朝、いつものように支度をして、いつものように家を出ると、そこには昨日恋人同士になったばかりのアスランが、微笑みながら立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 昨日の帰りのように他愛ない話をしながら歩いていると、いつの間にかそこは学校で。

 それでもいつもは長いし疲れると言って貶していた階段も、アスランと歩いているととてつもなく短く感じた。

 「ふぁんたじー?」

 思わずそう呟くキラに、首を傾げたのは隣のアスランである。

 「何の話だ?」

 「・・・なんでもない」

 本当に訳がわからないと、有り得ないほどに真面目に首を傾げる彼に、キラはなんだか虚しさを感じて俯いた。

 「そういえばキラ、この前出された課題、やったか?」

 「この前出された課題?・・・って、なんだっけ??」

 今度はキラが首を傾げるので、アスランは大きく溜め息を吐く。

 「ほら、数学の。確か今日までだったと思うけど?」

 途端、サーッと血の気が引いていくキラの顔に、アスランはまさか・・・と呟く。

 「・・・・・・・・・・忘れてました」

 その言葉を合図にするように、ピクリ、とアスランの柳眉が吊りあがる。

 「だから勉強を教えてやるって言ったじゃないか!!」

 「・・・だって・・・・・」

 最早昨日の根源が変な風に捻じ曲がっているような気もするが、この際二人は気にしない。

 「だっても糸瓜もない!!ていうかアレ、相当な量だったぞ!?どうするんだ?」

 「どうするって言ったって・・・・・どうしようね?」

 反論しようとしても、思いつく言葉がない。

 忘れましたと言ってしまえばそれまでだが、なんとも運の悪いことに、キラたちのクラスを担当する数学の教師は、提出物に頗る煩い。

 なので、忘れました、はいそうですか、などと簡単にはいかない相手なのだ。

 肩を落としてげんなりと溜め息を吐くアスランを、キラは恐る恐ると言った体で上目遣いで見つめた。

 「今からじゃ・・・・・」

 「間に合うわけないだろう?」

 「ちょっとでも・・・・・」

 「悪足掻きはやめた方がいいと思うけど?」

 「・・・・・・・・・・じゃあどうすんのさ?」

 「・・・・・・・・・・はあぁ・・・・・」

 アスランの溜め息が重くなるのも、仕方のないことだ。

 「あら、どうしたの、二人してそんな暗い顔して?」

 「フレイ!?・・・あ、おはよう」

 「おはよう。ザラ君も」

 「ああ、おはよう」

 突然現れたフレイに挨拶を済ませると、キラは逡巡しながらも、今の状況を語る。

 すると、返ってきたのは意外にも、あっけらかんとした声だった。

 「それなら心配ないわよ?だってあの先生、休みだもの」

 「・・・・・・・・・・は?」

 キラだけでなく、アスランも目を丸くしてしまう。

 珍しい。あの教師の鑑のような人が休むとは。

 「なんでも、最近流行ってる風邪で、熱がすごいらしくて。生徒に移るとアレだからって、強制的に休まされてるらしいわよ?」

 何故一生徒である彼女がそこまで知っているのかと言うことはさて置き、キラとアスランはホッと息を吐く。

 しかしそれもつかの間。

 「先週のことだけどね」

 そう付け足された言葉に、早く言えとアスランが突っ込みを入れた。

 対するフレイは楽しそうに、嘘に決まってるじゃない。ま、せいぜい耐えるのよ、などと笑いながら去っていった。

 一体なんだったのだ、とアスランたちは顔を見合わせた。

 そうしてクスリと笑うと、キラは更に笑みを深めて。

 「アスラン、数学の課題、出さなくていいじゃん?」

 「ヤだよ。怒られるなんて、真っ平だ」

 冗談半分に言うキラに、アスランも苦笑を浮かべながら返す。

 「じゃあ手伝って?」

 「そのくらいなら、やってもいいかな?」

 そうして二人は、キラの席に向かった。

 「で、どのくらいやってないんだ?」

 「へ?・・・・・・・・・・」

 「キラ?」

 アスランの問いに一向に答えが返ってこないので、アスランはキラを覗き込んだ。

 そして、ハタと思い浮かんだ、『答え』。

 「まさかキラ?全部、とかは言わないよな?」

 「・・・その、まさかだったりして・・・・・?」

 エヘ、と可愛らしく首を傾げるキラ。

 確かに可愛い。悶絶可愛い。だが。

 「怒られるの、確定かもな」

 アスランは決定打とでも言うように、溜め息混じりにそう言った。

 「う、でも、がんばれば・・・・・」

 「はいはい」

 言い募ろうとするキラを適当に往なし、アスランはキラにさっさと教科書を出すように言う。

 「どこまで出来そうだ?」

 「んーじゃあ、五十六ページまで」

 「わかった。じゃあ俺はここからやるな」

 二人で課題を割り当てると、すぐさま二人はルーズリーフに問題を解き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局数学の時間には間に合わず、キラの手助けをしたということもバレ、二人は晴れて廊下行きとなった。

 教師の年齢に際しては結構古いやり方だが、二人一緒と言うのは結構有難いことだ。

 何が有難いかって、二人きりだと言うところだ。

 「なんか、思いかけず二人きりだね。よかったね、バレて」

 「よくない気もするけど、キラと一緒ならいいかな」

 まるで意図して言ったかのように自信満々に言うものだから、キラは思わず頬を染めてしまう。

 「そういえばさ、もうすぐだよね?」

 気分を切り替えようと、キラは口を開いた。

 「何が?」

 教室と廊下を遮る壁に寄りかかりながら、アスランは隣のキラに問い返した。

 「・・・・・今月が何月か、わかってる?」

 「十二月だろ?それがどうかしたか?」

 「・・・・・十二月といえば、ほら?」

 「十二月・・・十二月・・・・・?とおに?ぷらすに?」

 なんだか十二月という漢字で捻って考えているようだが、キラは痺れを切らして答えを言う。

 「クリスマスだよ、クリスマス!!もう、なんで忘れてるかなー??」

 溜め息混じりに言うキラに、アスランはなるほど、と一人納得する。

 「キラに告白することで頭が一杯だったから、そんなことすっかり忘れてた」

 余裕な笑みを浮かべながらキラを見つめるアスランに、彼女はまた顔を真っ赤にした。

 「も、もう恋人同士じゃん!!」

 そう言っていつものように頬を膨らましてそっぽを向くキラに、アスランは笑いをかみ殺しながらもごめんごめんと平謝りする。

 「お詫びに、二人でどっかに行かないか?」

 「え・・・・・?」

 「恋人同士になって初めてのデート。どこがいい?」

 驚いて振り向いたキラに、相変わらず笑みを向けて。

 彼女の表情の変化に、また笑顔が浮かぶ。

 「じゃあ、遊園地!!遊園地行きたい!!」

 先ほどまで怒っていたのが嘘のように、キラは満面の笑みを浮かべてアスランに意見を述べた。

 「わかった。じゃあ、あそこ行こう?あの、駅の近くにあるところ」

 「!うん、僕もあそこ、行って見たいと思ってたんだ!!」

 それから二人が他愛ない話に花を咲かせていると、案の定、扉が勢いよく開き。

 「お前ら煩いぞ!!なんなら校庭でも走って来い!!」

 などと怒鳴られたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、なんだかんだでラブラブな二人は、なんだかんだで終業式を迎えた。

 その、帰り道。

 「そういえばアスランって、頭いいんだよね」

 「まあ、少なくともキラよりかはね」

 そんなアスランの返答に、酷い!と頬を膨らましながら言うと、アスランは笑いながらごめんごめんと言う。

 最近こんなのばかりだ。

 「キラだって、やれば出来るんだから。あと一回、学年末考査で高得点とれば、それなりの成績取れるんじゃないか?」

 そんな彼の提案に、キラはそりゃわかってるけど・・・と俯く。

 キラにはどうにも、勉強と言うものが受け付けない。

 教科書とか見ると、なんだか知らぬ間に眠っているのだ。

 それでも、物覚えがいいことはアスランの保障つきである。

 「教えようか?」

 「・・・・・ところでアスランって、進学先決まってるの?」

 その話から遠ざかりたくて、取り敢えずアスランの進学先をまだ知らないこともあって、キラは素直に聞いてみた。

 「俺?・・・・・は、その・・・決まってるよ」

 なんだろう、なんだか、違和感がある。

 そう感じたのは気のせいだろうかと内心で首を傾げるが、キラはすぐに、それって大学?と切り替えしてきた。

 「ああ、キラと同じ大学だよ。試験会場も一緒だったけど、気付かなかった?」

 そう聞かれてみると、あの時確かに周りの女生徒たちが煩かったような気もする。

 だが、彼本人を覚えているかと問われると、首を左右に振りざるを得ない。

 アスランはそれに、そうか・・・と答えるだけだった。

 その横顔が、どこか寂しそうで。

 「ごめん・・・」

 思わずそう、口にしていた。

 「いいよ、別に。何も言わなかった俺も悪いんだから」

 苦笑交じりにそう言うアスランに、じゃあアスランは気付いてたんだ?と問うた。

 「当たり前だろ?その、好きな子を気付かないなんてこと、あるわけないだろ?」

 ほんのりと頬を染めながら呟く彼が、なんだか可愛く感じられて。

 「ところでアスランって、いつから僕のこと、その、見てたの?」

 これは告白された当初から、少し気になっていたことだった。

 折角なので、聞いてみる。

 すると、何故だか彼はドキリとしたように立ち止まった。

 「アスラン?」

 「・・・・・・・・・・なんでもないよ。そうだな。今は、内緒」

 今はまだ、言えないこと。

 きっといつか、そう遠くないいつか。

 自分の口から、言えるかどうかはわからないけど。

 けれどきっといつかは、伝えるから。

 だからどうか、その日まで。

 この答えは内緒にさせて?

 「アスランってば?」

 アスランの思考を、遮るキラの声。

 ああ、愛しいと。思わず抱きしめたくなるくらい、愛しいと。

 思わず伸ばした手に、不思議そうに首を傾げる君が、愛しくて、愛しくて、堪らない。

 この気持ちに嘘はないんだと、彼女に教えるかのように。

 アスランはキラを、その腕の中に閉じ込めた。

 寒い、寒い、冬。

 だけれども、二人抱きしめあえば、消えていく寒さ。

 寧ろ暖かい互いのぬくもりに。

 終わりが来るのは、いつだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

一先ず、終了です。

次は完全なるクリスマスです。

ん?イブか?その前にイブか?

あ、数学教師はナタルさんです。

名前出てこなかったけど、一日早いハピバ記念です(ナタルさんファンに怒られそう)。

付き合って未だ二日なのに、熟年カップル並みのラブラブっぷりを発揮しているアスキラは、流石です。







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Photo by CAPSULE BABY PHOTO