「明けまして、おめでとうございます」

 そう言って、二人同時に頭を下げる。

 そうして顔を上げると互いを見つめ合い、そして笑った。

 「行こう、キラ」

 そう言いながら手を伸ばしてくるアスランにうんと頷きつつも、キラは振り返って玄関で二人の会話を微笑ましく見守っているキラの母カリダに

行って来ますと告げた。

 「気をつけて行ってくるのよ。アスラン君、キラをよろしくね」

 にこりと微笑んでそう言うと、カリダはそれは嬉しそうに中へと戻って行った。

 そんなカリダに、アスランとキラは二人揃って苦笑を浮かべた。

 一月一日。世に言う元旦。

 二人はこれから、初詣に行こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正月の台風 T

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それにしても、凄い人だね」

 ほぉ、と感嘆の溜め息を零すキラに、隣に立つアスランは苦笑を零した。

 「年明けてばかりだから仕方ないよ。それにしても、長いな・・・」

 キラから視線を外し、アスランは溜め息混じりに眉を顰めた。

 何が長いかと言うと、年が明けて初めてのお参りをする人々が作っている列のことだ。

 列は既に、数十メートルもある神社の敷地内の境内への道をはみ出て、道路に出ようとしていた。

 「なあキラ、やっぱりやめないか、今日は・・・?」

 思わずそう提案してくるアスランに、キラは嫌だと頬を膨らます。

 そんなキラに何故と問えば、彼女はアスランを半ば睨み据えるように見て答えた。

 「どうしてって・・・今日しか元旦じゃないからだよ!!」

 あまりの力説振りに、アスランは一瞬言葉を無くす。

 だがすぐに我に返り、溜め息を吐いて苦笑した。

 「キラ、元旦って言うのは、一日の午前中のことを指すんだぞ?」

 知らなかったのか、とアスランは言うが、普通はそんなこと、知っている方がおかしいのだ。

 だがそれに気付かないキラは自分が馬鹿にされたと思い、手を伸ばしてアスランの右頬を抓った。

 「ひたた・・・あにするんだよ、きあ」

 頬を引っ張られているので、うまく発音できないらしい。

 キラはそんなアスランに笑って、更に肉を伸ばす。

 「あはは!アスランの顔、面白い」

 「ひたひひたひ!!」

 途端声を上げるアスランに、キラは更に大声を立てて笑った。普段では見れないアスランの一面を見てしまったからかもしれない。

 キラは思わずアスランの頬を抓る手を離し、腹を抱えて笑った。

 「っキラ!!・・・ったく」

 抓られて赤く腫れている頬を擦りながら、未だ笑うキラを見て呆れる。

 「いつまで笑ってる気だ、キラ?」

 常よりも声を低くすれば、笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を拭いながらも、未だ残る爆笑の余韻を消し去れないのか、苦笑を浮かべながら

ごめんごめんと謝ってきた。

 「だってアスラン、あんまり顔が面白いもんだから、つい」

 「ついじゃないだろ・・・・・」

 はぁ、と重い溜め息を吐いて、アスランは肩を落とした。

 「あ、ねえアスラン、お好み焼き買おうよ!!」

 突然くるりと表情を変えたかと思えば、お好み焼きと言う。一体彼女の思考はどうなっているのか、アスランには甚だ疑問だ。

 「じゃあ、ここで待ってて?買ってくるよ」

 お好み焼き屋の看板は、結構遠い。それに、今並んでいる道と交わっている数メートル先の小道に入らなければ、辿り着けない。

 ここにキラ一人残していくのは気が引けるが、こうも人が多いと逆にここで並んで待っていた方が安全かもしれない。

 そう判断したアスランはそう言い置くと、キラを残してお好み焼き屋に向かって行った。

 「いってらっしゃい」

 背後で呑気な響きを聞きながら、アスランはこっそりと口端に微笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すみません、一つお願いします」

 そう言って、屋台でお好み焼きを焼いている壮年の男は、はいよ!と威勢のよい声を出して鉄板の上のお好み焼きをほぼ真四角に切り取って

二つ折りにし、それを透明のパックにつめてソースをたっぷりとかけてパックを輪ゴムで留めた。

 それと五百円玉とを交換し、アスランはキラの元に帰る為に踵を返そうとした。

 だがそれは、突然聞こえてきた怒声に阻まれることとなった。

 「おい姉ちゃん、これぁ買ったばっかの服なんだ!!これ、どう落とし前つけてくれるつもりだぁ!?」

 なんとも不穏な空気に、周りの人々がざわめく。

 「な、ただソースがついただけじゃないか!!洗えば落ちるだろ、そのくらい!!」

 対する少女はなかなか威勢がいい。相手の男に怯まずそう切り替えしたのは、なかなか勇気のある少女だ。

 アスランが半ば感心して見ていると、突然その男が逆上したかのように少女に襲い掛かる。

 「五月蝿ぇ!!!黙って金出せやこるぁ!!」

 そう言って少女の頬を叩こうとする男。

 アスランは咄嗟に、身体を動かしていた。

 少女は目を瞑って、来るであろう衝撃に目をギュッと瞑ったまま、しかしなかなか来ない痛みに、恐る恐る目を開けて、驚愕した。

 「!?お前・・・」

 「女の子に手を上げるなんて、穏やかじゃないな。服にソースがついたくらいで、馬鹿馬鹿しい」

 男を睨み据えながら低く言うアスランに、男は再びなんだと、と言いながら飛び掛ってくる。

 しかしアスランはそれを少女ごとひらりとかわし、突然消えた標的に耐え切れなくなって、男はそのまま地面に激突した。

 アスランはそれを見届けると、少女を振り返ってさ、早く逃げて、と言う。

 そんなアスランに少女は頬を染めた。

 だがアスランはそれに首を傾げるだけで、もう一度逃げてと言った。

 「そいつが起き上がる前に、早く」

 「え、だが、お前はっ!?」

 困惑を浮かべて問うてくる彼女に苦笑を零し、アスランは今度は何も言わずに少女の背中を押しやった。

 少女はそんなアスランに抗えず、そのままその場を後にする。

 そして、それを見届けたアスランは。

 「それで、何やってるんだ、お前は」

 呆れたように地面にうつ伏せに倒れたままの男に言うアスラン。その翡翠の瞳は、どこか冷たささえも感じさせる。

 「いや、ナンパしようとしたらあの子に邪魔されて、思わず邪魔すんなって言ったら、お好み焼き投げられて、んで丁度お前が見えたから、

調子に乗ってヤクザ口調に・・・・・」

 世のヤクザ方に申し訳ない言い訳だが、男はどうやら反省しているらしいので、アスランは取り敢えず溜め息を吐いた。

 「どうして俺が見えたらそんな口調になるんだ・・・?ていうかお前、彼女はどうした、彼女は」

 アスランは男にそう問うたのを、後に後悔することになる。

 「それなんだけどよ、聞いてくれよ、アスラン!!!」

 突然涙を流しながら文字通り泣きついてくる男に、アスランは顔を青くして後退さった。

 だがそれより早くに、足に絡み付いてくる男。

 そのオレンジ色の頭は派手で、澄んだ青の瞳は彼の彼女であったはずの少女と似ている。

 「っやめろラスティ、キラがっ!!!」

 アスランがラスティと呼んだ男、フルネームをラスティ・マッケンジーというが、彼は目を涙で潤ませアスランに請うように言葉を紡いだ。

 「『他の女性をナンパするということは、もう私には用はないと言う事ですわよね?なら、この関係はなかったことにしましょう』って言って、

さっさと飛行機乗って母国に帰っちまったんだよ!!!」

 「当たり前だ!!ていうか、追いかけろよ!!!」

 「だって俺、ラクスの家知らないし、シャトルの乗り方よくわかんねぇし」

 「そのくらい一般常識として知っておけ!!ていうか、なんでもかんでも俺に頼るな!!」

 「んなこと言ったって、俺友達おまえくらいしかいねぇし・・・」

 「・・・・・寂しいやつだな、お前」

 「アスランには言われたくないわな」

 「それでアスラン、その人って誰なの?」

 「ああ、彼はラスティ・マッケンジーって言って、俺の・・・・・」

 そこまで言いかけて、ふと固まるアスラン。

 「何々、可愛いね君!!アスランの彼女??」

 「え、あ、はい、そうです、けど・・・」

 「そうなんだ!!あのアスランがねぇ・・・・・」

 「付き合い始めたのはクリスマスの一週間前ですけどね。ところで、マッケンジーさん?」

 「ラスティでいいよ!!何、何でも聞いて!!」

 「あ、はい。ラスティ・・・は、アスランの・・・・・?」

 「ああ、俺はアスランの大親ゆ・・・・・」

 「ただの知り合いだ。それより、並んでたんじゃ・・・?」

 漸く我に返ったのか、アスランが話に割り込んできた。

 「アスランがなかなか帰ってこないから・・・それに、何か事件があったみたいだし」

 そこでアスランは一発、ラスティの頭を思い切り殴った。

 「痛いなあ!!何すんだよ!?」

 「当たり前だ、あんな事件起こして・・・お前は少しは大人しく家の中で閉じこもってろ!」

 「んなこと言ったって、アスランに相談乗ってもらおうと思って家に電話したら、初詣に行ったって言うからさ・・・」

 手酷いラスティの扱いに、キラは驚きながらも二人の会話を見守っている。

 「おっ前、最初から俺に会うつもりだったのか!?」

 途端目を剥くアスランに、ラスティは当然の如く首肯した。

 「だったらなんでナンパとかしてたんだ?」

 半眼になって問うてくるアスランに、ラスティは罰が悪そうに視線を泳がせた。

 「え!?・・・っとぉ、ほら、初詣って、沢山美人さんとかくるじゃない?だから・・・」

 「あのな。第一お前には彼女がいるだろう!?ていうか彼女がいてもナンパするなんて最低だぞお前!?」

 「まあまあアスラン。取り敢えず家帰って話し聞いてあげたら?」

 「キラ、あんまりこいつを甘やかしちゃ・・・」

 「そうだよアスラン、家でゆっくりと俺の相談を聞いてくれよ!!」

 アスランの言葉を遮って続くラスティの声に、アスランは思い切り眉を顰めた。

 「ここ、凄い目立ってるし、僕としては早く、ここを立ち去りたいんだけど・・・」

 その言葉によくよく周りを見てみれば、何故だか野次馬が。

 アスランは思わず赤面して、野次馬たちにお騒がせしてすみませんと頭を下げた。

 そしてキラの手を取り、その場を立ち去ろうとする。

 後ろでラスティが待てよアスラン、と言っているが、アスランはそれを綺麗に無視する。

 そしてふと、視線を横のキラに移して。

 「お参り、どうする?」

 心配げにそう問うと、キラは微笑を零して。

 「いいよ今度で。僕、アスランがいるなら、それでいいや」

 そう言って、コトリと頭をアスランの肩に乗せて微笑んだ。

 アスランは一瞬目を剥くが、直ぐに笑顔を取り戻して。

 「俺もだよ、キラ」

 そう言ってキラの肩を引き寄せて、彼女の鳶色の髪に一つ、優しいキスを落とした。

 後ろでそれを見ていたラスティは思わず、そんなアスランの表情に驚いていた。

 「・・・あいつ、あんな顔もするんだ・・・・・」

 その声は二人に聞こえることなく、辺りの喧騒に紛れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

皆様、明けましておめでとうございます。正月早々こんな駄文ですみません!!!

えっとまず、ラスティ好きさん、ごめんなさい。

いや、途中まではオリキャラのつもりだったのに、どうにも始末つけられなくて結局滅多に出てこないラスティを使いました。

あ、因みに、ラスティと言い争ってたのはカガリです。あの後彼女はアスランに惚れたとか惚れなかったとか。在り来たりですね。

そんでもってまた続きものです(笑)。







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Photo by CAPSULE BABY PHOTO