いつものように起床して。 いつものように登校して。 いつものように学校生活を送って。 いつものように帰宅して。 ただいま、とソファで紅茶を飲んでいる母に声をかけた、直後。 「キラ。今日お見合いだから、早く準備しなさい」 と、言われたのだ。 T キラ・ヤマト。 それが僕の名前である。 業界でも結構名の知れているヤマト物産の一人娘である。 学校は私立で、女子高ではないにしろ、それなりにレベルの高い学校に通っている。 通う生徒も金持ちがほとんどで、キラのようなご令嬢は勿論のこと、ご令息も大勢通っている学校である。 それ故、授業以外では権力のある者に、権力の弱い者がゴマすりをしたりと、意外に大変な学校でもあるのだ。 兎に角何が言いたいかというと、僕はいつ婚約者を決められてもおかしくない環境にいるということだ。 跡継ぎにも影響してくる大事な問題である。 どこの馬の骨とも知れない人物に、その大事なことを任せるわけがないではないか。 よって、婚約をする件に関しては、僕は既に了承済みではあるのだ。 それは偏に、幼少の頃からの英才教育の賜物でもあるのだが。 それにしても、と溜め息を吐けば、傍らのメイドが、幸せが逃げてしまいますよと苦笑を浮かべながらも、着物の着付けをする手を 忙しなく動かし続けている。 「・・・ねぇ、僕の婚約者のこと、母さんから・・・・・」 「聞いていませんよ、何も」 僕の疑問に間髪入れずに返してくるメイドに、本当は知っているのだろうなと思いつつも聞くことを諦めた。 ここの家で働くメイドたちは、母の教育からか、絶対の口の固さを持っているのだ。 まだ高校生の僕が、そんな彼女たちに勝てるわけがないではないか。 そう思ってしまうのも、今まで何度もその頑なさに負けてきた経験故である。 しかし、どうして自分の婚約者を、母もメイドたちも教えてくれないのだろう。 その疑問に頭を擡げた丁度その時、着付けが終ってメイドが出来ましたよお嬢様、と明るく笑った。 「ありがとう」 一言言って、母の元に向かおうとして。 「あの、キラお嬢様?」 遠慮がちな声に、僕は何?と言いながら振り返った。 「あ、いえ・・・・・お気をつけて、いってらっしゃいまし」 何か言いたそうにしていたが、頭を下げた彼女からは表情を窺うことは出来ず。 「?うん、行ってきます」 苦笑を浮かべて、今度こそ踵を返したのだった。 「ていうか遅い」 待ち合わせは六時だと聞く。 それなのに、相手は待ち合わせ時間に三十分も遅刻をしているのだ。 「母さ・・・・・お母様。私、帰ってもよろしいでしょうか?」 ついついいつもの癖が出てしまったが、笑って誤魔化した。 けれどそれは、母の恐ろしいまでに美しい笑顔に、言外に怒られてしまった。 「ダメよ。相手は今度、うちと提携を結ぶ社のご子息なのよ。今断ってしまったら、私たち、路頭に迷うことになってしま うやも・・・」 頬に手を当てながら、わざとらしく悲しそうに言葉を紡ぐ母に、僕の頬は引き攣った。 「先方はお忙しい方だから、きっと仕事がたくさんお有りなのでしょう」 にこりと微笑まれながら言われたら、僕には最早言い返せる術などない。 「・・・・・わかりました。待ちます」 憮然とそう言って視線を逸らすと、膝の上に置いた母側の手を思い切り抓られた。 その痛みに声を上げる間もなく、突然、遅れて申し訳ない、という壮年の男性の声が聞こえた。 母はその声に反応して立ち上がり、僕はその後に続いて声のした方を見た。 そして、僕の思考は止まった。 完全に、フリーズ状態である。 世間一般でよく頭が真っ白になると聞いたことがあるが、まさに今がその瞬間だと、妙に納得がいった。 「初めまして、パトリック・ザラと申します。コレは私の息子で・・・」 「アスラン・ザラぁ!?」 やがて落ち着いてきた思考で、目の前に立つ人物の名前を必至で思い出し、指を突きつけて叫んでしまった。 全く落ち着いていない、というのは、この直後思い知ったのだ。 背中が、痛い。 母に抓られて、痛いのだ。 ああ、物凄く痛い。 ていうかそろそろ離してくれないかな。 「あ・・・・・ヤマト、さん?」 漸く気付いたのか、目の前の彼は不思議そうにこちらを見てきた。 若しかして、彼もこの婚約のことを知らなかったのだろうか。 藍色の髪は長めで、前髪は掛けた黒縁メガネも隠すぐらい長く、その表情を自ずと隠していた。 クラスでも一度は話題になった、『根暗君』。 その人物の名前は、言わずもがな目の前にいる彼、アスラン・ザラであった。 ザラコーポレーションは有名だが、彼は悪い意味で有名だ。 そんな彼が、自分の婚約者なのだと。 今、この状況が語ってくれる。 ああ、先が思いやられる。 僕は彼を指した指を仕舞わないまま、そう独りごちたのだった。 あとがき 拍手してくださって、本当にありがとうございます。 レスは日記でこっそりと。 そしてオマケにこんな駄文でしたが。 アスキラ♀、アスラン根暗っ子です。 偶にはほのぼのとかギャグとか書きたいなと思いまして。 そんでもってこれ、続き物です。 拍手で連載ってアリですよね?アリってことで。 それでは、本当に拍手ありがとうございました。 |