アスランの家もなかなか大きいのだが、キラは目の前の大豪邸に、驚愕した。

 傍らのアスランはそんなキラを見て苦笑を浮かべていた。

 ラスティはというと、何故だかアスランの背中に張り付いて、何やらぶつぶつと呟いている。気味が悪いったらない。

 そんなラスティを放って、アスランは大きな門に取り付けられているインターフォンを押した。

 「お久しぶりです。アスランです」

 そう言うと、そう間もおかずに門が開いた。

 そしてアスランはキラの背中に手を添えながら歩き出した。

 ラスティは半ば引き摺られるようにして、中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 「・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・」

 流れる、沈黙。

 どこか冷たささえも感じられる空気に、アスランとキラは只目を丸くするしかない。

 「キラ、一緒に散歩でもしてくるか?」

 「うん、そうしようか?」

 などという会話を聞きとがめたのか、ラスティとミーアは同時振り返って駄目だと言う。

 「・・・はぁ・・・・・」

 溜め息を吐くアスランに苦笑を浮かべたキラは、ミーアという少女を見た。

 この家に入って直ぐ、キラはミーアと挨拶を交わした。

 彼女はとても明るく、気さくな性格だ。キラは直ぐに、彼女に好感を持った。

 「二人で話してみたらどうですか?僕たちがいるとほら、言い辛いことがあるでしょう?」

 そう提案したキラに、飛びついたのはアスランだ。

 「そうだねキラ。やっぱり俺たち、外に出てくるよ」

 そう言って、今度は反論しようとする二人を無視してキラの手を取り応接室を後にした。

 残された二人はしばらく、無言でアスランたちが出て行った扉を睨んでいたと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「キラ、どこに行きたい?」

 自宅から遠いこともあって、キラは珍しそうに辺りを見回していた。

 「んー・・・特に見たいものはないんだけど・・・・・」

 言葉を濁すキラに、アスランは小さく首を傾げた。

 「だけど?」

 キラの語尾を反復して問い、キラの顔を覗く。

 そしてアスランは軽く目を見張った。

 ふと何かに触れられた、手。

 上目遣いに見上げてくるキラの潤んだアメジスト。

 不安げに瞳を揺らし、まるで怯えた子猫のような彼女は、この上なくアスランの庇護欲を掻き立てる。

 「・・・手、繋いじゃ、ダメ?」

 その言葉が決定打。

 アスランは手を握るどころか掴んで、一気にキラを自らの胸に抱き寄せた。

 「わっ!!ア、アスラン!?」

 あまりに突然のことだったので、キラは思わずアスランの胸に体重をかけてしまう。

その為、慌てて体勢を立て直そうとするが、それはアスランの力強い腕によって阻まれた。

 「・・・アスラン?」

 どうしたの、と問うキラの声を聞きながら、アスランはキラのサラサラの髪の毛を堪能するように顔を埋めた。

 心地よい暖かさに、ほんのりと香る甘い香り。

 何が起こったのかよくわからないキラはアスランの顔を覗き込もうとするが、どうにもアスランの力が強すぎて離れられない。

 「アス・・・アスラン、苦しいよ」

 力を入れすぎてしまったのか、キラからは抗議の声が上がってしまった。

 アスランは慌てて腕を緩めた。

 すかさずキラは、アスランの顔を覗き込む。

 そうして直ぐに、目を丸くした。

 何故ならアスランは、顔をこの上なく赤く染めていたから。

 一体彼に何があったのか、と只管頭を回転するキラだが、その要因は彼女自身であるのだ。鈍いキラには、気付くことなど出来なかった。

 「ごめん、キラ・・・・・手、繋ごっか」

 アスランは今の表情を見られたくないのか、恥ずかしそうに俯きながら手を差し出した。

 キラは一瞬不思議そうに首を傾げたが、直ぐに嬉しそうにその手に自らの手を重ねた。

 互いの手が、冬の寒さを紛らわすかのように暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから二人手を繋いで歩いていると、キラはふとある店を認めて足を止めた。

 「・・・キラ?」

 突然ピタリと歩みを止めてしまったキラを心配げに見つめ、アスランはふとキラの視線が一点に行っていることに気付いた。

 その視線を辿った先には、小さくて可愛らしい雰囲気の店があった。

 アスランは入ったことはないが、ミーアやラクスがよく行くらしい。

いつか、あそこの店はとても可愛いと言っていたのを、アスランはぼんやりと思い出した。

 「入ってみても、いいかな?」

 またも上目遣い。キラとアスランの身長差を考えれば仕方のないことなのだが、アスランは未だに慣れないのだ。

 「あ、ああ。いいよ。そうだキラ、何かプレゼントするよ」

 いいことを思いついたとばかりに提案してくるアスランに、キラは思わず目を剥いた。

 「え!?わ、悪いよそんな・・・この前トリィ貰ったばかりだし」

 トリィとは、この間アスランから貰ったばかりの手作りのクリスマスプレゼントであった。

 ロボット鳥で、ご丁寧なことに飛び回るので、キラの部屋の中のみ活動中であるのだ。

 「構わないよ。俺がキラにプレゼントしたいんだ」

 笑顔で言ってくるアスランには、最早引く気はないらしい。

 キラはそれを悟ると、じゃあ・・・と言葉を紡いだ。

 「アスランとお揃いのモノがいいな!」

 悪戯っぽい笑みを浮かべてアスランの翡翠を覗き込むと、彼は驚いたように目を丸くした後驚くほど嬉しそうに笑った。

 「いいよ。じゃあ、キラが選んで?」

 そう返すアスランにうんとこれまた嬉しそうに頷くキラの頬は、心なしか朱に染まっていた。

 それが冬の寒さ故か、アスランの表情故かは本人のみぞ知ることである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店の中は優しく甘い香りが仄かに香っていて、微かに流れる音楽は静かなクラシックだった。

 全体的に雰囲気が統一されていて、それでいて様々な品が置いてあるので厭きることはない。

 ペンダントやらイヤリングやらブレスレットやらを見て回っていたキラだったが、不意に目を一箇所に留めて、輝くアメジストをアスランに向けた。

 「アスラン、これは!?」

 そう言って指差したのは、ペアリングだった。

 アスランが思わず目を剥いてしまうのは、当然とも言えよう。

 「キラ、それは・・・・・」

 「嫌?」

 ああ、そんな目で見ないでくれ。というアスランの心の声は、キラに聞こえることはなく。

 上目遣いに見上げてくるキラに、アスランが異を唱えることが出来ようか。否、賭けてもいい。絶対に無理だ。

 「・・・わかったよ。いろいろあるけど、どれがいい?」

 早々に了承したアスランに嬉しそうに笑みを零すキラに、様々な種類のそれを見て問うた。

 「うーん・・・・・」

 唸りながら、しばし思案するキラに、アスランは自然と笑みを浮かべる。

 まさか、指輪を選ぶとは、思っても見なかった。それも、ペアリングを。

 だが直ぐに、表情を曇らせる。

 この輪が、キラを縛りつけやしないかと、アスランは心配で、不安で、仕方ないのだ。

 「じゃあ、これ!!どう?」

 突然声を上げたキラに、アスランはハッと我に返った。

 「あ、ああ。・・・そんなシンプルなのでいいのか?」

 キラの手に乗せられたそれは銀色で、幅は少し広めだが何の彫刻もしていなく、とてもシンプルなものだった。

 思わず零れた疑問にキラはニコリと微笑んで、ここを見てと指輪の内側をアスランに見せた。

 「あ・・・・・」

 そこには、小さな石が嵌め込まれていたのだ。

 「こっちはアメジスト。こっちは翡翠。まるで、僕たちの瞳みたいでしょ?」

 言われてみればそうだ。

 キラの瞳はアメジストで、アスランの瞳は翡翠。

 しかし。

 「でも、男の方がアメジストで女の方が翡翠だけど、いいのか?」

 その疑問に、何故かキラは驚いたように目を丸くした。

 「え、だって、お互いがお互いの色をずっとつけてるって、よくない?」

 なるほど。つまり、お互い離れている時でも、お互いを感じていられる為、というところだろうか。

 「けど、学校にはしていけないよ?」

 その言葉を待っていましたとばかりに胸を張るキラ。

 「ペンダントにしちゃえばいいじゃない?」

 「なるほどね。じゃあ、チェーンも買わなくちゃね?」

 直ぐに納得したアスランは、ふと視線をめぐらせる。と、すぐにチェーンは見つかった。

 何故なら直ぐ傍に、店員がそれを持って立っていたからである。それも、こちらに向けてチェーンを差し出しているではないか。

 「お客様。こちらでよろしいでしょうか?」

 何も言ってないのに持ってきてくれるとは、たとえ今、たまたま客が一人もいないからと言って、サービスが良すぎるのではないか、

などとアスランが思うのを尻目に、キラはありがとうございますと店員からそれを受け取った。

 「うん、長さ的にも丁度いいし、良かったね、探す手間が省けて」

 ニコリと笑ってアスランを見上げたキラ。アスランはただ、ああそうだねと返すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして漸くアスランの祖母の家の傍までたどり着いた頃には、日が暮れかかっていた。

 赤い夕日は暖かそうなのに、空気は相変わらず寒い。

 けれど、手だけは暖かかった。

 二人は手を繋ぎながら家に入って行った。

 二人の胸元には、こっそりと下げられているペンダント。

 歩きながら、お互いに付け合ったのだ。

 肌に触れるプラチナは、最早体温で暖かかった。

 「ねえアスラン?」

 ふいに聞こえた、愛しい人の声に、アスランはそちらに目をやった。

 対する彼女もアスランを見上げ、ニコリと微笑んだ。

 「ずっと、一緒にいようね?」

 見開かれた、翡翠。

 しかしすぐにそれは細められて。

 「・・・そうだね。ずっと一緒に、いよう」

 胸が、苦しかった。

 アレとはまた違った痛みに、アスランは罪悪感を覚えた。

 

 「ずっと、一緒にいれたらいいね・・・」

 

 吐息のように微かな声。

 それと共に吹いた突風に、キラはその言葉に気付くことができなかった。

 「大丈夫、キラ?」

 風で僅かに傾いだ身体を、アスランは心配げに引き寄せた。

 キラの腕を自らの腕に巻きつけて、更に二人の距離はなくなった。

 「・・・温かい・・・・・」

 その声は、白い吐息と共に、橙色に染まった空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家の中に入り、来たときと同じように応接室に入ると、そこには楽しげにお茶を飲んでいるラスティとミーア。

 「遅えぞアスラン!!」

 文句をキラに言わなかったことだけは許そう、とアスランは顔を引き攣らせながら思った。

 「仲直りしたんだ。よかったですね」

 「うん、キラのお陰よ?あ、敬語なんていらないわよ?あたし、キラたちの一個下だし」

 そう言うミーアに、キラはそうなんだ、と目を丸くした。

 「じゃあもう用はないな。ラスティはどうするんだ?泊まってくのか?」

 何気なく聞いてみた言葉だが、何故だか二人一緒に顔を赤くするラスティとミーア。

 「・・・・・?じゃあ、俺たちは帰るから。また今度な」

 そう言ってまた、二人の返事も聞かずにキラの手を取って踵を返すアスラン。

 何も反論がないところを見ると、どうやらラスティは本気でここに泊まっていく予定らしい。

 全く、どう仲直りしたのだろうか。

 アスランはそんなことを考えながら、傍らのキラに視線をやった。

 突然アスランに手を取られたためか、キラは微かに頬を染めていた。

 「・・・キラも泊まってくか?」

 途端、勢いよく上げた顔。驚きと恥じらいで、先程よりも真っ赤に染まった顔に、アスランは思わず失笑して冗談だよと返した。

 「っもう!!アスランの、嘘つき!!」

 そう言ってそっぽを向くキラ。

 彼女が本気で怒ってないことくらい、アスランには手に取るようにわかる。

 だってまだ、手は繋がれたままだったから。

 「ごめん、キラ」

 そう言って顔を覗き込めば、苦笑を零す彼女。

 「しょうがないなあ・・・」

 ふと止めた、歩み。

 キラは大きく背伸びして。

 アスランの白い頬に、そっと唇を落とした。

 

 

 

 初詣は出来なかったけど、君がいるだけでいいんだ。

 それだけで、僕の願いは満たされてしまったから。

 でも改めて願い事をするのなら。

 

 「アスランと、ずっと一緒にいられますように」

 

 僕はきっと、そうお願いするだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

これにて正月の台風は終わりです。誰がなんと言おうと終わりです。

アスキラがいない間にラスミアに何が起こったのかは、謎のまま(おいおい)。

アスランがキラにプレゼントをすると言い出したのは、偏に、キラに未だに誕生日プレゼントを渡してないからです。

店員さんはきっと、アスキラのバカップル振りに呆れていたに違いない。それにしちゃ親切だったけど。

因みに、アスキラが帰った後、ヤマト邸でまたも正月パーティーが行なわれました。

パトリックさんとハルマさんは、またべろんべろんに酔っ払って、皆に呆れられます(笑)。

次は学園生活か・・・はたまたそのままバレンタインに行くか。

ていうかそもそもこれ、シリーズなのかな?謎だ(え)。

それでは、今年も皆様にとって良いお年でありますように。







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Photo by CAPSULE BABY PHOTO