「三ヶ月だけでいいんだ。俺と、付き合ってくれないか?」 T 学校一格好良くて。 学校一頭が良くて。 学校一お金持ちで。 学校一優しくて。 学校一頼りになって。 上げればキリがない、“学校一”の代名詞が付いてまわる名前といえば、一人しかいない。 きっとこの学校に通うものなら、誰でもこう答えるだろう。 『アスラン・ザラ』と。 噂に寄れば、彼はとても病弱らしい。 一ヶ月に一度は必ず休む。 特に、今年も後もう少しで終わるこの頃は、よく休んでいたらしい。 らしい、というのは唯単に、キラが朝遅刻してくるので、アスランが休んでいることを知らないからだ。 否、普通の女子ならば、同じクラスならば特に、アスランのことを聞いて回るだろう。 それなのに、キラはアスランが休みだということを知らないまま一日を過ごす。 そもそも、キラが彼の存在を知っているのかどうかさえ怪しいものがある。 出席番号も離れているし、席も近くなったことなど一度もない。 部活だってキラは入っていないし、アスランも然りであるから、本当に接点という接点がない。 強いて言うのならばやはり、同じクラスであるということぐらいだろうか。 もう十二月だというのに、二人は未だに喋ったことがないくらいだ。 そのことにクラスメイトたちが何も言わないのは、唯単に二人が親密な関係にならないのを願っているからだ。 本人は気付いていないものの、キラははっきり言って絶世の美女と言っても過言ではない。 澄んだ紫水晶に、サラサラと風に抗うことなく靡く鳶色の髪。アスランと引けを取らないほどに整った顔立ちに、見惚れないものはいないほどだ。 唯一興味を示していなさそうなのが、彼のアスランである。 彼もまた、キラと同じように彼女に興味を示してはいなかった。 そうして、あと一週間でクリスマスという、今日この頃。 キラは漸く弁当にありつける、と移動教室から戻る道中、突然話したこともない彼に、呼び止められたのだ。 そうして連れてこられたのは、何故か体育館裏。 まさか、知らぬうちに彼の逆鱗に触れるようなことでもしたのだろうか、などと思案していると、またしても突然の出来事。 キラが目を丸くし、手から教科書がパタパタと地面に落ちていっても気付かないほどに驚いた、光景。 目の前の彼が、キラに旋毛を見せていたのだ。 否、正確に言うと、キラに頭を下げていたのだ。 何事かと慌てて頭を上げるように言うと、彼は勢いよく頭を上げて、冒頭の言葉を言ったのだ。 「・・・・・・・・・・」 思わず、固まってしまうのも無理はない。 だって彼は今まで誰に告白されても付き合わなかったという。 何でも、好きな人がいるとかで。 それなのに、何故自分が告白されているのだろうか。 もし。もしも。百歩、否千歩譲って彼が自分を思っているとする。 ならば何故、彼は今まで自分に話しかけてこなかったのだ。 普通、好きな人には話しかけて、少しでもポイントを稼ぐものではないのだろうか。 否、若しかしたら彼は、恥かしくて話しかけることは愚か、目を合わせることすら出来なかったのかもしれない。 などと仮説を立ててみるも、やはり合点がいかない。 「・・・なんで?」 なので、取り敢えず尋ねてみることにした。 すると、尋ねられるとは思っていなかったのか、今度は彼が目を丸くした。 「え・・・なんでって、その・・・好き、だから」 目を逸らしながらそういう彼。若しかしたらキラの後者の仮説は、当たっているかも知れない。 「どこが?」 間髪入れずに問えば、アスランは戸惑いつつも顔を赤くしながら口を開いた。 「どこが!?それは・・・優しい、ところ、とか?」 優しいところ?初耳だ。 冷めているとかはよく聞いたことがあるのだが。 「・・・そう。いいよ」 「・・・・・へ?」 短く返事をしたのだが、彼にはどうやら伝わりきらなかったようだ。 「だから、いいよ、付き合っても」 その言葉を聞いて、アスランは、しばらく固まっていた。 まるで、信じられない、とでも言うように。 チクリ、と胸が痛みを訴えたような気がしたけれど、キラは無理やり知らん振りした。 やがて浮かべた満面の笑みに、キラまでも赤面してしまった。 その笑顔が、あまりにも純粋に見えたから。 穢れを知らない、無垢な子供のそれに、見えたから。 キラは自分の赤面した顔を見られたくなくて、クルリと彼に背を向けた。 「じゃあ、一緒にお昼、食べよっか?」 何故だか自分の口から出てきた誘いの言葉に、自分自身が首を傾げる。 若しかしてこれは、自分自身の照れ隠しだろうか。 なんだか、新鮮な気分だ。 「ありがとう」 まだ、さっきみたいな顔をしているのだろうか。その声はとても、嬉しそうで。 「どういたしまして」 自然と零れる笑顔が、気持ちが、なんだか温かくて、くすぐったくて。 こんな自分、初めてで。 キラはなんだか恥かしくなって、さっさと歩き出してしまう。 しかしふと、足を止めて。 「屋上に、いるから」 と、振り向きもせずに言って、走ってその場を後にした。 来てしまった。 自分から言っておいてなんだけど。 というか、自分は馬鹿だろうか。 こんな寒いのに、何故屋上を選んでしまったのだろう。 けれど、風はないし雲もないし、何より屋上は太陽に近いぶん結構暖かかったりする。 キラは高いフェンスの方に歩み寄り、そこに腰掛ける。 コンクリートが、冷たい。 ブランケットでも持ってくればよかった、などと後悔しても、キラにはもう取りに戻る気がない。 元来、キラは面倒くさがり屋で、こういう色恋沙汰は面倒ごとだといつも避けてきた。 けれど何故、今回彼の告白を受け入れたかというと、彼の誠意を知っているから。 彼は自分を好きだといってくれた。 諦めるでもなく、他の誰かと付き合うでもなく、真っ直ぐに告白してくれたんだ。 今まで自分に告白してきた人の中には、彼のように真っ直ぐ自分を見てくれていた人もいたのかもしれないが、皆キラの知らない人 だったので、なんだかそういう男女の付き合いというのが面倒に感じられて、避けてしまっていたのだ。 だから彼が、キラが知る唯一信頼できる気持ちを持っている男子なのである。 「それにしても、遅いなぁ・・・」 折角、信頼できると思ったんだけどな。 キラはこう見えて、時間には煩い方である。 時間は指定していないにしろ、キラのお腹はお弁当を待ち望んでいるのだ。 早く食べたいではないか。 先に食べてもいいのだろうが、そうすると、なんだか彼を傷つけそうで嫌だ。 なので、大人しく待つことにする。 そうしてしばらくそのまま待っていると、何故だか睡魔が襲ってくる。 暖かいせいかもしれない。 うつらうつらと、頭がカクンカクン揺れる。 次第に閉じていく瞳。 キラは静かに夢の中へと旅立った。 かのように見えた。 「危ない!!」 突如聞こえた声に、ハッと目を覚ますと、傾ぐ身体。 咄嗟に目を瞑ったけれど、訪れるはずの衝撃は何時までたっても訪れない。 恐る恐る目を開ければ、そこには男子の制服を纏った男子。 否、当たり前だが。 徐に視線を上の方にやれば、先程自分に告白してきた、アスラン・ザラ。 どうやら自分は、座ったまま眠ってしまったらしくて、コンクリートに激突しそうだったらしい。 「ご、ごめん・・・つい、寝ちゃった」 苦笑交じりにそう言えば、何故だか怒ったような表情をする彼。 不思議そうに彼を覗き込めば、帰ってくるのは思いも寄らない怒号。 「危ないだろ!!寝るんならせめて、フェンスに背中を預けた方が・・・って、ご、ごめん、こっちこそ」 勢いよく怒ったかと思うと、急にパッと身体を離す彼。 アスランの手が、キラの肩を支えたままだったのだ。別に、いいのに。 「ううん。悪いの、僕の方だし。それより、どこか行ってたの?」 そう尋ねると、またもごめんと返ってくる。 「先生に呼び止められて、ちょっと話に付き合わされてたから・・・。先に食べててくれてよかったのに」 苦笑交じりにそう言われれば、なんだかちょっと腹が立ってくる。 「先にって・・・君を待ってた方がいいかなって思って待ってたのに・・・」 頬を膨らましながら俯くキラに、アスランは目を剥いて慌てる。 「わ、すまない!!訂正!!俺が悪かった。うん。本当に、ごめん」 彼があまりに慌てるものだから、キラは思わず吹き出してしまう。 くっくっく・・・と喉を鳴らす音が、二人以外誰もいない屋上に小さく響いた。 「ヤ、ヤマト・・・・・?」 怪訝そうに問うてくるアスランに、キラは涙混じりにごめんと答えた。 「だって、あんまり君が、真剣に謝ってくるから・・・」 そう言うと、心外だとでも言うように、アスランは眉を顰めた。 「ごめんってば。ほら、食べよ?時間・・・・・」 時間がなくなる、と言おうとしたその時、丁度チャイムが鳴った。 時計を見れば、何故だか予鈴ではなく本鈴の時間だ。 不思議そうに時計を見ていると、アスランが覗き込んできて。 「どうする?昼抜いて、戻るか?」 その言葉に、キラはしばし考える。 じっとアスランを見つめて、じっくりと。 対するアスランは、思いを寄せていて、しかもつい先程彼女になったばかりのキラに上目遣いに見つめられて、気が気じゃない様子だ。 「な、何か?」 「いいよ、先帰ってて。僕、食べたら行くから。君、授業サボったことないでしょ?」 そう言うキラも、授業をサボったことなど一度もないが、なんだかもう、出る気がないのだ。 キラの言葉に目を丸くしたアスランだが、直ぐにそれが先ほどの自分の言葉へのお返しだと気付き、苦笑を浮かべた。 「ヤマトもだろ?お互い様だよ」 そう言って、断りなくキラの隣に腰を落ち着かせる。 「そだね。・・・ところで」 苦笑交じりに言って、突然話題を変えるキラに不思議そうに顔を向けるアスラン。 「キラって呼んでよ。ファミリーネームじゃなんか、つまんない」 つまんない、というのは御幣があるような気がするが、アスランにはそんなことを気にしている余裕はなかった。 「っ本当に!?キ、キラって呼んでも、いいの?」 突然身を乗り出してくるアスランに、笑顔を引き攣らせながらもコクコクとしきりに頷けば、アスランの満面の笑みに磨きがかかる。 「・・・そんなに喜ぶこと?」 ふいに素朴な疑問が思い浮かび、そのまま問うてみると、勿論と大仰に頷かれた。 「キラも、俺のことアスランって呼んで?」 頬をほんのりと赤く染め、満面の笑みで言われれば、拒否できるわけもなく。 「わかった・・・・・」 何故か、期待を込めて見つめてくる、翡翠。 「・・・・・・・・・アスラン」 途端に零れる笑顔に、キラも頬を赤く染めた。 あとがき 当サイト初の、シリーズ物でございます。 しかしどうしてうちの話はどれもアスラン至上がありありとわかる文章が満載なのでしょうか。 なんだこの、可愛いアスランはVv(←この辺がもうダメだ) さて、この話は、わかると思いますがXmasの一週間前の話です。 取り敢えず、付き合うのが期限付きだということを管理人自体が途中からすっかり忘れていました。 でもこれには深いわけが・・・。 それでは、感想等があればお気軽にどうぞ。 TOP/ U |