君はまるで惜しむかのように、僕との時間をたくさん作ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ガラリと戸を開けて入ってきた教師は教壇に立ち、出席簿を開いて出席を取り始めた。

 出席を取ると言っても、教卓の上に置いてある座席表と生徒たちを照らし合わせて、彼らの出欠席を確認するだけなのだが。

 ふと、教師が怪訝そうな目をクラスメートたちに向けた。

 「ザラとヤマトはどうした?保健室か?」

 そう言う教師に、生徒たちは首を傾げるばかり。

 「さあ?四時間目まではいましたけど・・・」

 そう答えるのは教師に一番近い席に座る男子生徒だった。運悪く教師と目が合ってしまったので、口を開いたのだ。

 「誰か、何か聞いていないか?」

 そう問う教師の声は、虚しく教室内に響くばかり。

 一向に帰ってこない答えに痺れを切らしたのか、教師は一つ溜め息を吐き。

 「二人はサボりというわけか。珍しいな」

 などと自己完結して、二人は結局サボりということに確定した。まあ、事実なのだが。

 それにしても、珍しい。

 キラはまだわかるが、アスランがサボるとは天変地異の前触れか。

 そう思った生徒は、恐らくほとんどだろう。

 何しろアスランは、学年一位という成績をずっと保ち続けている人物なのだから。

 しかし、アスランばかりに注目する生徒の他にも、キラにも注目する生徒はいる。

 もしや、二人がお近づきにでもなったのではないか、とか、ざわざわと教室が騒がしくなる。

 だがその中に紛れ、どこか憎々しい響きさえ感じさせる、呟き。

 「キラのやつ・・・後で絶対、吐かせてやる・・・・・」

 その言葉を呟いたのは、自称キラの大親友、フレイ・アルスターである。

 実は彼女、アスラン・ザラに惚れているのである。

 なので、一年の頃からずっと同じクラスで大親友なキラが初めて授業をサボり、アスランも同じ時間に始めてのサボりを実行したことに、

クラスメートたち同様疑惑を抱く。

 だが、そのことに大親友に対する後ろめたさも感じるのも否めない。

 それでもアスランが好きなのは変わりない、という気持ちに、フレイは板ばさみになっているのだ。

 兎に角、キラが帰ってきたら問いただそう。

 そう心に決めて、フレイは漸く教科書を開くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「本当によかったのか?」

 そう問えば、隣の存在はほんの少し不機嫌そうな顔をして。

 「何度言わせるのさ。さっきからずっと、いいって言ってるじゃないか」

 そう言って、ふいっとそっぽを向く。

 アスランはそんなキラに苦笑を零し、ならいいけど、と優しく囁いた。

 「でもたぶん、先生怒ってると思うよ?サボりなんて・・・」

 「だ−かーらー、先生を怒らすこと前提でサボってるんだから、いいの。そんなに言うんだったら、アスランだけ戻ればよかったじゃないか?」

 頬を膨らませてまるで子供のように怒るキラに、アスランは苦笑を隠せずにキラの怒りを煽る。

 「俺はキラの成績が心配なんだよ」

 「心配してくれなくても、もう進学先決まってるから大丈夫です!」

 そう。キラは既に一月前に進路が確定しているのだ。

 「そうじゃなくて、二学期の成績は、卒業認定に響くだろ?」

 アスランはキラの進学の話を軽く無視して、キラにとっては大分先に感じられる卒業認定会議のことを持ち出した。

 そのことにキラは不機嫌を顕に下を向くが、アスランは構わず言葉を続けた。

 「唯でさえキラは遅刻してばかりなんだから、授業ぐらいちゃんと受けなきゃヤバイぞ?」

 苦笑を浮かべてはいるものの、その声音は本当に心配してくれているようで。

 キラは渋々ながらも、わかってるよと溜め息を吐いた。

 「それに」

 しかし、更に言葉を続けようとするアスランに、キラは流石に胡乱気な眼差しをアスランに向けた。

 「・・・この前のテスト、悪かったんだろ?」

 キラの瞳に躊躇しながらも、アスランは声量を落としてキラにグサリとくる一言を告げた。

 「・・・・・・・・・・なんでそんなことも知ってるわけ?」

 進学の話を無視したことといい、遅刻の件は兎も角としてキラの先日行われた期末考査の結果までご存知のようだ。

 流石にそこまで知られていると、気持ちが悪い。

 「だってキラ、アルスターにいつも言ってるじゃないか」

 しかしアスランは、そんなキラの心情も知らずに目を丸くしながら答える。

 「え、何。フレイに聞いたの?」

 如何にも胡散臭そうに瞳を細め、キラは問う。

 「違うよ。そんなに彼女と仲良くないし・・・ていうか話したことないし」

 じゃあ何、と瞳で問うてくるキラに、アスランはまた苦笑を浮かべた。

 「聞こえてくるんだよ、自然と。聞きたくなくても。キラ、声量落としてるつもりで丸聞こえ」

 返ってきた答えに、キラは硬直する。

 なんと、自分の声はクラス中の生徒たちに聞こえていたというわけか。

 まあ正確には、アスランが無意識のうちにキラの言葉に耳を欹てていたというのもあるのだが。

 実際、アスランはよく地獄耳といわれる。

 恐らく、それ故にキラの潜めた声も聞き取れたのだろう。

 「もうチャイム鳴るけど、どうする?教室、戻るか?」

 ふと話を切り替えて、自分の時計を見やりながら問うてくるアスランに、キラはハット我に返った。

 「え!?あ、うん、戻るよ」

 キラがそう答えると、アスランは何故だか寂しそうに視線を落とした。

 「・・・アスラン?」

 キラはそんなアスランに怪訝そうに眉を顰め、彼の顔を覗き込んだ。

 「いや。なんでもないよ。・・・そろそろチャイム鳴るから、教室帰ろう」

 と言って、傍らの弁当を片付け始める。

 だが、一向に何も言葉を発さないキラを、今度はアスランが怪訝そうに見やった。

 「どうした?」

 「・・・・・ねえアスラン?」

 不意に、声をかけてくるキラ。

 「ん?」

 何だろうと、アスランは無意識に身構える。

 「今日、一緒に帰ろっか?」

 その、脈絡のない言葉に、アスランは目を丸くする。

 だがすぐに、笑顔を満面に浮かべて。

 「家まで、送るよ」

 仄かに頬を染めたアスランは、照れたように俯いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょっとキラ、どういうことなの!?」

 教室に帰ってきて早々、フレイはキラに食って掛かる。

 キラはそのあまりの勢いにたじろぎながらも、別になんでもないと答えた。

 「何でも無い訳ないでしょう?どこ行ってたのよ、さっきの時間??」

 いつの間にか、周りにはギャラリーの如く沢山の女生徒たちが興味深そうにこちらに耳を傾けている。

 「なんでもないってば!!ちょっと、屋上で・・・」

 「屋上で?」

 「さぼってた・・・だけ・・・・・」

 フレイの言及に、思わず尻すぼみになる声に、キラは内心で焦る。

 忘れていた。

 アスランはこの学校で一番の人気保持者なのだ。

 下手に交際をバラしたら、冗談抜きで苛められそうだ。

 だが、そんなキラの思考を無視して、キラにとっては迷惑極まりない言葉が教室内に響き渡った。

 「俺たち、付き合うことになったんだ」

 アスランである。

 喜色満面で、笑顔を絶やさずクラスメートたちに告げる彼に、キラは思わず固まる。

 「ちょ、アス・・・・・!?」

 反射的に反論しようとするが、それはクラスメートたちによって阻まれた。

 「なんだぁ、終にくっついちゃったわけ??」

 「もう、私ザラ君狙ってたのに・・・」

 「でも、キラが相手なら仕方ないわよね?」

 「そうよね。キラが相手なら、二人お似合いだし」

 そんな言葉の数々が、次々に聞こえてくる。

 キラはわけもわからず、アスランを見上げた。

 するとアスランは、ほら大丈夫だろ?と言わんばかりの微笑を浮かべていて。

 その笑みに、沸々と湧き上がる怒りを、キラは必死で抑える。

 今ここで、不利になるようなことをしたら、折角認めてくれそうなのに、本当に苛められそうだから。

 何とはなしに、キラはアスランの制服の裾を指先で摘んで見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「何あんた、早速この大親友様を一人にする気?」

 アスランと一緒に帰るからフレイは先に帰ってて、と言うキラにフレイは不機嫌を隠すことなくそう言った。

 対するキラは、苦笑を浮かべるしかない。

 「昼だって、何にも言わずにどっかに行っちゃうわ、五時間目を勝手にサボるわ挙句に戻ってきたらザラ君と恋人同士になりました!?

ふざけんじゃないわよ」

 元からの吊り目を更に吊り上らせて、フレイは机に頬杖をつきながら一気に吐き捨てた。

 「う、ごめんなさい」

 言い返す言葉もなく、キラは俯きながらそう答えた。

 そんなキラに反省の色を見出したのか、フレイは一つ大きな溜め息を吐いて頬杖を解いた。

 「ほら、早く行きなさいよ。ザラ君、待ってんでしょうが」

 今度は苦笑を浮かべてそう言うフレイに、キラの表情は徐々に明るくなっていく。

 「・・・うん。ホント、ごめんね?」

 尚も謝ってくるキラに、フレイはまた目を吊り上げた。

 「さっさと行けっつってんでしょうが!!言っとくけど、今度おごらせるからね?」

 キラの背中を押してやりながらぶっきら棒に言うフレイに苦笑を零しながら、キラはわかってるよと答えた。

 実は、キラはフレイがアスランを好きだと言うことを知らなかった。

 クラスメートのほとんどは知っていたが、一番近くにいたキラとアスラン本人だけは気付いていなかったのだ。

 そんな鈍い彼らだからこそ、クラスメートたちも二人の仲に納得したのかもしれない。

 アスランにどんなにわかりやすくアプローチをしても、キラをどんなにわかりやすく口説いても、二人は全然全く気付かない。

 正確には、それを全て冗談だと思っているのだ。

 なんとも、救いようのない話である。

 だが、だからこそアスランもキラも、誰とも付き合ったことがないのだ。

 鈍いからこそ、気付かない思い。

 だがだからこそ、今のキラとアスランが在るのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ごめんアスラン。待った?」

 パタパタと走ってきたと思ったら、開口一番にその言葉。

 アスランは思わず脱力してしまう。

 「え、何?そんなに待った?」

 何故か呆れたように肩を落とすアスランに、キラは首を傾げるばかりだ。

 「そんなことはないよ。けど、随分かかったね?」

 本当はもう三十分は待たされていたのだが。

 思わずもう帰ってしまったのかと疑いたくなるくらい待ったのだが。

 先ほどの脱力は、自分が忘れ去られていなかったことへの安堵である。

 「ごめん、フレイがなかなか放してくれなくて・・・」

 苦笑交じりに言ってくるキラに、そう、ならいいけど、と返す。

 「何だと思ったのさ・・・?」

 アスランの返答に、思わず頬を膨らます。

 まさか、付き合って早々キラが浮気をしているのではと疑ったのではあるまいな、とキラは内心疑惑を抱く。

 「いや。あんまり遅いから、先に帰ってしまったんじゃないかと思って・・・」

 だが、予想外のその答えに、キラは目を丸くした。

 「僕、そんな人でなしに見える?」

 「まさか。俺の被害妄想だよ」

 そう笑いながら答えて、アスランは早々に自分の下駄箱にある靴と、今履いている上履きを代えて、手に取った靴を床に落とした。

 そうして靴を履いて、アスランはまたキラを振り返って。

 「ほら、帰ろう?早くしないと、日が暮れる」

 冗談交じりのその言葉に、なんだよ・・・と小さく返し、キラもまた笑みを浮かべた。

 靴を履き替えて伸ばされた手に、キラはふと首を傾げる。

 「手、繋ごう?」

 夕日をバックに、零れる笑み。

 橙色を取り入れた藍と、逆光でも輝く翡翠に、キラは思わず見惚れる。

 そして。

 「うん」

 頬に熱が集まるのを夕日のせいにして、キラはそっとアスランの手を取った。

 二人の影が寄り添いながら、夕日に照らされる帰路を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

漸く終わった・・・。

たぶんあと一話で終わります。終わらせます。

終わるといいですね。

アスラン、盗み聞きはいかんよ。

なんだかさばさばした二人。こんなアスキラが、好きです。







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Photo by CAPSULE BABY PHOTO