おかしい。

 キラから何の連絡も無いまま登校日となったが、彼女は来なかった。そしてアスランも。

 アスランなら未だわかるのだが、今まで滅多に休まなかった彼女が、登校日を忘れるはずが無い。

 訝しんで電話をかけてみても、いつも留守電になってしまう。

 自宅の方にかけても、出たくないの一点張りで。

 心配になって押し掛けても、キラは決してフレイを部屋には入れなかった。

 これは一大事だ、と判断したフレイは、以前キラがアスランの家は自分の家の真ん前だと言っていたので、ついでに寄っていくことにした。

 そしてインターフォンを押したはいいが、出てきたアスランの母親と思しき美しい女性は困ったように眉尻を下げた。

 「ごめんなさいね。アスラン、いないのよ」

 その答えに、フレイが素直に何故と聞くと、女性は困ったように僅かだが視線を逸らした。

 「今、体調を崩してて・・・。多分、登校日や卒業式には、出られないと思うわ」

 アスランはそんなに悪いのだろうか。

 「そんなに、悪いんですか?何か、病気でも?」

 「・・・あの子、生まれつき身体が弱いのよ。家庭学習に入ってから、ずっと入院してて・・・」

 初耳だ。

 「あの子、誰にも言いたくないって・・・キラちゃんにも黙って、別れようって言ったみたいで」

 「それじゃあ、別に嫌いになって別れたんじゃ、ないってことですよね?」

 女性、レノアの言葉に、フレイの表情は明るいものになっていく。

 「ええ。当たり前じゃない。だってあの子、こんな小さな頃からキラちゃんのこと好きだったんだもの」

 そう言って、レノアは膝辺りに頭があるかのように手を翳した。

 「え、高校で会ったんじゃなかったんですか?」

 その言葉に、レノアは苦笑を浮かべた。

 「このことは、キラちゃんやアスランには内緒ね?」

 レノアはそう言って、フレイを中に招き入れた。

 それが、バレンタインの一週間前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バレンタイン 1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ずっと、考えていた。

 どうしてアスランが、別れようと言ったのか。

 自分が悪いのだろうか。

 確かに、ちょっとした我侭を言ったこともある。

 彼をからかったこともある。

 けれどどれも、ピンと来ない。

 元来彼は、そんなことを気にするような気質でもないだろう。

 だからわからないのだ。

 急に別れを告げた彼の心情が。

 キラには全く、見当もつかなかった。

 あれから何日経ったかわからないくらい、キラは考えに没頭していた。

 そんな折、ふとドアがノックされる。

 「キラ、いるの?入るわよ?いいわね?」

 その声は、親友のフレイのもの。つい先日も来てくれたが、キラはドアにしがみついて彼女を入れようとしなかった。

 彼女と話す気力が無かったから。

 今も、その気持ちは変わらない。

 けれど、どうにも動く気力が無い。

 なので、返事はしなかった。

 きっと、いつも部屋に閉じこもっていたものだから、精神的にも疲れてきたのだろう。

 そうして、沈黙を了承ととったのか、フレイがそっとドアを開けて入ってきた。

 「久しぶりね、キラ」

 「・・・・・うん」

 パチリ、とドアの横の電気のスイッチを入れるフレイに、キラは力なく目を向けた。

 「・・・電気代の無駄だから、消して」

 「何言ってんの?昼間だからって、カーテンで日の光遮って、暗いのよこの部屋」

 そう言うフレイは、どうやら電気を消す気は無いらしい。

 キラは溜め息を吐いて、それで?とフレイを促した。

 「あんた、ザラ君と別れたんだって?」

 ビクリ、とキラの身体が震える。

 それに構わず、フレイは言葉を続ける。

 「それで、私に連絡もなしにずっと部屋に引き篭もって・・・馬鹿みたい」

 最後のその言葉に、キラはガバリと顔を上げた。

 「馬鹿って何さ!?僕が、どんな思いしてあの言葉聞いてたと思う!?何も知らないくせに、勝手なこと言わないで!!」

 そう叫ぶキラに、フレイは怯んだ様子も無く呆れた溜め息を吐いた。

 「その言葉、そっくりそのままあんたに返すわ。ザラ君のこと、何にも知らないでよくそんなこと言えるわね」

 「っ・・・・・?」

 フレイの言葉に、押し黙って首を傾げるキラ。

 「あんた、このままでいい訳?このまま、彼と離れ離れになっても、いいの?」

 どういう意味だ。確か彼は、キラと同じ大学に進むといっていたはずだ。恋人同士ではなくなったとしても、今生の別れというわけではなかろう。

 「・・・ザラ君、今入院してるらしいわよ」

 「え!?」

 まさか、と目を見開いたキラに、フレイは苦笑を浮かべた。

 「私の口からはなんとも言えないけど、レノアさんに聞いてみたら?」

 急な話の展開に、キラの頭は混乱していた。

 アスランが入院しているとは、初耳だ。

 しかし、何故彼は黙っていたのだろうか。

 言ってくれればいいのに。

 もしかしたら、自分が頼りないから、だからアスランは、言わなかったのだろうか。

 気がついたらキラは、立ち上がり、よろけながらも走り出していた。

 「・・・まったく、世話が焼けるわね」

 後に残ったフレイは、呆れたような、しかし温かみのある苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピンポーン・・・・・ピピピピピンポーン。

 ピンポンダッシュよろしく何度もインターフォンを鳴らすキラ。

 漸く開いた玄関に、餌に食いつく猫のように身を乗り出す。

 「キ、キラちゃん!?どうしたの、そんな急いで?」

 驚きで目を見張っているレノアに、キラは更に身を乗り出す。

 「アスランが入院してるって、本当ですか!?」

 そう捲くし立てるキラに納得したのか、レノアは苦笑を浮かべた。

 「聞いたのね、あの子に」

 静かなレノアの声に、自然とキラも勢いを無くしたかのように肩の力を抜いた。

 「・・・・・あの子のことは、あの子に聞いて?」

 暫しの逡巡の後、レノアはそう囁いた。

 顔を上げたキラに、レノアは優しく諭す。

 「あなたなら尚更、あの子の口から事実を聞くべきだわ」

 そうだ。

 事実を聞くなら、アスランに聞いたほうがいい。

 しかし、わかっていても、最早キラたちは恋人同士ではない。

 キラからしてみれば、所謂『元彼』。気まずいことこの上ない。

 その心情を察したのか、レノアはふと微笑んだ。

 「今度は、キラちゃんが気持ちを伝えてみたら?」

 その言葉に、不思議そうに首を傾げるキラを可愛いなと心の中で思いながら、レノアは続けた。

 「来週はバレンタイン。気持ちを伝えるには、最適でしょう?」

 あ、とキラが小さく声を漏らす。

 「まだ、好きなんでしょう?」

 そう問われた相手が思い人の母親なのだから、キラは当然赤面してしまう。否、それが友人でも然りだが。

 「そうだわ!良かったら、家で教えてあげましょうか?」

 「え・・・?」

 「夢だったのよね!娘に料理を教えるの。ね?悪くないでしょう?アスランは家にいないし」

 なんだか話が完全にそれているような気もするが、レノアは最早自分の夢の世界に浸っている模様。

 「あ、あの・・・・・」

 「あら、もしかして、嫌だった?チョコ、匂い嗅ぐのも嫌だとか?」

 何か言いたげなキラに、チョコが嫌いなのではと疑ったレノアが、気遣わしげに尋ねた。

 「い、いえ。そういうわけじゃ・・・」

 「じゃあ、決まりね!!」

 なかなか手強い人だ、とキラが思ったのは仕方の無い話である。

 こうして、レノアによるチョコ作り教室が開かれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

バレンタインなのに、まだ一週間前。

もっと前から用意してなかった自分が妬ましい・・・。

途中までシリアスだったはずなのに、レノアさんが暴走してギャグに走りました。







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