君と星








































 色とりどりで様々な形をしている飾り。

 その中でもメインは、なんと言っても『短冊』である。

 キラは先程書いたばかりの短冊を笹の葉に取り付け、ほぅ・・・と小さく溜め息を吐いた。

 「キラ!!」

 と、そこに、青年の声が聞こえて、キラは徐にそちらを振り向いた。

 「あれ、アスラン?なんか用?」

 若干刺々しい物言いだが、これが彼らの常。

 別段気にするでもなく、アスランはキラの近くに寄った。

 「コレ、書けた?願い事」

 そう言いながら、手元の翠色の短冊を掲げてキラに示す。

 「うん。今付けたとこだよ。アスラン、何お願いしたの?」

 ニコリと微笑んでそう答え、アスランの短冊を覗き込むキラ。

 「ん?いや、大したことはないよ」

 アスランは罰が悪そうに言葉を濁すと、自分のソレも笹の葉に付ける。

 ガサリ、と葉の鳴る音が響き、アスランの手が離れたのを見計らって、キラがその短冊に手を伸ばす。

 「何々?『キラと恋人になれますように』ぃ!?・・・・・ちょっと、アスラン?」

 アスランの短冊に書かれた願い事に、キラはジトリと書いた本人を睨んだ。

 当のアスランは、気まずそうに目を逸らし、明後日の方向を見やっていた。

 「あらあら、お二人とも、仲がよろしいんですのね」

 突然、アスランの後方から、とても澄んだ声が響いた。

 キラとアスランはそちらに目をやり、あっと声を漏らした。

 「ラクス!?」

 「それに、カガリ、イザーク、ディアッカも・・・」

 前述はキラ、後述はアスランである。

 そう、ラクスの後ろには、カガリ、イザーク、ディアッカと続いていたのだ。

 しかし、妙な組み合わせだ。

 「キラ!何もされなかったか?」

 一目散に駆け寄って来ると、カガリはアスランからキラを庇うように背中にやり、アスランを睨みつけながら言った。

 「え?あ、うん、まあ・・・」

 わけもわからず、適当に返事をする。

 それを聞いて、カガリの表情がほんの少し、ほんの僅かだが緩んだのはアスランしか知らない。

 「お久し!元気してた?」

 軽快に手を上げながら挨拶をしてくるのは、勿論色黒ディアッカ。イザークなわけが無い。

 そのイザークは、ディアッカの隣で腕を組みながら、アスランと目を合わせようとしない。

 「ああ。仕事の方はどうだ?ザフトも、大変だろう。そういえばイザーク、お前、評議員の仕事があるんじゃないのか?こんなところに来ている暇、

ないんじゃ・・・・・」

 「うるさいっ!!ディアッカに無理やりつれてこられたんだ!!文句を言うなら、こいつに言え!!」

 アスランの言葉を遮って、イザークは容赦なく吠える。ご丁寧にディアッカをビシリと指差して。

 「おいおい、俺だってそんな、考え無しってわけじゃないんだぜ?お前が休暇も取らずに戦後の後処理後処理後処理・・・・・いい加減休まねぇと、

そのうち河童になるぞ?」

 「何故そこで河童なぞが出てくる!!第一、ここはオーブだ!!!河童は日本の妖怪の名前だろうが!!!」

 最もなツッコミだ。

 「あらあら、喧嘩はいけませんわ」

 ニコニコと女神よろしく微笑むラクス。

 しかし声音はそれとは裏腹、冷たく響いて夜闇に消えていった。

 イザークとディアッカはピタリと動きを止め、背筋を正す。

 「早く短冊を付けてしまいましょう?マリューさんたちの分も、頼まれていますの」

 そう言って手元の数枚の短冊を顔の横に持ち上げて小首を傾げる。

 それを合図に、カガリを初め、イザークとディアッカも笹の葉に短冊を付け始める。

 だが、ラクスは一向に動こうとしない。

 そしていつの間にか、彼女の手元にあった短冊がない。

 注意深く見ると、イザークとディアッカの手元に、先程ラクスが持っていたと思われる短冊が握られていた。

 どうやらラクスに付けて欲しいと、あくまで、お願いされたのだろう。

 ガサゴソ、と少々騒がしい音がこだまする。

 やがてそれが治まると、皆徐に夜空を仰いだ。

 「綺麗だね・・・」

 「ああ・・・まるで、キラの瞳みたいだ」

 キラの感嘆の声に、アスランの甘い声。

 「何言ってる、アスラン!?キラの全てが、星みたいに決まってるだろ!?」

 そう言って二人の雰囲気をぶち壊す、カガリ。

 「あら、流れ星ですわ」

 笑顔を寸分も絶やさず、そう呟くラクス。

 「おい、ディアッカ」

 「何?隊長さん?」

 「・・・・・貴様、一生ここで暮らすつもりか?」

 前大戦後、ディアッカはオーブからプラントに戻った。

 だがそれはほんの一週間前で、すぐにここに来たということは、そういうことなのだろうか。

 「・・・・・いや、戻るよ。プラントには、親父もいるしね」

 そう言いながら、ゴロリと草原に身を投げるディアッカ。

 イザークはそれを半ば忌々しげに見下ろし、フン、と鼻を鳴らした。

 「いいのか?」

 投げやりに吐き出された言葉に、ディアッカは訝しげにイザークを仰ぎ見た。

 「複隊しても、回りの視線が気になって仕事にならないんじゃ、話にならん」

 真っ直ぐ前を見据えながら、イザークは相変わらず怜悧な声音で言う。

 ディアッカはしばらく呆気に取られていたが、すぐにフッと笑みを零した。

 「心配いらねえよ。お前だって知ってんだろ?俺がそんな玉じゃねえってことぐらい」

 ニヤリ、と口端を歪めてイザークを見据える。

 「覚悟は、出来ているんだろうな?」

 チラリ、とディアッカと目を合わせる。

 それに、笑みを深めることで返すディアッカ。

 イザークはそれに笑って返し、踵を返す。

 「口だけじゃないってこと、見せてもらおう」

 そう、言い置いて。

 「おう!!」

 ディアッカも軽く返事をし、二人はいったん別れた。

 イザークはどうやら、先に宿に戻ったらしい。

 宿、といってもマルキオ導師の自宅なのだが。

 「本当に、仲がよろしいのですわね。羨ましいですわ」

 イザークがその場を後にしたのを見計らったラクスがディアッカの横に腰を下ろし、彼の顔を覗き見る。

 「そう見えるか?・・・ま、長い付き合いだからな」

 苦笑を零して語るディアッカに、そうですかと軽く返してまた夜空を振り仰ぐラクス。

 「こんなに綺麗な星々ですのに、私たちは今まで、空を見る暇もありませんでしたわね」

 笑顔を完全に消し、真剣な眼差しで空を見上げる。

 「・・・・・確かに。宇宙にはいたけど、星なんて見る余裕、なかったもんなぁ」

 しみじみと漏らすディアッカに、ラクスは眉を歪めた。

 「戦争というものが、もう二度と、起きなければいいのですが・・・」

 「無理だね、はっきり言って。・・・近いうちに、また起こる。そんなすぐに、俺らコーディネーターとナチュラルの壁は、なくならねえよ」

 そう言って、ディアッカは立ち上がり、草を払う。

 「じゃ、俺そろそろ戻るわ。後は姫さんたちでごゆっくり」

 片手を挙げて言い、そのまま振り返ることなくその場を後にするディアッカに、ラクスはニコリと微笑んだ。

 しかしすぐに表情を引き締めて。

 「私たちは、『人間』ですから、仕方ありませんわね」

 と、小さく漏らしたことは、誰も知らなかった。

 「私も、そろそろ・・・」

 そう言って、常の微笑みを湛えて立ち上がり、ディアッカ同様草を払う。

 「カガリさん、そろそろ戻りましょう?」

 未だにキラとアスランの邪魔をしているカガリに一声かけると、カガリから非難の声が上がる。

 「ええ!?もうか?もうちょっと・・・・・」

 言い募ろうとするカガリに、ラクスは笑みを深めて更に言う。

 「今日ぐらい、よろしいではありませんか。今日は、彦星様と織姫様が、年に一度、お会いになられる日なのですから」

 だから、この日くらい、キラとアスランを一緒にいさせてもいいではないかと。

 ラクスはその意も込めてカガリに言う。

 「・・・・・わかったよ。アスラン!くれっぐれも、キラに何にもするなよ!!!」

 カガリは渋々返事をすると、アスランを指差して吐き捨てた。

 アスランは、はいはいと苦笑交じりにそう答えた。

 その返答が不満だったのか、しかしカガリはアスランに掴みかかることなく足音荒くその場を後にした。

 カガリがイザークに似ているような気がするのは気のせいだろうか、とアスランは自分自身に尋ねる。

 だが勿論、答えが帰ってくることは無い。

 「じゃあな、キラ。気をつけるんだぞ!!」

 カガリはそう言い置き、その場を後にした。

 「では、お二人とも。よい七夕を」

 ラクスは微笑とともにそう言い、カガリの後に続いた。

 そうしてキラとアスランはまた、二人きりになった。

 嵐の後の静けさ、という感じだ。

 アスランは半ば緊張しながら、何とはなしに夜空を見上げた。

 キラも居心地が悪いのか、そわそわしながらアスランに倣った。

 「彦星と織姫、会えるかな・・・・・?」

 小さく呟いた声に、答えが返ってくるとは思っていなかったキラは、続くアスランの声に驚いた。

 「会えるよ、きっと。今日、晴れてるし」

 今日は晴れで、星々が綺麗に天の川を作っている。

 「そうだね。きっと、会えるよね」

 紫水晶の瞳に、夜空一杯の星々を映すキラを、アスランはチラリと見やる。

 幼さが残るまでも、やはり造形は美しくて。

 アスランは自分の頬に熱が集まるのを感じた。

 「キラ・・・・・」

 口からついて出る、愛しい人の名前。

 振り返ったキラの唇に、自分のそれを重ねた。

 「君は、俺が、守る」

 そっと話した唇から、零れた決意の言葉。

 キラは小さく目を見開き、すぐに苦笑を浮かべた。

 「ありがとう、アスラン」

 もう、離さない。

 もう、離れない。

 一本に繋がった糸は、切れることは無いのだと。

 このときの二人は、そう思っていた。








































あとがき

続きません。七夕SSです。初めて季節行事モノとか書きました。

彼らが何を願ったのかと言いますと。

キラは「僕が生きてる間に、トリィが壊れませんように」、ラクスは「キラが幸せになれますように」、

カガリは「キラが悪い虫(特にアスラン)に犯されませんように」です(苦笑)。

イザークは「平和が続きますように」で、ディアッカは「ミリィが俺に振り向いてくれますように」です。

笑うしかない。







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