「ねえ、部長は・・・・・?」

 朝、いつものように出勤したらアスランの姿がないので、キラは隣の席の同僚に尋ねた。

 「ああ、聞いてない?今日から部長、アプリリウスへ出張だって」

 「え・・・・・・・・・・?」

 キラの驚愕の表情に、その同僚も眉を顰める。何故キラが、部長のことを聞いてこんな反応を見せるのだろうと。彼女は記憶喪失

であるはずなのに。

 「たぶん、二、三週間は向こうにいるって。・・・・・もしかしたら、向こうに転勤になるかもね」

 キラの反応が気になって、思わず有りもしないことを言ってしまう。

 案の定、キラは言葉も出ないといった様子で目を見開き、固まっている。

 「ねえ。あなた、記憶、戻っているんじゃないの?」

 キラの目が、更に見開かれた。

 「やっぱり・・・・・で、どうするの?」

 キラは、何が?とでも言うようにこちらを見てくる。

 「部長よ、部長!!縒り、戻さないの?」

 半ば呆れを含んだ声で言ってやる。しかしキラは困ったような顔をするだけで、何も言おうとしない。

 「ま、係長のこともあるだろうけど、あんまりほっとくと部長、可哀想よ?」

 「フレイ・・・・・」

 ただ自分の名前を呟くだけの唇にフレイは、はあぁ・・・と重い溜め息を吐いた。

 「ちょっとは部長の気持ち、考えてあげなさいよ、キラ?」

 ぶっきらぼうに言い、フレイは机の上の書類の束をトントンと揃えると、席を立った。

 「じゃあ私、これ提出してくるから」

 振り向きざまにそう言うと、踵を返して係長の元へと向かうフレイを名残惜しそうに見送っていたキラはふと、視線を感じた。

 殺気こそ含んでいないが、どこか怒りを感じさせる視線だ。

 キラは恐る恐るそちらを振り返る。

 そして、アイスブルーの瞳と目が合い、キラは思わず肩を揺らしてしまった。

 「イ・・・・・イザーク・・・?」

 そう、キラに怒りを主張している視線を向けていたのは、かつての恋人、イザーク・ジュールだった。

 だが、それも束の間。イザークはすぐに目を逸らし、目の前のパソコンを打ち始めてしまった。

 キラはしばらくぼうっとそちらを見ていたが、突然鳴ったメール受信の音でハッと我に返った。

 一体誰からだろうと思いながらメールボックスを開くと、そこにはイザークからのメールがあった。

 慌ててイザークの方を向くが、彼はパソコンを続けているようで、こちらを見る気配はない。

 キラはメール画面に目を戻し、その内容を黙読した。

 

 『アスランの所に行かないのか?』

 

 たった一言の短い文章だけれど、キラにとっては心臓が張り裂けるほどの威力があった。

 キラは目を見開いて、またイザークを見た。

 するとすぐにまた、メール着信の音が鳴った。

 

 『場所はアプリリウス市のミネルバ社だ。住所はそこのフロントにでも行って聞け』

 

 また、心臓が鳴る。

 痛くて痛くて堪らないけれど、キラの心の中は確実に揺れていた。

 どんな短い時間でも、離れていたくない。

 それはキラが幼少時代から、否、それ以前から思っていたことだ。

 しかし、行けない。行けるはずがないじゃないか。

 自分はもうアスランに関わるのは止めようと誓ったはずだ。

 彼が傷付くのが嫌だから。だから。

 心の葛藤は、そう簡単には納まらない。

 目を伏せて、自分の心に尋ねる。

 本当にこれでいいのか。

 本当にこのままでいいのか。

 アスランは、本当にこれで幸せになれるのか。

 自分はもっと、自信を持ってもいいのではないだろうか。

 キラはすっと立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

]…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日は傾き、空が赤く染まり始めた頃。

 アプリリウス市、ミネルバ社。

 国内では結構有名で、クライン社にも劣らない程の大きな会社である。

 ザフトカンパニー系列で、社長はタリア・グラディスという女性であり、一風変わった雰囲気もある。

 そんな中、キラはフロントでアスランのことを尋ねていた。

 「あの・・・ザフトカンパニー総務課のキラ・ヤマトと申しますが、本日から出張に来たアスラン・ザラはどちらにいますか?」

 フロントの女性は赤髪で、ツインテールがよく似合っている。

 「はい、少々お待ちください」

 にこやかにそう言うと、女性はパソコンで検索を始めた。

 キラはぼうっと、先程のことを思い返す。

 アスランが出張だと聞いた後イザークからのメールを見て、キラはイザークにしばらく休暇をくれないかと申し出た。

 いつも怒ってばかりのイザークは口端を吊り上げ、何か面白い悪戯でも思いついたような顔をして承諾してくれた。

 いっそアスランの出張が終わるまでそっちにいても構わない、と付け足して。

 それから、キラは粗方仕事を片付けて、ザフトカンパニーからはそう遠くないここ、ミネルバ社に来たのだ。

 そんなことを考えているうちに検索を終えたのか、女性はあの・・・と声をかけてきた。

 「今アスラン・ザラは出ているようで・・・」

 申し訳なさそうにそう言う彼女の片手は、まだパソコンのキーボードの上に置かれたままだ。

 「そうですか・・・・・いつ頃戻るかわかりますか?」

 「おそらく、遅くなると思いますので、そのままホテルの方へ戻られると思いますよ?」

 一介のフロント嬢が何故そこまで言えるのかは謎だが、キラは取り敢えず、今は会えないだろうと結論付けた。

 「じゃあ、そのホテルの住所とか、わかりますか?」

 その発言に女性が驚いたのは言うまでもないだろう。

 キラは彼女の反応にきょとんとするが、一向に返事が返ってこないので、あの、と小さく尋ねてみた。

 「あっはい!!じゅ、住所ですね!?少々、お待ちください!!」

 女性はハッと我に返ると、慌ててパソコンを打ち始めた。

 今度はすぐに検索結果が出たようで、アスランの泊まるホテルを聞くと、キラはその場を後にした。

 残された女性は一人、キラの背中を見送っていたとか、いないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出張先で社長に挨拶をして来いとパトリックに言われたので、アスランは嫌々ながらも社長室にいた。

 そう、本当はそこで挨拶を済ませるはずだったのだ。

 しかし。

 

 「ごめんなさいね、付き合せてしまったようで」

 ミネルバ社の社長タリア・グラディスは、さして悪びれもせずにそう言ってきた。

 「いえ、構いませんよ。これも、仕事のうちでしょう?」

 アスランは当たり障りのない微笑を浮かべながらそう言って、目の前のワインを一口飲んだ。

 ここはアプリリウス市で最も高級なレストランである。

 何故アスランがこんなところにいるかと言うと、理由は一つ。隣にいるグラディス社長のせいである。

 

 

 

 今から約一時間前。

 アスランはタリアの元へ挨拶をしに行ったのだ。

 ちょうど会議が終わった後のようなので、相手が疲れているだろうということを考慮して、早く済ませてしまおうと思いながら

入った社長室。

 そこには大きめでふかふかしていそうな黒い椅子に腰掛けながら、デスクの上の書類の束を片付けている社長、タリアの姿が

あった。

 「お忙しい中、失礼します。本日、ザフトカンパニーの方から派遣された、アスラン・ザラです」

 淡々と言い、アスランは礼をした。

 タリアはしばらく仕事をしていたが、やがてキリがついたのかアスランの方を見上げた。

 「私はタリア・グラディスよ。よろしくね」

 大人らしい微笑を浮かべて話すタリアは、思ったよりも話しやすそうだ。

 「こちらこそ、よろしくお願いします。それで――――」

 アスランは父パトリックから頼まれた言伝を早々に言ってしまおうと口を開いたが、それは次のタリアの言葉に遮られた。

 「これから、時間貰えるかしら?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」

 タリアの誤解を招くような言葉に、アスランは長々と間をあけて間の抜けた声を溢した。

 社長の前だというのに失礼にも程があるというものだが、この場合は致し方ないのではないかとアスランは思う。

 「今日、取引先の社長と夕食を取る予定なのだけど、私の部下が急に行けなくなってしまって・・・」

 苦笑を浮かべながら言うタリアに、アスランは彼女の言わんとしていることに気付く。

 「つまり、私が社長とその夕食会に行けということですか?」

 どこか憮然とした顔をしていった声に、その通り、とでも言うような笑みを浮かべると、タリアは机の上から数枚の書類を

手に取った。

 「それは・・・?」

 アスランが首を傾げると、タリアは先方の個人情報よ、と答えた。

 アスランは差し出されたその書類に一通り目を通すと、またタリアに目を向けた。

 「もうそろそろ出なきゃならないのだけど・・・いいわね、ザラ君?」

 有無を言わせない瞳で言われ、アスランは拒否することも出来ないまま仕度に取り掛かった。

 

 

 

 そうして、今に至るというわけだ。

 「あら、来たようね。ザラ君、今日は頼んだわよ?」

 隣のタリアがどこか楽しそうに言ってくるのに軽く返事をし、しかしアスランの頭の中には全く違うことが渦巻いていた。

 それは言わずもがな、キラのことだ。

 キラはもう帰っただろうか、とか。

 帰り道はちゃんとイザークに送ってもらっているのだろうか、とか。

 心配はいらないだろうけれど、夕飯はちゃんと食べているのだろうか、とか。

 キラが自分を見てくれていないとわかっていても考えてしまうのは、それ程までに彼女を愛しているという証なのだろうか、

とアスランは自嘲する。

 胸元に下げられたリングのネックレスが、嫌になるほど冷たかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと夕食会が終わり、時刻は既に九時を回っている。

 アスランは駐車場に車を停めると、ホテルのフロントに行って鍵を受け取った。

 朝、直接仕事場に行った為、鍵は未だに受け取っていなかったのだ。

 アスランはそのまま自分の部屋に向かおうと、エレベータに乗り込んだ。

 その姿をじっと見つめている人物がいるなど、全く気付く気配も見せずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋に入り背広を脱いでベッドに投げる。

 「ふぅ・・・・・なんだか、忙しい一日だったな」

 そう一人ごちると、アスランは紅茶でも入れようとポットに近づいた時。

 ピーンポーン・・・・・・・、と少し間の抜けた音が聞こえた。

 「誰だ、こんな時間に・・・?」

 しかし、もしかしたらホテルの従業員が何か用があってきたのかもしれない。

 アスランはそのままドアに向かい、躊躇いも無くドアを開けた。もちろん、チェーンロックはしたままだが。

 「はい・・・・・・・・・・っ!?」

 ほんの少しの隙間から垣間見えるドアの向こう側に立つ人物は、アスランがよく知る女性だった。

 「ラクス―――――・・・!?」

 そこに立ち無表情のままアスランを見据えるのは、いずれ彼の婚約者になるであろうラクス・クラインであった。

 「こんばんは、アスラン。・・・少し、よろしいですか?」

 ラクスは声のトーンを下げて、静かに言った。

 それは有無を言わせない立ち姿で、アスランは心なしか恐怖を覚えた。

 慌ててチェーンを外し、ラクスを中へと誘おうとするが、ラクスはそれを拒み、じっとアスランを見つめる、とは程遠い視線を

向けていた。

 「・・・・・どう、したんですか?こんな、夜遅く・・・」

 「アスラン」

 なかなか話そうとしないラクスに焦れて言葉を紡ぐが、それをラクスが遮る。

 「・・・・・はい?」

 怪訝そうに眉を寄せてラクスに先を促すと、彼女は更に目を細めた。

 「あなたは、まだキラを愛していらっしゃるのでしょう?」

 いきなり何を言い出すんだろう、この人は。とアスランが変なものを見るような目でラクスを見ると、ラクスの瞳は更に険しく

なる。

 「愛して、いらっしゃいますね?」

 これは、何の脅しだろうか?

 「当たり前です。俺の気持ちは、以前と変わっていません」

 怪訝な表情を隠そうともせず、憮然と言ってやる。

 ラクスはその答えに安心したのか、先程よりは柔らかな視線になっている。

 「なら、行って差し上げてくださいな」

 「・・・・・・・・・・は?」

 言っている意味がわからず、アスランは素っ頓狂な声を上げる。ラクスはそれを気に留めることもなく、先程の表情は微塵も感じ

させないような笑顔を浮かべた。

 「今ならまだ間に合うはずですわ。先程、ロビーでお会いしたばかりですから」

 「え・・・・・?」

 それはつまり、キラがこのホテルに来たということだろうか。

 「早くしないと、後悔しても知りませんわ」

 「え、あの・・・それは・・・・・?」

 頭の中が混乱して何が何だかわからなくなるが、アスランはラクスに助けを求める。

 「キラは既に、記憶を取り戻していらっしゃいますわ」

 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 「貴方が銃で撃たれた時・・・・・銀行強盗事件の時だそうですわ」

 では、キラはずっと記憶が戻ったことを隠していたということか。

 「そんな・・・・・・・・・・どうして・・・?」

 「キラに聞けばよろしいのではありませんか?アスラン」

 キラの記憶はもうずっと以前に戻っていた?

 そしてそれを今まで隠し、黙っていた?

 どうしてなんだ、キラ・・・・・?

 アスランは気付けば一人、走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランがホテルに入ってきたところを見た。

 フロントに行って、鍵を受け取って、エレベーターに乗って・・・。

 キラも、その後を追おうとした。

 しかし。

 偶然というのはこういう時に限って起こるもので。

 ホテルの出入り口が開いたかと思ってふとそちらに目をやれば、そこにはいつの日かアスランの婚約者になる予定の者だと言って

いた、ラクス・クラインの姿があった。

 頭ではいても当たり前だとわかってはいるけれど、それとは裏腹にキラの身体は硬直してしまって。

 気付けばすぐ目の前に、彼女の空色の瞳があった。

 「あら、キラ?どうしたんですの、こんなところで・・・?」

 不思議そうに無垢な瞳を向けてくるラクスに、なんだかとても申し訳なくなってくる。

 キラがこれから会おうとしているのは、他ならぬ彼女の婚約者になる予定のアスランなのだから。

 「誰か・・・・・まさか、アスラン、ですか?」

 ハッと思いついたように彼の名前を言うラクスに、キラの中の罪悪感が膨らむ。

 自分はここにいていい人間じゃない。

 自分は彼に会っていい人間じゃない。

 「・・・・・いいえ。別に・・・・・・・・ちょっと、仕事の都合で、寄っただけですから」

 付け焼刃の言い訳なんて通用しないだろうけれど、キラにはこれが精一杯だった。

 「・・・そう、ですか?」

 納得がいかないとでも言うような視線だけれど、キラは敢えて知らないふりをする。

 「僕、もう、帰るんで・・・」

 早くこの場を立ち去ってしまいたい一心で、キラは早口にそう言って踵を返した。

 だが、ラクスにはキラの考えていることなど手に取るようにわかるのだ。

 しかし、それを口に出すことはない。

 キラは一人でここまで来たのだ。

 不安だろうに。

 恐いだろうに。

 それでも、来たのだ。

 ならば―――――。

 「今度は、アスランが応える番ですわ」

 自分でも聞き取れないくらい小さな声で、ラクスはキラの背中を目で追いながら呟いた。

 キラはラクスのその呟きに気付かずに、逃げるようにホテルを後にした。

 そうだ。

 アスランにはラクスがいる。

 アスランの婚約者に相応しい器量を持った彼女に、自分など敵うはずがないではないか。

 けれど、どうしてだろう。

 「なんで、僕・・・・・泣いてるんだろう・・・?」

 目頭が熱くて、火傷しそうだ。

 それでも、走る足は止めない。

 本当は行きたい。

 アスランの元へ。

 彼を抱きしめて、ずっと自分の傍に縛り付けておきたい。

 それでも。

 アスランは自分といて、本当に幸せになれるのかと聞かれれば、すぐに首を縦に振ることなどできない。

 たとえアスランが今でも自分を想ってくれていると知っても、自分が彼の元へと戻ることで彼が幸せになれるなんて保証は無いの

だから。

 そう思えば思うほど、キラの中でアスランに近づいてはいけないという気持ちが強まっていく。

 自分は彼の傍にいてはいけない。

 彼の自由を束縛してはいけない。

 彼の手を取っては、いけない。

 キラは自分に言い聞かせる。

 そうだ。

 アスランと一緒にいてはだめだ。

 アスランを困らせてはだめだ。

 アスランの気持ちに応えることも、しちゃだめだ、と。

 けれどもし。

 今追いかけてきてくれるのなら。

 今自分の元へ駆けつけてくれるのなら。

 その時は。

 彼の手を取っても、いいかもしれない。

 まだ、気持ちが揺れている今なら。

 キラの気持ちが通じたのか、それとも単なる偶然か。

 

 「ッキラ!!!」

 

 ピタリ、と足を止め。

 信じられないと、目を見開き。

 ゆっくりと、時をかけて振り返る。

 「ア・・・・・スラン・・・・・・・・・・?」

 驚愕に見開かれたアメジストの瞳が、走ってきたせいか息を乱して両膝に手をついているアスランの姿を捉える。

 「はあ・・・・・キ、ラ・・・・・・・・」

 キラはハッと、アスランが自分のことを名前で呼んでいることに気付く。

 仕事場でも、プライベートであった時も『ヤマトさん』だったのに。

 「・・・ラクスから、聞いたの?」

 もしかしたら、否きっと、アスランはキラが記憶を取り戻していることを誰かから聞いたのだろう。

 でなきゃ有り得ない。

 アスランは無闇に人の名前を気安く呼ぶような性格ではないのだから。

 ましてや、キラのように記憶を無くしたものを困らせるようなことはまずしないだろう。

 そんなことを考えているうちにも、アスランはゆっくりと距離を縮めてくる。

 「・・・ラクスから、さっき・・・・・」

 汗ばむ額を拭うこともせず、キラの反応を窺うアスラン。

 「・・・・・そっか・・・・・・・・・・」

 そう、口にするのが精一杯で。

 「キラ・・・・・本当に、キラなのか・・・・・・・・・?」

 疑うような、それでいて、期待するような視線を向けてくるアスランに、キラは苦笑を向けた。

 それは、以前。

 キラが記憶を失くす前、彼女がよく見せていた表情で。

 アスランの心は、確信した。

 それと、同時に。

 「アスラン!?何、どうしたの?どっかぶつけた?」

 急にその澄んだ翡翠の瞳から零れ落ちる涙に、キラは目を剥いて慌てる。

 「・・・・・ちが・・・・・・・うれ、しくて・・・・・・・・・・・・・」

 嗚咽交じりの声で、途切れ途切れに紡がれる言葉は、キラの心を温かくするには十分なものだ。

 「アスラン・・・・・・・・・・。アスランは、僕のこと、どう思ってる?」

 先程の苦笑は影も形も無く、キラは真顔で尋ねた。

 「あ・・・・・」

 「ずっと黙ってて・・・・・アスランを捨てようとした僕を、君はどう思ってるの?」

 当たり前だろう、と言い返すアスランの言葉を遮り続けるキラの声は落ち着いていて、しかし、どこか焦っているようにも

とれた。

 「ズルイ女だと思う?弱い女だと思う?馬鹿で・・・・・愚かな女だと・・・思う?」

 まるで置き去りにされた子犬のように、目を潤ませてアスランに問いかけるキラの瞳は、時々車のライトに照らされて、その度に

アメジストが浮かび上がる。

 「キラ・・・・・・・・・・」

 アスランは小さくキラの名を呼ぶと、そのまま彼女を抱き寄せた。

 衣擦れの音が、近い。

 「・・・・・アスラン・・・・・・・・?」

 一瞬のうちに一変した視界に、キラは目を丸くして瞬かせた。

 「俺は今もキラが好きな気持ちは変わらないよ」

 優しく、心地良く響く、愛する人の声は、頭の芯まで届いて余韻を残してゆく。

 「君を、愛している」

 こみ上げるものはただ、熱くて、苦しくて、けれど、心の奥底に嵌めた枷が、外れたような気がした。

 「今も、この先も、ずっと・・・」

 心が、自由になる。

 「アス・・・ラ・・・・・・・・・・・僕、も・・・・・」

 涙で濡れた瞳を、アスランから少し距離を置いて向ける。

 「君が、好き・・・・・」

 どうして、黙っていたのだろう。

 どうしてあの時、記憶が戻ったあの時、すぐにアスランに言わなかったのだろう。

 どうして離れていた方がお互いの為だと、思い込んでしまっていたんだろう。

 ああ、こんなにも愛おしいのに。

 傍にいて当たり前の存在だというのに。

 離れていてはお互い、傷つくだけだというのに。

 「愛してるよ・・・・・アスラン」

 触れる暖かさは、君がいてこそあるモノなのに。

 気付かなかった。

 気付けなかった。

 簡単なことだからこそ。

 当たり前のことだからこそ。

 けれど今また、手を取り合って、抱き合う。

 

 ああ、心が温まってゆく。

 

 今、わかった。

 

 お互いが、ずっと、一緒にいることこそが。

 

 お互いの、幸せなんだって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後書き。

 初めて書き終えた長編がこれだとは・・・・・。

 そして初めて後書きというものを書く。

 管理人は会社とかの組織とか全くわかっていませんので、そのへんはあんま突っ込まんでください。

 マジ、アスキラ二人してハツカネズミですが・・・・・。

 これってキラ受けになるんでしょうか?謎です(おい)

 まあ、キラ受けってことにしときましょう。

 それにしても、長さがばらついてますね・・・。

 今度から気をつけます。(最後だけ異様に長い・・・)

 この物語で学んだことは、登場人物を増やすと碌なことにならないということですかね。

 いやね、何故か私、登場人物大量に出すの好きらしくて、いつの間にか沢山いるんですよ。

 たまにこんがらがります。

 次は何を書こうかな♪

 

 二千六年三月十一日土曜日午前二時三十五分。

 二千七年二月九日金曜日午前一時十四分(細かいな)修正。

 二千九年三月一日日曜日午後十一時二十九分(苦笑)修正。

 
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PHOTO BYかぼんや