、一抹の不安を覚えた。

 「アスラン、大丈夫?ほら、中入って?」

 そう言いながら、アスランの背中にそっと手を添えた。

 何がなんだかわからないが、兎に角座らせよう。

 なんとなくだが、直感だが、キラはそうしなければならないような気になったのだ。

 「・・・・・ごめん、あり、がとう」

 落ち着いてきたのか、アスランは途切れ途切れだが言葉を紡いだ。

 キラはそれにふるふると首を左右に振って、どこか悪いの?と問うた。

 「・・・・・・・・・・いや、そんなことはないよ。ごめん、心配かけて」

 額に脂汗を浮かべながら言われても、全く説得力がない。

 だが、今のアスランに尋ねても、きっと答えが返ってこないだろうことを、キラの直感は感じ取っていた。

 だから、聞かない。

 「こっちこそ、ごめん。でも、本当に大丈夫なの?・・・今日はもう、帰る?」

 気遣わしげに除きこんでくるキラに苦笑一つ零すと、アスランはそうするよ、と答えた。

 だがすぐに、でも・・・と続けた。

 「でも?」

 「携帯、教えて?俺も、知りたいし」

 その言葉にキラはハッとして、すぐに苦笑を浮かべた。

 「わかった。でも、僕が打つからね?」

 「・・・・・じゃあ、こうしよう。俺がアドレスを打つから、キラは番号を打って?」

 なんだか不公平な気もするが、彼にとっては最大限の譲歩なのだろう。

 それを察して、キラはわかったよ、と溜め息混じりに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、何故かカリダに夕飯を半ば無理やり食べさせられて、アスランは漸く帰宅した。

 時刻は既に、日もとっくに暮れた六時頃。

 キラの家に着いたのが四時頃だったので、二時間ほどヤマト家にいたことになる。

 なんだか、自分でも驚きな展開に、アスランは思わず身震いする。

 こんなに幸せでいいのだろうかと。

 けれど同時に、当然かとも思う。

 これから先の未来に待ち受ける自分の運命に比べれば、今ある幸せもきっと神様がくれたものなのだと、アスランは静かに苦笑した。

 不意に、携帯のバイブが振動する。

 「?」

 アスランはすぐに懐から携帯を取り出し、サブディスプレイで名前を確認する。

 するとそこには、先ほど登録したばかりのキラ・ヤマトと言う名前。

 慌てて携帯を開き、それがメールだと言うことに気づいたと同時に、そのメールをも開いた。

 そこには、短い文章で。

 『今日は送ってくれてありがと。

 それと、夕飯までつき合わせちゃってごめんね?

 でも、楽しかったよ。言い忘れてたけど、これからどうぞよろしく。

 じゃあ、おやすみなさい。

                           キラより』

 なんだかキラらしいな、とアスランは失笑すると、すぐに返信すべくボタンを打ち始めた。

 やがて打ち終わりパタリと携帯を閉めると、アスランは真っ直ぐに居間に向かう。

 誰もいない居間は真っ暗で、アスランは端の方にあるスイッチを押して部屋に明かりを齎した。

 そして真ん中ほどにあるダイニングテーブルに近づき、そこに無造作に置かれている小さな白い袋を手に取った。

 アスランはその中から錠剤を取り出し、決められた数を手の平に取り出して、口内に放り込む。

 そしてカバンから飲み掛けのミネラルウォーターを取り出してキャップを開けると、一気にそれを飲み下した。

 錠剤を流し込んでも尚飲み続けた結果、残ったのは空のペットボトル。

 アスランはそれを器用にゴミ箱に向けて投げ、振り返りもせずに自分の部屋に向かった。

 彼の背後で、見事に命中したペットボトルが、ガコッと音をたてながらゴミ箱の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

終われなかったです。

ていうかなんでこう、話が暴走するんだろ(計画性がないから)。

アスとキラの家は近いですが、それに気付かないお鈍さんなキラも、気付いてて何にもいえないアスランも大好きです。







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Photo by CAPSULE BABY PHOTO