とうとう明日はクリスマスという、イブの日。 キラは明日のアスランとの初デートの為に、服を買いにフレイと共にショッピングモールに来ていた。 勿論、アスランへのクリスマスプレゼントも買いに来たのだが。 それにしても、物凄い人だ。 流石のフレイも疲れているようで、キラは一先ずお茶にしようと近くの喫茶店を指差した。 キラはあまりの人の多さに顔を青くしているフレイの背中を擦ってやりながら、その喫茶店に足を踏み入れた。 T どこにでもある、普通の喫茶店だ。 適当に空いている席を見つけ、キラはそこにフレイを腰掛けさせて自分もその向かい側に座った。 「ありがと。もう大丈夫よ」 未だ青い顔をしながら言われても説得力の欠片もないが、取り敢えずどういたしましてと言っておく。 「何にする、フレイ?僕はココアにするけど」 メニューを眺めながらそう言うと、フレイは紅茶でいいわと答えて椅子の背凭れに体重をかけた。 それを聞いてキラは店員を呼び、ココアと紅茶を注文する。 そして店員が去っていったのを見計らって、少しは回復したのであろう、フレイが口を開いた。 「で、あんた、ザラ君とはどうなの?」 そういえば、フレイはあの数学課題事件からキラとアスランの関係については何も言って来なかった。 様子見でもしていたということだろうか。 「どうなのって言われても・・・普通?」 「何それ。そうじゃなくて、どこまでいったのよ??」 興味津々と言った体で身を乗り出してくるフレイに、キラは反射的に身を引く。 それと同時に、顔だけでなく耳までも真っ赤する始末だ。 「どどどどどこまでって!?」 「もうキスとかしちゃったわけ?」 ニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべつつ、フレイはそんなキラの反応を楽しそうに見物する。 「そ、そんなっとこまでっいってないよ!!」 あまりの恥ずかしさに、声が途切れがちになってしまう。 予想以上の焦りように、フレイは我慢できないとばかりに噴出した。 「あっはっは!!もうキラ可笑しすぎ!!あー可笑しい」 腹を抱えて目尻に涙を浮かべて、フレイは本当に可笑しそうに笑う。 それと反比例してキラの機嫌が悪くなるのは、当たり前と言っても過言ではないだろう。 「フーレーイー!!!」 声のトーンを低くしても、フレイは一向に笑い止む気配を見せない。 そんなフレイに諦めたのか、キラは一つ溜め息を吐いた。 そこに丁度、時を見計らったかのようにココアと紅茶が運ばれてきた。 キラは未だ笑い続けるフレイを尻目に、ココアをスプーンで掻き混ぜる。 確かに、キスは未だだ。 そういうことはやはり、雰囲気によるものだろうし。 この前突然抱きしめられた時は驚いたがすぐに解放されたので、キラはそう言う雰囲気を感じたことはない。 だが実際、アスランは毎日のように理性を総動員して自らを抑制しているのだが。 それに気付かないキラは、罪作りに近い。 「あー笑った笑ったー」 漸く笑いが収まったのか、目尻に浮かんだ涙を人差し指で拭いながら、フレイは紅茶に砂糖を入れ始めた。 「ご苦労様でした」 キラにそう言わせるほどに、フレイは笑っていたのだ。それはもう、苦しそうに。 「それにしても、まだそこまで行ってないとはねー。意外だわ」 本当に意外そうに言ってくるものだから、キラは自らの内に不安を感じた。 「意外って?」 「だってあんたたち、有名よ?」 有名?付き合うようになってから終業式までは五日しかなかったはずなのに、何故。 「ほら、休み時間となれば二人一緒にいるし、離れたとこ見たことないし、お昼だってあんた、毎日一緒でしょ?」 そりゃ有名にもなるわよ。あんたたち周りお構いなしなんだから、と続けるフレイに、キラ自身肩身が狭くなる。 なんというか、恋は盲目と言うやつだろうか。 アスランといると、どうも周りが見えなくなってしまうのだ。 だからこそ、人目も気にせず一緒に、人様に言わせるならばイチャついていられたというわけだ。 「でもホント、意外よねー」 如何にも感慨深そうに言うフレイに、何が?とキラは小首を傾げて問う。 「あんたは知らないだろうけど、男と付き合ったことないからって男に興味がないだの、あんまり人と付き合わないから冷たい人間だのって、 悪い噂も流れてた時期もあったのよ?そんなあんたが、男子。それも凄い人気のあのザラ君と付き合うなんて。しかもラブラブ。意外も意外よ」 そう言って熱い紅茶を吐息で冷ましながら啜るフレイに、キラはへーそんな噂が流れてたんだと大して気にした風もなくカップの中でスプーンをまわした。 やはりキラはキラだ。というか、恋が盲目なのではなく、キラの性格自体が盲目なのではないかとフレイは最近になって思うようになった。 「ところでキラ。これ飲んだら次どこ行く?」 「うーん・・・アスランにプレゼント買いたいし・・・・・何がいいと思う?」 逆に聞き返すキラに呆れたように溜め息を吐くと、フレイは面倒そうに言葉を紡いだ。 「そんなことは自分で考えなさいよ。そういうのはあんたの仕事。私はあんたに付き添うだけ。わかった?」 「はーい」 フレイの言葉に最初から反論する気がないのか、キラは相変わらずココアを掻き混ぜる。 「ていうかキラ、いつまでスプーン掻き回してるつもりよ?」 一向にココアを飲まないキラに、フレイは痺れを切らしたのか怪訝そうに問うた。 「猫舌なんだよ」 その返答に、少なからず驚いたのか。 「初耳だわ」 フレイは珍しく、目を丸くした。 「次はどこに行きましょうか、アスラン?」 そう言うのは、ピンクの腰まである長い髪を背中に流し、優しげな印象を与える空色の瞳を持つ少女だ。 それも、あのアスランに並んでも全く違和感を感じさせない、寧ろお似合いとまで言われそうな程の美貌を持った少女。 彼女は天使のような微笑を湛えながら、アスランを覗き込んでいる。 対するアスランはどうでもよさそうに、明日のキラとのデートについて思考を没頭させる。 「仕方がありませんわね。それにしても、ミーアさんはいったいどこに行ったのでしょうか?」 そう言って、少女は小首を傾げて顎に人差し指を添えた。 「さあ?さっきまでいたと思いますけど・・・それよりラクス?」 ふと思考の渦から抜け出すと、アスランは目の前の少女、ラクスを顧みた。 「はい、なんでしょうか?」 漸く自分と会話をする気になったアスランに半ばうれしそうに、ラクスは笑みを深めた。 「まだ買い物する気ですか?」 そう問う彼の両手には、複数の店の袋たち。 いくらアスランでも、いい加減腕が痛くなってきた。 「あらまあ。意気地がないですわね」 悪びれた風もなく、ラクスは不安げに眉を顰めた。 「意気地とか、そう言う問題じゃないと思いますが?」 不機嫌に眉根を寄せ、アスランは声音を低くする。 「まあいいじゃありませんか、イブくらい」 そう言って笑みを零すと、ラクスは何事もなかったように歩き出した。 そのさり気なさにアスランはしばらく固まるが、直ぐに気を取り直してラクスの後を追おうとする。 だがふと、誰かに見られているような気がして、首をめぐらすと。 宝石店のショーウィンドウに、見知った姿が映っていて。 それが店の中ではないと気付くや否や、アスランは慌てて振り返った。 「キラ!?」 確かに、彼女の姿が映っていた。 ガラスに反射しているだけなのでわかり難いが、確かに鳶色の長い髪に紫水晶の瞳が見えたのだ。顔立ちも、彼女と同じだった。 なのに。 振り返った先には、彼女はいなくて。 アスランの中に、虚しさが生まれた。 あれからしばらく喫茶店で寛いで、二人は漸く立ち上がった。 お代をそれぞれで出して、店を後にする。 そうして二人は、適当な店に入る。 散々迷った挙句キラが出した答えは、取り敢えずいろいろな店に行っていろいろなものを見て決める、と言うものだった。 そんなキラに呆れ半分、自分もいろいろと見てみたいのも半分、フレイは溜め息を吐きながらもキラの後に続いた。 そうして三軒目の店に入ろうとした時。 キラはふと、足を止めた。 「キラ?」 それを怪訝そうに見やり、フレイもまた立ち止まる。 だがすぐに目を見開く。 突然、キラが走り出したのだ。 「ちょ、キ・・・・・!?」 キラ、と叫ぼうとしたが、突然足を動かしたことによって足が縺れて不覚にも転んでしまった。 咄嗟に地に手をついたが、痛いことこの上ない。 「っもう!知らないんだから!!」 そう言ってフレイは、ゆっくりと立ち上がって人混みに紛れて消えていってしまったキラを探すべく、歩き出したのだった。 なんだかんだ言っても、大親友だと豪語するくらいだ。キラを心配するのも当たり前なことなのである。 「全く、なんなのよ・・・」 携帯を使えば済むことなのだが、それにフレイが気付いたのは、それから五分後のことだった。 あとがき 一先ずここで区切ります。 長くなりそうなので。 フレイが思いがけず、大活躍(!?)。 ラクスとミーア(は名前だけだけど)出してみました。 TOP/ U |