あの後、フレイに「疲れたから帰る」とメールをして、そのまま帰宅した。 U 帰って早々自室に籠もってしまったキラを心配したのか、父であるハルマがカリダに代わってキラの部屋をノックした。 「キラ、どうしたんだ?何か、あったのか?それとも、具合でも・・・?」 「ごめん父さん・・・ちょっと、一人にしといて」 扉越しに聞こえたくぐもった声に、ハルマは眉を顰めた。 一体娘の身に何が起こったというのだろうか。 しかしハルマはそんなこと、声音には出さずに勤めて明るく言う。 「夕飯出来たら呼ぶから、それまで休んでいなさい」 そう言って、名残惜しそうにキラの部屋の前を後にした。 残されたキラは、ベッドの中で蹲り、枕に顔を埋めていた。 涙は、無い。 ただ不安だけがキラの思考を占めているのだ。 見てしまった。 アスランと、知らない女の子が一緒にいるところを。 とても、綺麗な子だった。 ピンク色の髪は腰まであるにも拘らず、きちんと手入れが行き届いていてとても艶やかで。 優しい空色の眼差しは、真っ直ぐにアスランへと向けられていた。 とても綺麗で、美しくて、大人っぽい少女。 自分なんて目じゃないほどに、輝いて見えた。 彼女は一体、誰なのだろうか。 まさか。 キラの中に、ずっと渦巻いている疑惑。 「・・・わかんないよ・・・・・アスラン・・・」 呟くのは、無意識の内。 けれど声に出したことで、一層その不安が大きく成長してしまった。 自分を好きだと言ってくれた、あの時。 確かに彼は、自分を真っ直ぐに見てくれていた。 それからも、アスランはキラ以外の女生徒とは滅多に話さなかったし、そもそもアスランの色恋の噂は聞いたことが無かった。 けれど、どうにもキラには、あの二人が友達とか、そんな薄っぺらな関係には見えなかったのだ。 もっとこう、深く親密な関係に見えたのだった。 そんなことを考えているうちに、自然と浮かび上がる涙。 ああ、自分は泣き虫だな・・・とまるで第三者になったかのように、人事のように思う。 そうして、何分経っただろうか。 再び、部屋の扉がノックされたのだった。 久方振りに帰ってきた母に、キラのことを話してみた。 「あら、漸く話できたのね」 すると、帰ってきたのはそんな言葉。もう少し、言い様と言うものがあるだろうに。 「でもよかったわ。これで心置きなくカリダの家に行けるわ」 「・・・は?」 満面の笑みで言う母に、アスランは思わず間の抜けた声を出してしまう。 「いつですか?」 「今よ」 アスランの問いに間髪入れずに答える母に、アスランは目を丸くする。 「今って、何しに・・・?」 「クリスマスパーティーよ。前から計画してたのよ、カリダと」 本当に、いつの間に仲良くなっていたのだろうか。 「というわけだから、アスラン。支度しなさい」 「え、俺も行くんですか!?」 目に鱗、とでも言うように辟易するアスランに、当然とばかりにニコリと笑う母レノア。 母は強とはよく言ったものだ。 そうして準備をして、家を出たのが数分前。 「あらいらっしゃい」 家が目の前なので、そんなに寒い思いなどせずに目的の家に着く。 「お邪魔するわね、カリダ」 「はいはい。どうぞー、アスラン君も」 レノアに簡単に挨拶すると、すぐにアスランの方を向いて笑いかけてくるカリダに、アスランは軽くお辞儀をした。 そうして中に入ると、そんなに大きくはないが、緑のクリスマスツリーが端の方に置いてあり、その傍らに座り込んで何やら飾り付けをしている 一人の壮年の男性が目に入った。 「ほらあなた、レノアとアスラン君が見えたわよ」 その声に漸く気付いたハルマは、振り返って微笑を浮かべた。 「ああ、いらっしゃい。話はカリダから聞いていますよ。アスラン君も、キラと仲良くしてくれているようで・・・」 後半の方に何やら棘のようなものを感じたが、アスランは無理やりそれを無視してこんばんは、お邪魔しますと頭を下げた。 「・・・・・あの、キラは?」 グルリと辺りを見回してもキラの姿が一向に見当たらないので、カリダに尋ねてみた。 するとカリダだけでなくハルマも途端に表情を暗くして、アスランは何か悪いことでも言ってしまったのだろうかと思う反面、心の中で昼間のこと を振り返った。 「今、部屋にいるんだけど・・・アスラン君、悪いんだけど、呼んできてくれないかしら?」 苦笑を浮かべながら言ってくるカリダに、そう迷うことなくわかりましたと頷いたアスラン。 若しかしたらキラは、誤解をしているかもしれない。 そんな気が、するのだ。 アスランは複雑な思いに眉を顰めながら、何日か振りのキラの部屋に向かって行った。 「キラ、いる?」 ノックをしても声が返ってこないので、取り敢えず確認を取るべく声をかける。 けれどやはり何も返ってこないので、アスランは入るよと言ってノブを回した。 途端、何かが視界の隅に入り、アスランは咄嗟に身を捩った。 「ちょ、何するんだ、キラ!?」 飛んできたのは恐らく枕。それをアスラン目掛けて投げたのは、言わずもがなキラである。 「何するも何も無いじゃないか!!何勝手に入ってきてんのさ!!」 そう言うキラの声は、心なしか震えていた。 「キラ・・・・・」 怒るキラを気にも留めず、アスランは彼女に一歩一歩近づく。 それに怯えたかのように、キラは手近にあるぬいぐるみをまたもアスラン目掛けて投げつけた。 アスランは今度はそれを避けることなく、パシリと手の平で受け止めた。 そのぬいぐるみをベッドの上に座るキラの手に戻す時には、キラはもう諦めたかのように俯いていた。 「やっぱり、キラだったんだな」 ピクリ、と揺れる肩。 「ショッピングモールで、見たんだろ?」 しばしの間の後、徐に首を縦に振るキラ。 アスランはやはり、と深く溜め息を吐いた。 その気配に反応したのか、キラの体が震えたかと思うと、パタリパタとシーツの上に滴る雫。 「キ、キラ!?」 慌ててキラの肩を掴むが、それは直ぐに弱々しい手に払われて、虚しく空気を掴んだ。 「・・・キラ・・・・・」 キッと顔を上げたキラの紫水晶は、常とは違い充血してアスランを睨み据えていた。 「ごめん、キラ」 驚いたように、見開かれる瞳。 「・・・・・な、んで、謝るのさ・・・?」 先ほどよりも、震える声に。 「キラを、泣かせてしまったから」 苦笑を浮かべて、そう答えた。 心なしか、安堵したようなキラの瞳に。 「本当に、ごめん」 吸い込まれそうなほど、澄んだその瞳に。 「・・・・・アス、ラン・・・」 誠意を込めて、謝らねばと。 「昼間、一緒にいたのは、俺の従姉弟だよ」 そしてきちんと、説明しなければと。 「もう一人いたんだが、丁度どこかの店に行ってたみたいでいつの間にか迷子になってたんだ」 きちんと、誤解を解かねばと。 「俺と一緒にいたのはラクス。もう一人はミーア。二人とも似てるけど、俺と従姉弟なんだよ。今日は買い物に付き合わされて・・・」 だが、言い終わらないうちに、突然の衝撃。 「・・・キラ」 キラが、我慢できないとばかりに、アスランの胸に飛び込んできたのだ。 きっと、不安で不安で堪らなかったのだろう。 何しろ彼女は、見てしまったのだから。 噂とか、そう言うんじゃなくて、現場を見てしまったから。 だから余計に、リアリティがあって。 涙を流してしまうくらい。部屋に籠もってしまうくらい。 けれどそれくらい、アスランのことを思ってくれているのだとも言えることに、アスランは不謹慎ながらも笑みを浮かべてしまう。 けれど、何時までもこうしていられるわけがない。 「キラ、大丈夫か?」 そう言いながら彼女の顔を覗き込むと、アスランは思わず固まってしまう。 何せ、明かりは電気がついていない為、外からの月明かりしかない。 そしてそれに加えて、涙に濡れて妖艶に輝く紫水晶。 泣き腫らした赤い瞳が、どこか庇護欲を掻き立てられて。 それと同時に、底知れない何かがアスランの胸中を支配した。 まるで野に咲く花のように、それは美しく、可愛らしく。 アスランを惹きつけるかのように、目の前にあれば。 自然、瞑る目に何かを感じ取ったのか、キラも同じく紫水晶を隠してゆく。 そして。 そっと輝く月明かりに照らされながら、二人はまるで神聖なる儀式のようにそっと唇を重ねたのだ。 初めての、接吻。 キラにとっても、アスランにとっても。 初めての、温もり。 ずっとこのまま、離れたくはないと。 思うのはきっと、二人一緒だろう。 けれどいつかは、離れなくてはならなくて。 二人は名残惜しそうに唇を離した。 触れるだけの、軽いキス。 それでも今、確かに二人は通じ合ったのだと。 キラも、アスランも信じたくて。 二人はまた、接吻を交わしたのだった。 あとがき はい。イブはこれでお仕舞いです。 なんだかなー。まだ付き合って一週間も経ってないのになー。 ちょっと喧嘩(?)な二人が書きたかったのです。 T/ TOP |