まだ冬の寒さの名残りが残る今日この頃。しかし空は晴れやかで、雲も少ない。

 そんな中、自室でパソコンのマウスを操作しながら、携帯電話を片手に電話中の青年。

 「はぁ!?」

 その青年は、彼の宝石エメラルドをそのまま嵌め込んだようなそれはもう美しいまでの輝きを持つ二対の瞳をこれでもかと見開き、奇声紛いな声を発

した。

 『だから、今日俺の家に来ないかって言ってんだよ。一回で聞き取れよアスラン』

 受話器の向こうでは、呆れたような、はたまた怒りを含んだような声が聞こえた。

 「や、聞き取れてたよ。聞き取れてたけど、なんで突然?」

 こっちにも都合と言うものがあるのだ。とはいっても今日は暇で、こうして今もパソコンで趣味のマイクロユニットの設計図を作ってたりするのだが。

 『おいおい、お前、人の話全然全く聞いてなかっただろ?』

 そんな相手の声に、青年、アスラン・ザラは目を瞬かせて、一体何のことだと首を傾げた。

 『この前話しただろ?今度俺の家で就職祝いやろうって』

 盛大に溜め息を吐かれつつ話された事柄は、アスランには全く身に覚えの無いことだった。

 「そんなこと聞いてないぞ?いつ言ったんだよ?」

 これでも記憶力はいい方だ。少なくともアスラン自身はそう自負している。記憶喪失などあるはずも無い。

 『・・・・・ああそっか。お前あの時、酒飲んでたんだっけ?』

 何故か納得したような様子な相手に、アスランは更に首を傾げた。

 「は?俺、最近酒なんて飲んでないけど??」

 そんなアスランの返答に、相手は再び大きく長い溜め息を吐いた。

 『ああ、そうだな。そうだったな。お前は聞いて無かったよ。うん。それでいい。兎に角、今日5時に来いよ!!』

 最早諦めきった様子の相手に、アスランは眉を寄せるが、次いで聞こえたじゃあなという声に柄にも無く慌てる。

 「あ、ちょっ、カガリ!!??」

 だが時既に遅く、相手、カガリは通話を切っていた。

 ツーツーツー・・・というなんだか虚しさを煽るような音が、頭に痛い。

 アスランはその音を止めると、携帯電話を傍らに置いて溜め息を吐いた。

 「・・・まったく、カガリのヤツ・・・・・」

 そう一人ごちると、アスランは再びマイクロユニットの設計図制作に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒酔いの接吻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局あの後、マイクロユニットの設計図を完成させたアスランは、暇で暇で仕方がなかったので、カガリの家まで来たのだ。

 家に上がると既に、何人かの友人たちが来ていた。

 「よう、アスラン!!」

 まず初めに声をかけてきたのは、見るからに軽そうな色黒の金髪ディアッカ・エルスマンだった。

 何故彼のような軽そうな男と友人なのかと言うと、それは偏に彼の相棒のような存在、今丁度フンッと鼻を鳴らしながらアスランから目を逸らした銀髪

の青年、イザーク・ジュールが常にアスランにライバル意識を持ってくるので、アスランと言い争いやら殴り合いやらを止めるために割って入るディアッ

カとも自然と話すようになったというわけだ。

 「こんにちは、アスラン。今日もマイクロユニットを作ってたんですか?」

 ディアッカに適当に挨拶を返すと、今度は一つ年下のニコル・アマルフィが声をかけてきた。

 「いや、今日は設計だけだ。あんまり無駄遣いしたくないからな」

 マイクロユニットは、当たり前だが材料がないと始まらない。しかしその材料費が結構高かったりするのだ。漸く就職するアスランだが、ついこの間マイクロ

ユニットを大量に作ってしまったので、最近は金欠で困っているほどだったりする。

 「そうですよね。あんまり作ると、ゴミが増えるだけですもんね」

 ニコニコと天使のように可愛らしく、いっそ神々しいまでの笑顔を浮かべながらそう言ってのけるニコルに、アスランは最早言い返そうとも思わなかっ

た。

 「アスラン、飲み物、何がいい?」

 そう聞いてきたのは、今朝方電話してきた友人のカガリだった。

 「何でもいいよ」

 苦笑を浮かべてそう返すと、その優柔不断さが気に入らなかったのか、カガリは眉を顰めた。

 「じゃあ青汁に牛乳とパセリを混ぜたミックスジュースでいいな?」

 思わず、聞いた瞬間に想像してしまった。

 「・・・・・・・・・・麦茶で、お願いします」

 取り敢えず、ニコルたちも飲んでいる麦茶を口にしてみた。

 カガリは何故か舌打ちしながら、しかしわかったと台所の方に向かっていった。

 アスランと、何故かニコルやディアッカ、更にイザークまでもが安堵の溜め息を吐く。

 「そういえば、料理ってまさか、カガリがするのか?」

 ふと頭の中に浮かんだ疑問を、口に出して言ってみる。

 「まさか。あのカガリが出来るわけないっしょ?」

 そう答えたのは、肩をすくめたディアッカだった。

 傍らでは何を思い出したのか、イザークが顔を青くして何やらブツブツ言っている。

 「今日はキラさんが作るんだそうです」

 ニコリと微笑んでアスランの問いに答えたニコル。しかしアスランは首を傾げた。

 「『キラ』?」

 そんなアスランの様子に何かに納得したようにニコルは苦笑を浮かべた。

 「カガリの双子の妹さんです。凄く可愛いんですよ」

 そういえば以前、カガリから妹がいると聞いたことがあった気がする。

 「そういえばお前、いっつもいなかったよな」

 なるほど。アスランのいない時に限って、そのキラと言う女の子に会っていたというわけか。なら、アスランが知らないのも無理は無い。

 そうしている間にもカガリが戻ってきて、麦茶をテーブルの上に置いた。

 「ほらよ。味わって飲め」

 麦茶など味わって飲むほど高価なお茶じゃないじゃないかと思いながら、先程の青汁に牛乳とパセリを混ぜた飲み物を思い出してしまい、何も言わずに

それを口にした。

 と、丁度その時、玄関が勢いよく開いた音がした。

 「ごめんカガリ、遅くなって!!」

 高すぎず、低すぎない絶妙な声の高さ。それでいて澄んだ響きを持つそれに、アスランはコップから口を離した。

 そして、リビングのドアを開けて入ってきたのは。

 「ただいま!!って、あれ、もう来てたの?」

 満面の笑みを浮かべていたかと思うと、すぐに見止めたカガリの友人たちに目を丸くした少女。

 鳶色の長く透き通るような髪に、大き過ぎず小さ過ぎないこれまた絶妙に整った紫水晶の瞳。

 人目で美人とわかる、その容姿、その肢体。

 気付いたらアスランは、彼女に見惚れていた。

 「・・・ラン・・・・・ア・・ン・・・・・・・・・・おいこらこのデコ!!!」

 突然の大声に、ハッと我に返ったアスランの目の前には、なんだか怒っている様子のカガリ。

 「何ぼーっとしてんだよ。ほら、自己紹介ぐらいしたらどうだ?」

 ジト目で睨みつけてくるカガリに辟易しながらも、アスランは居住まいを正した。

 立ち上がって、カガリの双子の妹である少女の元に歩み寄る。

 そして徐に片手を差し出した。

 「初めまして。アスラン・ザラと言います。カガリとは、大学一年の時からの付き合いで、いつもお世話させていただいてます」

 後ろで何やら抗議の声が聞こえたが、アスランは無視を決め込んだ。

 「こちらこそ、初めまして。僕はキラ・ヤマト。あ、敬語でいいよ?カガリと同い年なんでしょ?」

 アスランの手を取りつつ微笑んでそう返してくれるキラに、アスランは仄かに頬を染めた。

 「あ、はい・・・じゃなくて、うん。よろしく、キラ」

 慌てつつもそう答えたアスランに目を細めたキラは、小首を傾げて。

 「よろしくね、アスラン」

 上目遣いに、そう言ってきた。

 途端、耳まで赤くなるアスラン。

 後ろから向けられる視線が、痛い。

 そんなこんなで、アスランはカガリの血縁とは思えないほど優しげな面立ちを持つキラと出会ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてキラが、夕飯基ご馳走を作る為に台所に行ってから数十分。

 「皆―出来たよー!!」

 達成感に満ち溢れた声が聞こえたと同時に、白くて細い手に皿を乗せて現われるキラ。

 「あ、すみません。手伝いますよ」

 その皿が重そうで、ニコルは咄嗟にそう申し出るが、それは傍らに座るカガリが制した。

 「いや、お前たちはここで寛いでろ。俺とキラだけで十分だ」

 どうやらカガリは自分が調理に手を出すと大変なことになるためにキラに台所から追い出されたので、今度こそはと意気込んでいるようで、誰にも邪魔

されたくないらしい。

 「別に手伝わなくってもいいのに・・・。お皿、割らないでね?」

 苦笑交じりに言うキラの言葉。それに、ああ優しいんだな、と思ったのはアスランだけだった。

 そうして運び終えた料理を前に、突然キラが声をあげた。

 「あっ!!」

 皆がその声に反応する中、カガリがどうした?と尋ねた。

 「お酒出すの忘れちゃった。皆、飲むでしょ?」

 一応仮にも就職祝いパーティーなので、成人している彼らにとっては酒は付き物だろうと思ったキラは、そう言うなり立ち上がる。

 「あ、いや、俺はやめとくよ」

 遠慮がちにそう申し出たアスランに首を傾げるも、遠慮しなくていいんだよ?と言ってくるキラに、アスランはやんわりと首を振った。

 「俺、酒弱いから」

 苦笑交じりにそう言うアスランに、心配げに眉を寄せながらも、そう?と小首を傾げる。

 「ああ。だから、俺のことは気にしないで」

 まあ、酒が弱いのに無理に飲ませることはないかと結論付けたキラは、他の皆のコップとビールを取りに台所へ行った。

 キラがいなくなった後、アスラン以外の皆は安心したように溜め息を吐いていた。

 そしてそれを、首を傾げながら眺めていたアスランこそ、カガリたちの溜め息の根源なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃ、アスランとカガリの就職を祝って、カンパーイ!!!」

 キラの声を合図に、皆がそれぞれのグラスを鳴らし合う。

 カガリは大手モルゲンレーテ社に。アスランはマイクロユニット制作会社に。

 皆、二人を祝う。

 因みにキラはと言うと、大学には行かずに専門学校に言って就職したので、既に社会人である。

 「美味しそうですねー!!何から頂きましょうか?」

 見るからに美味しそうなご馳走たちに、自然と浮かぶ笑顔を隣に座るアスランに向けるニコル。

 「そうだな。けど本当、カガリの妹とは思えないな」

 この料理の見目の麗しさと言ったら、カガリとの血の繋がりを疑ってしまうのも無理は無い。

 「あはは。そんなことないよー!!僕だって車の運転できないし」

 この前駐車する時、車止め乗り上げて停めてあった自転車にぶつかりそうになっちゃったし、などと笑いながら言うキラ。笑い話ではないのだが、本人

が笑っているのだからよしとしよう。

 「じゃ、頂くぜ?」

 美味しそうな料理に我慢できなくなったのか、ディアッカが口を開いた。

 「馳走になる」

 素っ気無いが、イザークらしい言葉に、キラやニコルたちは苦笑する。

 「では僕たちも頂きましょう」

 「ああ。キラ、頂きます」

 そう言ってニコルとアスランも料理を食べ始める。

 「じゃ、俺らも食うか」

 カガリも食べ始めようと、キラに声をかける。

 「そうだね。じゃあ、頂きます」

 そうして二人同時に手を合わせる様は、双子ならではだ。

 そうして世間話をしながら食事を続けていると、ふいに不思議そうな声が上がった。

 「あれ?このハンバーグ、変わった味してますね?」

 ニコルの言葉に、箸を休めてキラは答えた。

 「ソースに隠し味入れてみたの。口に、合わなかった?」

 不安そうに言われて、ニコルは慌ててそんなことは無いと返した。

 「美味しいですよ、とっても。キラさんって、本当に料理、上手ですね」

 そんなニコルの言葉に僅かに頬を染めながら、キラはお世辞はやめてよと言う。

 「いえいえ。お世辞じゃありませんよ。本心です」

 ニコニコと笑顔を満面に浮かべるニコルに、便乗したのは今まで彼の隣で黙々と食事を続けていたアスランだった。

 「そうだぞキラ?君の料理は世界一上手い。いや、宇宙一だ」

 突然のなんだか物凄い褒め言葉に、キラは目を丸くした。

 「・・・・・アスラン、もしかして酔ってます?」

 まさか僕のお酒を横取りしたんじゃないでしょうね?と微笑みながら問うが、アスランは首を振る。

 「そんなことするわけないだろ?第一、俺は正気だ。酔ってなどいない」

 この微妙に饒舌なところが、酔っている証拠だと思うのだが。

 ニコルはそう思い、カガリやディアッカやイザークに視線を向けるが、誰もアスランに酒を飲ませていないという。

 やはり、アスランは酔っていないのだろうか。

 それとも、酒の匂いに酔ったのだろうか。

 そこまで考えて、ハタと思考を止めるニコル。まさか。

 「もしかしてキラさん。その、隠し味って・・・・・?」

 ニコルの言わんとすることを悟ったのか、キラはニコリと微笑んだ。

 「赤ワインだよ?それがどうかし・・・・・」

 続くキラの言葉は、突然遮られてしまった。

 何に、と問われれば、それは唇、なのだが。

 突然の柔らかい感触に、固まるキラ。

 同時に、それを端で見ていた、基見てしまったニコルたちもまた、固まった。

 しかしその視線を物ともせず、キラたちを硬直させた張本人であるアスランは、あろうことか驚きで思わず唇を開いてしまったキラの口内に舌を忍ばせ

た。

 「っ!!??」

 ビクリ、と震える全身を、アスランがやんわりと抑える。

 腰に回される手も、後頭部を支える手も、犯す舌使いさえも、何もかもが優しくて、キラは拒むに拒めなかった。

 歯列をなぞる感覚に、背筋が震えて。

 感じる熱いモノに、全身が痺れる。

 「っふ・・・・」

 零れる吐息混じりの声が、一層頬を赤らめる。

 いつの間にか潤んだ瞳から、意識もしていないのに涙が零れる。

 初めての感覚に、翻弄されるキラ。

 けれど不思議と、嫌な気がしなかった。

 「ちょ、ちょちょちょちょっと、アスラン!!??」

 漸く我に返ったニコルが、慌ててアスランを引き剥がしにかかる。

 しかしその前に、アスランはキラを解放した。

 唇と唇の間に伝う銀糸が、キラの羞恥心を一層煽った。

 嚥下し切れなかった口蜜が口端を伝っているが、キラはそんなことを気にしていられる余裕など無かった。

 羞恥に顔を染めたキラは、即座にそっぽを向き、蹲って顔を隠した。

 人前で。それも、友人たちの前で、なんということをしてしまったのだろう。

 諸悪の根源はアスランなのだが、今のキラにはそこすら頭から抜け落ちていた。

 キス。キスされちゃった。キスだよキス??ていうか僕、初めてだよ!!どうしよう。ファーストキスがあぁぁ!!!

 などと心の中で考えていると、傍らでバタリと何かが倒れる音がした。

 反射的に顔を上げて音の根源を見ると、そこにはなんと、自分からファーストキスを奪ったアスランが倒れているではないか。

 「あーあ。またやってるよ・・・・・」

 呆れたような、声。というか、『また』とは、こういうことが以前にもあったということだろうか。

 「この腰抜けが・・・・・」

 腰抜けと言うのは、力尽きて倒れたことを指しているのだろうか。

 「アスラン、今度はキスを・・・・・」

 『今度は』ということは。

 「キスは初めてなの?」

 口に出してから、後悔する。これこそ真に、後悔先に立たず、である。

 「キラ、大丈夫か!?アスラン起きろぉ!!!」

 いたいけなキラの唇を奪いやがってーっ!!などと叫んでいるカガリを尻目に、ニコルはキラの発言に驚きつつも、答える。

 「え、ええ。いつもは抱きつくんですが・・・」

 勿論、僕が知っている中で、ですが・・・と言葉を続けるニコルに、ふぅん・・・と納得した様子のキラ。

 「おいおいキラ。まさかアスランのこと、許すのか?」

 そんなキラの反応に、ディアッカは呆れたように言う。

 「?許すって、何を??」

 しかし、首を傾げて心底不思議そうに問い返してくるキラに、ディアッカは二の句が告げなかった。

 「何って、キ・・・・・キス、だろうが!!」

 『キス』と言う言葉を口に出すのが恥ずかしいのか、イザークが顔を真っ赤に染めながらキラの質問に答えた。

 「へ?なんで??」

 またしても不思議そうに首を傾げるキラに、今度はニコルが言葉を紡いだ。

 「だって、突然無理やりそれはもう野生に還ったようにキラさんの唇を奪ったじゃないですか?それなのにキラさんは、アスランを許すんですか?」

 ニコルのその言葉に漸く納得したのか、キラはああ、と苦笑を浮かべた。

 「許すとか、許さないとかいう以前に僕、拒んでないから」

 そのキラの言葉に、怒りのあまりわなわなと震えていたカガリまでもが固まった。

 「・・・・・・・・・・ちょっと、キラ?まさか・・・」

 恐る恐ると言った体で、尋ねてくるカガリに。

 「うん。僕、アスランのこと、好きになっちゃったかも!!」

 にっこりとこれ以上ないほどまでに満面の笑みを浮かべたキラ。

 こうしてキラは、アスランに恋をしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンガンと、頭が痛みを訴える。

 その痛みに耐えかねて、アスランはゆっくりと目を開けた。

 そして、まず初めに目に入ったのは。

 「あ、気がついたアスラン?」

 柔らかな光を持つ紫水晶。

 「キ・・・・・・・・・・・・」

 彼女の名を紡ごうとした口はそのまま固まり、瞬間、フラッシュバックのように蘇る記憶。

 見る見るうちに青褪めて行くアスランに、心配そうに眉を寄せたキラ。

 「大丈夫、アスラン?」

 「キ、キキキキキキラ!!??」

 どうでもいいが、どもり過ぎである。

 「どうしたの、アスラン?」

 しかしキラはそんなことなど気にも留めずに首を傾げる。

 「あ、あの、さっきは、その・・・・・ゴメン!!」

 慌てて起き上がり、バッと頭を下げて謝るアスラン。

 「その、酔った勢いで・・・・・」

 「酔った勢いだけで、キスしたの?」

 アスランの言葉を遮って聞こえた声に、彼は思わず顔を上げた。

 「アスランは、酔ったから僕にキスしたの?」

 その、今にも泣きそうな表情に、アスランは固まる。

 「僕のこと、好きでもないのに、キスしたの?」

 とうとう、零れてきてしまった涙に、アスランは慌てて違う!!と叫んだ。

 「違うよ、キラ。それは誤解だ。俺は・・・・・っ」

 そこまで言って、口を閉ざす。

 言っていいのか。

 突然キラの唇を奪って、散々キスを貪って、今更そんなことが言えるのだろうか。

 「『俺は』、何?」

 しかし追求してくるキラに、否とは言えず。

 「俺は・・・キラが、好きだよ?」

 ふと、彼女の涙が止まった気がした。

 「一目見た瞬間・・・いや、君の声を聞いた瞬間から、君のことが好きだ」

 だから、キスをしたのは酔ったからではない。酔って、勢いがついたから、キスしてしまったのだ。

 「・・・・・ごめん」

 「どうして、謝るの?」

 またしても頭を下げるアスランに、キラはやんわりと尋ねた。

 「だって俺、あんなことしたのに、今更・・・・・」

 「僕も、君の事、好きだよ?」

 だって、嫌いだったら、アスランの唇が触れた時点で殴ってるもん、と続けたキラに、アスランはでも・・・と言葉を挟んだ。

 「でもも糸瓜もないの。僕は君を好き。君も僕が好き。それでいいじゃない?」

 ね?と小首を傾げて同意を求められれば、断れるはずも無く。

 アスランはただ、苦笑を浮かべて。

 「ありがとう、キラ」

 キラを、抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

またしても短編を書いてしまいました。。。

お昼にやってた料理番組を見て、ハンバーグのソースの隠し味(?)に赤ワインを入れているところを見て妄想に走ったものです。

なんだか久々にカガリを出した気がするのですが。カガリは♂化してます。アスランと友達設定です。

因みに、小説内で起こったキラの運転話は、日記を読んでくださっている方にはわかると思いますが、実話だったりします。

ていうかただ単に酒に弱いアスランが書きたかっただけだったりするのです。






Photo by CAPSULE BABY PHOTO

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