玄関を開くと同時に、ガチャリと言う音が聞こえる。 そろり、と中を覗き、レノアは溜め息を吐いた。 感嘆でも、飽きれでもないそれは、偏に目の前に置かれている、自分の家のものではない靴によるものだ。 それが誰のものなのか、レノアはわかっている。 今日、息子のアスランから、恋人であるキラが家に来ると聞いていたから。 「・・・・・大丈夫かしら」 レノアはそうポツリと漏らすと、中へと入って行った。 丁度、アスランがキラに別れを告げた時だった。 +α バタバタバタ・・・と騒がしい足音の後、お邪魔しましたという可愛らしい声が玄関の方から聞こえた。 レノアはその声に眉を顰め、重く溜め息を吐いた。 そうしている間にも、玄関が閉じ、彼女は去って行ってしまった。 きっと彼女は、キラは、瞳に一杯の涙を溜めていることだろう。 今まで、アスランが彼女を好いていたように、彼女もまたアスランを好いていることは、傍から見ていてわかっていた。 まるで新婚夫婦のように、互いを好き合っていた二人。 けれど今日、アスランの決心が揺らいでいなければ、彼らは別れているはずだ。 レノアは、アスランが別れ話を切り出した理由を知っている。 否、レノアだけではない。パトリックも、その理由を熟知している。 レノアはまた一つ溜め息を吐くと、今頃消沈しているであろう息子の下へ足を向けた。 コンコン、と音がして、次いで母の声が聞こえた。 「入るわよ、アスラン?」 そう言いながら、レノアは遠慮せず中に入る。 部屋の中を軽く見渡すと、ベッドに腰掛けた息子の、寂しそうな背中が見えた。 レノアは彼に近寄り、彼の顔を覗き込んだ。 アスランは、泣いていなかった。 けれど、苦しそうだった。 「・・・本当に、それでよかったの?」 労わるように囁けば、キッと睨んでくる息子。 「っしょうがないでしょう!?」 しかしすぐに罰が悪くなったのだろう、目を逸らして声量を落とした。 「・・・こうするしか、なかったんです・・・・・」 その言葉に眉根を寄せ、レノアはアスランの横に腰掛けた。 「でも、女を泣かせるなんて、最低ね」 おどけたように言う母に、アスランは半ば驚いたように言う。 「見たんですか?」 「・・・勘よ。あなたたちを見ていれば、そのくらい見当がつくわ」 苦笑を浮かべながら話すレノアに、アスランは首を傾げた。 「あんなに好き合ってたんだもの。そうなるのは当然だわ」 瞬間、アスランは弾かれたように目を見開いた。 「・・・気付かなかったの?キラちゃん、あなたのこと、本当に好きだったみたいよ?」 しばらく言葉を噤んでいたアスランだったが、ふと我に返り、眉を顰めた。 「それでも、これが彼女の為に、一番いいことなんです」 そういう息子は、もう言葉を変えないのだろう。男に二言は無いと言う言葉に、この時ばかりは、レノアには嫌気さえさした。 「本当に、そうかしら?」 「ええ。・・・いつまでも彼女を、縛り付けておきたくはないですから」 嘘だ。 本当は縛り付けてでも、傍に置いておきたいに違いない。 けれどアスランは、自分の我侭を貫こうとしない。 元よりアスランは、我侭を言わない。 親を困らせたりしない。 「・・・・・キラちゃんはきっと、わかってくれるわ」 それが何のことを示すか、わからないほどアスランは鈍感ではない。 「いいえ。そのことを、キラに言う気はありません」 心配をかけたくないから、とアスランは自嘲を浮かべながら呟いた。 「・・・・・そう。じゃあ、本当に、いいのね?」 しつこいぐらいに問うレノアに、アスランは首を縦に振った。 自分にはもう、時間が無い。 このままキラと一緒にいれば、否応無く彼女に心配をかけてしまう。 そんなの、嫌だから。 そんなの、情けないから。 だからアスランは、キラと別れようと思った。 キラを愛するからこそ、決めた選択だった。 あとがき えっと、ぶっちゃけ、レノアさんを書くの忘れてました。 アップしてから気付きまして、こうして新たに+αしました。 てなわけで、アスランがキラに別れ話を切り出した理由をちょびっと。 Before/ TOP |