「あんたって、本当に馬鹿よね?」

 どうしてこの親友はこう、馬鹿馬鹿言うのだろうか。

 キラは半ば不貞腐れながらフレイの言葉を聞いていた。

 「ザラ君も。ていうかあんたたちって、いろんな意味でバカップルよね?」

 自分の爪の手入れをしながら、さもなんでもないかのように言うフレイに、キラは頬を膨らませた。

 「そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか?」

 近くにあったふかふかのクッションを抱き込みつつ、項垂れるキラ。

 フレイはそんなキラに、苦笑を向けた。

 「まだバレンタイン、終わってないわよ?もう一度、行って来たら?」

 「そんな軽々しく言わないでよ!!すんごい緊張したんだからね!?」

 そうなのだ。アスランの病室にいた時なるべく感情を表に出さないようにつとめていたのだ。

 病室から追い出された瞬間、まるで箍が外れたように涙が零れて、キラは病室の外に様子見に来ていたフレイに連れて行かれたのだ。

 そうして今は、フレイの自宅に入る。

 フレイの家は、アスランが今入院している病院から、徒歩で約20分のところにある。

 アスランの病室に赴いたのが、今から約40分前のことだった。

 従って、もう20分も、キラはこうして項垂れていると言うことだ。

 「いつまでもうじうじしてないで、さっさと行ってきなさいよ」

 尚も突放そうとするフレイを、キラは軽く睨んだ。

 「無理」

 そう言って、許可も無いままフレイのベッドにダイブする。

 そしてもぞもぞと布団の中に潜り込んで行くキラに、フレイは重い溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バレンタイン 3

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「泣くぐらいなら、縒り戻せばいいじゃん?」

 そう言うのは、つい数分前にノックも無しに入ってきた自称親友、ラスティだった。

 「勝手なこと、言うなよ」

 もう泣いてはいないが、目が腫れてしまったらしい。

 「あのな」

 「顔、洗ってくる」

 ラスティの声を遮り、アスランは水道を目指す。

 アスランの病室は個室なので、病室には水道がついていたりと割と豪華だったりする。

 「・・・・・後悔、してるんだろ?」

 その声は、水の音と混じり、少々聞き難い。だがアスランの耳にはしっかりと届いていた。

 しかしアスランは敢えて聞こえない振りをする。それをわかっていて尚、ラスティは言葉を続ける。

 「今彼女を手放したら、お前も、彼女だって後悔する。そんなんじゃ、後味悪くねえか?」

 蛇口を捻って水を止め、タオルで顔を拭く。

 一段落ついて、アスランは重々しい溜め息を吐いた。

 「お前には、関係ない」

 「あるよ。俺とミーアの仲取り持ってくれたのお前らだし。俺らが上手くいってんのに、お前らがこんなじゃ、俺が嫌なんだよ」

 ミーアの同じだと思うぜ、と付け足しながら、ラスティはアスランを睨んだ。

 「これは、他人が口出ししていい問題じゃない!!もう帰れ!!・・・・・俺なんかのために、ミーアとの時間を潰すな」

 先程キラにも言った言葉を言ってしまい、罰が悪くなって声量を落とすアスランに、ラスティはじゃあ一つだけ、と口にした。

 「彼女、泣かすことだけはするなよ?」

 そう言って、アスランの反応も見ずに、さっさと病室を後にした。

 アスランの中に、大きな迷いが生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして今更迷うはずがある。

 決めたではないか。

 彼女と離れると。

 彼女を縛り付けないために、別れると。

 それなのに、決心は揺らぐのは、何故か。

 理由は、ラスティの言葉。

 『彼女、泣かすことだけはするなよ?』

 その言葉が、ぐるぐると思考回路を駆け巡る。

 彼女を泣かせてしまう罪悪感と、彼女を縛り付けてしまう罪悪感。

 そのどちらが重いのか。

 そんなこと、一目瞭然だと言うのに。

 だのに、彼女を泣かせてしまうことの方が、重く感じられてしまうのだ。

 泣かせるくらいなら、いっそ。

 否、もしこのまま共にいても、彼女を泣かせてしまうことは否めない。

 どちらにしろ、彼女からは離れなければならなくなるのだから。

 生まれつき体の弱いアスランは、心臓も弱かった。

 五歳の時には、医師から18歳まで持つかどうかとさえ言われていたくらいなのだ。

 今はもう18歳だが、12月、ちょうどキラに告白する前の週、医師からは手術を受けなければアスランの心臓は三ヶ月と持たないとさえ言われた

のだ。

 そのことも手伝って、アスランはキラに告白したのだが。

 最近、ずっと体調が思わしくなかった。

 今まで、そう言う日は学校を休んでいたりしたのだが、キラとは出来る限り一緒にいたかったため、無理をして学校に通っていた。

 きっと、それが祟ったのだろう。

 家庭学習が始まった途端、アスランは熱を出したりと、思い切り体調を崩してしまったのだ。

 だから、もう自分は長くないと、思ったのだ。

 こんな体調の崩し方は、初めてだった。

 いつもじわじわと崩れていくものが、今回は突然だったから尚更。

 だからもう、キラと別れようと思ったのだ。

 彼女を悲しませないように。

 さすがにすぐに、と言うわけにはいかない為、一週間後には体調もある程度安定するだろうと言うことを考えて、一週間後に家に来てもらうよう

頼んだのだ。

 思ったとおり、一週間後には熱も粗方下がり、キラと話も出来た。

 あの後、きっとキラは泣いたのだろう。

 部屋を出て行く時、彼女の目には涙が溜まっていたような気がしたから。

 それから、また体調を崩して、入院して。

 医師から、外国に行って手術を受けた方がいいと進められた。

 何でも、心臓自体が弱く、成長しきれずに、アスランの成長に伴って活動できなくなっていると言われたのだ。

 今のアスランの心臓は、およそ12、3歳の子供のものと同等か、それ以下だと言われた。

 そんな子供と、アスランとでは、明らかに身体に送り込む血液の量が違いすぎるのだ。

 その為、おのずとアスランの心臓は、かなりの負担がかかっていると言うことになるのだ。

 いつ爆発してもおかしくない心臓。それが今、アスランの中で身体のポンプとして働いているのだ。

 ならば何故、手術をしないのか。

 否、できないのだ。

 丁度良い心臓のドナーが、未だ見つからないのだ。

 これでは移植したくとも、出来ないのだ。

 その為、今はこの病院に入院して、少しでも助かる可能性を上げるために、体調を整えているのだ。

 だがしかし、その手術が必ずしも成功するとは限らない。寧ろ、失敗する確立の方が高いのだ。

 放っておいても死ぬ命なら、今はそれに賭けるしかないのだ。

 そう、下手をすれば死ぬかも知れないのだ。

 こんな自分の状態をキラが知れば、彼女はきっと、しがみついてでも看病しようとするだろう。

 それだけならいい。嬉しいのだ。

 けれどもし、自分が死ぬようなことになれば、彼女はきっと、否絶対に泣く。

 彼女のことだから、自分のことを追いかねない。

 そんな、優しい彼女だからこそ、突放した。

 けれど、本当にそれでいいのだろうか。

 アスランは気付いたら、中庭に出ていた。

 そしてふと、足を止める。

 「・・・キラ・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 布団から引きずり出されて、フレイに手を引かれて着いた場所は、先程までキラがいた場所。アスランのいる病院だった。

 「ちょ、フレイ!!もういいってば!!」

 「いいわけないでしょう?ほら、ちゃっちゃか歩きなさい!!」

 そう言うフレイに反論する余裕は、フレイ自身が与えてくれなかった。

 ふと、足を止めたフレイ。キラはそれを訝しんでフレイを覗き込み、そして彼女の視線の先を目で追った。

 「あ・・・・・アスラン・・・・・」

 そこに立っていたのは、先刻自分を病室から追い出した、アスランだった。

 「・・・キラ・・・・・・・・・・」

 相手も気付いたのだろうか、そっとキラの名を囁いた。

 「ほら、あとは二人で話し合いなさい」

 そう言いながら、フレイはキラの背中を押す。

 慌てて振り返るが、キラが見たのはフレイの背中だった。

 「・・・もう・・・・・」

 「キラ」

 頬を膨らませていたが、ふと聞こえたその声に、肩をビクリと揺らす。

 「さっきは、ごめん」

 「・・・・・アスラン」

 ゆっくりと、振り返る。

 翡翠が、悲しそうに揺れていた。

 「ごめん、本当に。・・・キラ・・・泣いただろ?」

 どうしてわかったのだろう。彼には、涙を見せなかったはずなのに。

 「目が、赤いよ・・・」

 そう言いながら、キラの目元に手を伸ばす彼。

 それに抗うことなどせず、キラはそれを甘受しながら苦笑を浮かべた。

 「アスランも、目、赤いよ?」

 キラも、アスランの目元に手を伸ばす。

 彼の目元も、赤く腫れていた。

 病室に行ったときはそうなっていなかったのできっと、キラが去った後で泣いたのだろう。

 そのことで、あの言葉は本心からではないと予想できた。

 「最低、だよな?君を泣かせてしまった」

 一番泣かせたくない人なのに。

 一番悲しませたくない人なのに。

 「ごめん」

 そう言って、キラの肩口に顔を埋める。

 キラは彼が頼ってくれているのだと、嬉しくて涙が零れた。

 「・・・ううん。気にしてないよ。だってあれ、嘘でしょ?」

 優しい、優しい、嘘でしょ?

 アスランの目が、驚いたように見開かれた。

 翡翠が、紫水晶を映した。

 紫水晶もまた、翡翠を映す。

 「ほら、泣かないの。これ、あげるから」

 本人は気付いていないのだろう、翡翠からは止め処なく涙が零れた。

 差し出した紙袋は、ほんの少し皺が寄っていたけれど、キラは気にせずアスランの手にそれを握らせた。

 「・・・あり、がとう・・・・・」

 微笑む、キラを。

 「っありがとう!!」

 アスランは目一杯、抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

これにてバレンタイン編を終了します。

終わったー!!やっぱ一日で3話はちときつい。

バレンタイン編は、アスキラの別れ話とか、アスランの身体のこととか、ホント書いてて楽しかったです。

ラスティとフレイに活躍してもらいました。ありがとう。君らがいなかったらきっと途中で潰れてたよ(笑)。

あ、因みに、アスランの病気については、私の頭の中だけで考えたものですので、悪しからず。

医療関係には疎いので(汗)。言っておきますが、なんも調べずにやらかしました。・・・orz

さて、まだまだ続きます。たぶん。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。







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Photo by CAPSULE BABY PHOTO