フェルト生地の白いコートが、風に翻る。 身体中に受ける風が、冷たく痛い。 凍える手をハンドルから外し、その上で握り拳を作る。だが大して寒さは変わらない。 どうしようもない寒さに溜め息を吐くと、目の前に白い空気が生まれた。 突然広い空間に出て、視界が一層開ける。 無駄に広い駐車場に、人の姿は無い様だった。 ちらりと目に入った、煌めき。 キラは自転車に乗りながら、夜空を仰いだ。 キラキラと、それらは輝き、瞬く。 それが綺麗で、キラは自転車を運転しているにも関わらず、それらを見つめてしまった。 勿論、前方に注意を払えるわけが無い。 次の瞬間。 「うわっ!?」 驚いたような声と同時に、身体が揺れ、身体が横に傾いで行く。 「ふわあぁ!!??」 なんとも情けない声だ、と自分自身に呆れる間もないまま、キラは地面に近づく怖さに思わず目を瞑った。 硬いコンクリートに激突する、そう思っての行動だったのだが、それは危惧に終わったようだ。 何故なら、感じるはずの痛みと衝撃がなかったから。 そして何より。 「大丈夫か?」 優しく響く男性の声が、キラの耳に届いたからであった。 星から始まる恋物語 聞こえてきた声に恐る恐る目を開くと、キラは傍らで自分の身体を支えてくれている男性を振り返った。 瞬間、目に入った一対の宝石。 それは夜闇にも輝く、翡翠色をしていた。 否、実際の宝石よりも、極上のモノ。 その輝きに、キラはまたしても見惚れてしまった。 「?どうか、したのか?」 しばらく、といっても数秒だが、キラはそんな彼の声にハッと我に返った。 「あ、はい!!えと、あの・・・・・」 しかしこの状況を未だ飲み込めていないキラには、なんと言っていいのかよくわからなかった。 そんなキラに男性は困ったように微笑み、再び大丈夫かとキラに尋ねた。 「はぁ・・・僕は、平気ですが・・・・・」 そう言葉を濁すと、男性は何を思ったのか急に心配そうにキラを覗き込んだ。 「もしかして、どこか怪我した?それとも、打ったとか??」 そう言いながら身体中を見てくる男性。いい加減、恥ずかしい。 「い、いえ!!どこも怪我なんてしてないし、打ってもいません!!」 だから大丈夫です!!!と言い、キラはさっさと立ち上がった。 男性もそれに倣い、緩慢とした動作で立ち上がった。 「そう。なら、よかった」 その紳士然とした動作に、キラは思わず見惚れてしまう。それを不思議に思ったのか、男性は不思議そうに首を傾げて、 どうかした?とキラに尋ねた。 「な、なんでもないです!!あの、すみません、なんか、助けていただいたようで・・・・・」 慌ててそう返すと、男性は苦笑を零した。 「いや、俺も悪かった。ぼんやり星なんか見てたから、全然前見てなくて・・・・・」 言葉を濁す男性に、キラは貴方もですか・・・と仲間を見つけたとでも言うように微笑んだ。 その表情に、男性が顔を赤らめたとは、この夜空の下ではわかるまい。 「君もなんだ?冬は星が綺麗だからね。でも、自転車に乗りながらは、やめた方がいいと思うよ?」 その言葉に、なんだか責められているような気がして、キラは思わずごめんなさい・・・と俯いた。 「ああ、いや、そう言う意味じゃなくて・・・・・ほら、怪我したら、危ないだろ?」 そう言いながら、キラの服についた汚れを落としてくれる男性。なかなか優しい人だ。 「そう言っていただけると、ホッとします」 なんだか彼の言葉を聞いたら、いつの間にか硬くなっていた肩の力が抜けたような気がした。 「それはそうと・・・君、これから帰るところ?」 気分を換えて尋ねてくる彼に、キラははい、と返した。 「さっきまで塾だったんで。・・・ちょっと、寄り道しちゃったけど」 本当はちょっとどころではないのだが、彼に言ってもどうしようもないなと踏んだキラは敢えてそう口にした。 「そうか。でも、女の子一人じゃ、危ないだろう?この際だから、送ってくよ」 「へ?え、いや、ちょっ・・・・・」 突然の申し出に、キラは思わずうろたえてしまう。 「気にしないで。家、どこらへん?」 「え、と・・・・・あっちの方ですけど。でも、送ってくれなくてもいいです!!」 渋々ながらも自分の家の方角を指差したが、キラはすぐにきっぱりと断りの言葉を言った。 しかし彼はそんな声も気にもせず、倒れた自転車を起こしてそれをキラの家の方角に向けて押し始めた。 「あっ!!ちょっと!!!」 焦るキラから逃げるように、男性は歩き出したのだった。 「あ、言い忘れてたけど、俺はアスラン。アスラン・ザラ。よかったら、名前、教えてくれないか?」 最早自転車を返す気の無い彼に諦めたキラは、その声を聞いてふと眉を寄せた。 何故、見ず知らずの男性に名を名乗らなければならないのか。 けれど助けてくれたのは事実だし、ここで名乗らなければ失礼に値するだろう。 「キラ・ヤマトです。あの、ザラさんって、サラリーマン?」 なんだか沈黙も気まずいところがあるので、キラは取り敢えず問いを口にした。実は心の中ではずっと、気になっていた ことなのだ。 「ああ。シード・カンパニーで働いてる。はいこれ、名刺」 そう言って渡されたのは、確かに彼の言った会社名と、彼の名前、そして携帯番号などが記載されている名刺だった。 「ありがとう、ございます」 なんと言ったらよいのかよくわからないので、取り敢えず礼を言っておく。 「どういたしまして」 こちらを振り向く彼の微笑に、キラは自分でもわかるほど顔を赤く火照らせた。しかしやはり、この暗闇の中では判り辛く、 アスランは気付いていないようだった。 「ザラさんって、おいくつなんですか?なんか、あんまり僕と歳離れてないような気がするんですが・・・」 通常、女性には歳を聞くのは失礼だが、男性には大丈夫だろう。 「23だよ。まだまだ新入社員さ」 苦笑交じりに答えたアスランの横顔に、キラはほんの少し驚いたように目を丸くした。 「え、23!?・・・もっと若いかと思った・・・・・」 思わず本音が出てしまったが、どうやら彼は許してくれたようで、苦笑を浮かべていた。 「そうか?友人には老け顔ってよく言われるんだけど・・・」 それは彼がいつも大人びた表情をしているからだとは、キラには知り得ないことだ。 「あ、僕の家、ここです!!」 そう言って前方に見える極普通の一軒家を指差したキラに、アスランは足を止めた。 「じゃあここまでだね。はい、自転車。あんまり夜遅くに外で歩いちゃ、危ないよ?」 またしても心配をしてくる彼に、キラは呆れるどころか苦笑まで込み上げてきて。 「心配してくださって、どうもありがとうございます。じゃあ、僕はこれで。本当にありがとうございました」 言いながら頭を下げるキラに、アスランもまた苦笑を浮かべた。 「これからは星を見ながら自転車に乗らないように」 そう注意する彼に、キラは思わず噴出す。 「『自転車を乗りながら星を見ないように』じゃなくて?」 その言葉に、あっ!と声を漏らすアスラン。またしても笑いが込み上げてきてしまう。 アスランもそれに釣られたのか、二人一緒に笑い合った。 そうしてしばらくして漸く笑いが収まると、アスランは急に真剣な眼差しをキラに向けた。 「あの、ヤマトさん」 その眼差しに一瞬たじろぐも、キラは首を傾げつつ彼を見返した。 「よかったら今度、一緒に星を見に行きませんか?」 これは、もしや。 「突然で驚いたかもしれないけど。でも、自転車乗りながらよりも、安全だろう?家から見るより綺麗だと思うし」 まるで言い訳のように、堰を切って漏れ出す言葉たち。 キラは思わず笑ってしまった。 「いいですよ。星、見に行きましょう?」 その返答に、アスランは綻ぶように笑った。 「ありがとう!!」 出会いは星を見ながら。 そして誘いは星を使って。 今度は手を繋いで、星を見よう。 星を切欠に、この恋は始まる。 あとがき 大変お待たせいたしました。 PCでは40000hit。携帯では33313+2000hit、同時に33313+3000hitをそれぞれ記念し、書かせていただきました。 何気にこれ、歳の差ですよね。キラ一応、学生ですので(ぇ)。 アスランは会社員です。別にザラカンパニーとかでもよかったんですが、面倒なので(ぉぃ)。 兎にも角にも、PC40000hit、モバイル2000&3000hit、どうもありがとうございました!!! |
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