ガタンゴトン・・・・・と、時折不規則に揺れる電車内。

 キラは一人頬を赤らめ、俯いていた。

 その眉は困ったように歪み、極上の輝きを持つそのアメジストは、今は隠されている。

 今は丁度ラッシュの時間であるため、仕事に向かう会社員や、学校に向かう学生たちがギュウギュウと身を

押し合っている。

 そんな混み具合の中、キラはその人混みから逃れるかのように隅にいた。

 ちょうど傍に窓があったのでそこから外の景色をぼんやりと眺めていたら、突然、『何か』が足に触れたよ

うな感覚。

 最初は気のせいかと思ってはいたが、やがてその『何か』は、キラのスカートの中にまで入り込んでくる。

 さすがにこれはまずいと思ったキラは、慌てて逃れようとしたが、それは突然の得体の知れない感覚に遮ら

れることとなった。

 下着の上をなぞる『何か』に、背筋に寒気のようなものが走る。

 それに恐怖を覚えたキラは叫ぼうと口を開いたが、いつの間にかカラカラに渇いた喉からは、掠れた吐息し

か零れてこなかった。

 徐々にせり上がってくる恐怖と不安に、頭が真白になる。

 どうしていいのかわからない。

 自分が降りる駅は、あと5つも先にある。

 背後に立つ、男と思われるこの人物は、一体どこで降りる気なのだろうか。

 このままでは、中まで犯されかねない。

 そう思い至ったキラは、不安や恐怖などを押し退け、勇気を出して自分の下着を触っていたであろう人物の

手を取った。

 「この人、痴漢です!!」

 そして振り返って見た、その人物は。

 藍色の少し長めの髪に、綺麗な翡翠色の瞳。そして何より整った顔立ちをした、青年だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誤解+羞恥の恋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「へ?俺!?」

 青年は驚いたように声を上げた。

 丁度その時駅に停車した電車の出入り口が開く。

 ふと、青年の横にいた男がその駅に降りようと動いたのを見て青年が何か言いたそうにしていたのが見えたが、

キラは構わず青年を睨んだ。

 「ここで降りてください。駅員さんに引き渡します」

 そう言って、青年の手を握ったままグイグイと外に向かって歩き出す。

 「ちょ、ちょっと待て!!俺じゃない。俺は君を助けようと思って・・・」

 「言い訳なんて聞きません!!第一あなた、僕の後ろにいたじゃないですか!!」

 慌てて抗議した青年であったが、キラは全く聞く耳を持とうとしなかった。

 「違う!!君に、その・・・痴漢行為をしていたのは、あの男だ!!」

 途中逡巡しながらもそう言い、青年は前方に見えた走り去っていく男の後姿を指差した。

 自然と、キラもそちらを向く。

 そういえばあの男、確かさっき青年の隣にいたような・・・。

 「・・・・・・・・・・それ本当?」

 「本当だ。君が辛そうだったから、助けてやろうと思ったんだが・・・。君の勇気には頭が下がるよ」

 初対面なのにそう言われてしまい、キラは羞恥に頬を染めた。

 「す、すみません!!えと、あ!!」

 慌てて謝ると、ふと前方を走る男が転んだのがわかった。

 それに反応して、二人はそちらに走り寄る。未だにキラは、青年の手を離していなかったが、彼自身気にして

いないようだ。

 そうして敢え無くその痴漢は、取り押さえられたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痴漢を駅員に渡し、キラたちも軽い事情聴取を受け、青年の言葉が正しかったのだと再び確信した。

 「本当に、ごめんなさい・・・」

 自分のあまりの失態に、キラは肩を落としてしまう。

 「いや、いいよ。黙って何も行動しない女より、君は全然いい」

 苦笑を浮かべてそう返してくる青年。先程事情聴取の際に、アスラン・ザラだと名乗っていたのを、キラは

ふと思い出した。

 「あの、ありがとうございました」

 先程助けようとしてくれていたことを思い出し、取り敢えず礼を言っておく。

 「どういたしまして・・・何も出来なかったけどな」

 困ったように笑う彼に、キラは慌てて首を横に振った。

 「そんなこと、ないです!!一緒に事情聴取まで受けてくださって・・・」

 「気にしないでくれ。俺が好きでやったことだから」

 そう言い、漸く来た電車に乗り込む彼。

 キラもそれに倣う。

 「その制服、ザフト学園?」

 「ああ、そうだよ。君は・・・オーブ学園か?」

 互いの制服を見合って、互いの学校を確認し合う。

 「うん、あ、じゃなくて、はい!!」

 思わず敬語を忘れてしまい慌てて直すが、アスランに笑われてしまった。

 「いいよ。同い年だろう?」

 確かに、先程聞いた年は自分と同じもので。

 「でも、なんか、申し訳ないって言うか・・・なんて言うか・・・・・」

 口篭るキラに、アスランは更に笑った。

 「気にするなって。敬語を使われた方が疲れる」

 そう言われてしまえば、敬語を止めざるを得ないではないか。

 「・・・・・わかったよ」

 未だに不満そうな顔をするキラに、アスランは苦笑する。

 ふと、電車が止まり、扉が開く。

 「あ、俺ここだから」

 そう言って、あっさりと去ってしまおうとする彼を、キラは慌てて待って!!と言って呼び止めた。

 「また、会えるよね?」

 その声に、肩越しに振り返ってアスランは不適に笑って。

 「会えるさ」

 そう言ってまた、歩き出した。

 キラの口元には、隠しきれない笑みが浮かべられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

携帯サイトの拍手用に書いた物。

痴漢に間違われたアスランと、アスランを痴漢と間違えて捕獲したキラのお話です(爆)。

アスランが優しいのか口が悪いのかよくわからんですね(笑)。







Photo by *05 free photo

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