ホルマリン漬け






























 僕は小さい頃親に捨てられた。

 否、正確には売られたといった方がいいだろう。

 確か、僕がまだ四歳の時だったと思う。

 僕の家は元々貧乏で。

 父は仕事をせずに、パチンコばかり。

 当然母はパートをして。

 随分、無理をしていたと思う。

 父は父で、いつの間にか多大な借金を抱えて。

 母はとうとう倒れてしまって。

 父は僕よりも母を愛していたから。

 僕を売って、借金を帳消しにして、まともに働く決心をした。

 母は僕よりも父を愛していたから。

 そんな父を許して、父を見守っていこうと決心した。

 だから僕は、孤独だ。

 どんなに抵抗しても。

 どんなに嫌な事があっても。

 逃げ出すことは許されない。

 だって僕は、僕を売った父も、そんな父を許した母も、大好きだったから。愛していたから。

 だから。

 「起きなさい?」

 優しい声音。

 けれど心の中では、とてつもなく恐ろしいことを考えている人間。

 「・・・はい、ご主人様」

 少しでも嫌がれば、そのとばっちりは僕にではなく両親に向く。

 だから、抗うような愚かなことはせずに、素直に従う。

 けれど理由は他にもあった。

 「そろそろ切れる時間だろう?さあ、今度は何して遊ぼうか?」

 ニヤリと背筋が寒くなるような笑みを浮かべる相手を見据えながら、小刻みに震える全身をゆっくりと起こす。

 「ご主人様がお望みなら、何なりとお申し付けください」

 身体全体を支配するだるさを振り払うように、無理やり笑みを浮かべる。

 それに満足したのか、相手は一層楽しげに口端を吊り上げた。

 「私の名前を呼びなさい、キラ?」

 言いながら、僕の足に手を置く相手の名前をゆっくりと音にする。

 「はい、アスラン様・・・・・」

 重なる唇は、甘く。

 それでいて、嫌悪感が勝る。

 そしてアスランはどこからともなく注射器を出し、僕の紫に変色した右腕に打ち込んだ。

 徐々に、震えが収まっていく。

 それと同時に感じる浮遊感。

 身体がどんどん軽くなっていく。

 これは、ご褒美だ。

 僕がご主人様に従順であることの。

 僕がここに買われた時から続いている遣り取りだ。

 だから僕も、逆らうようなことはしない。

 逆らえばこの薬をもらえなくなるから。

 僕はまた、快感に身をうずめる。








































あとがき

短いですね。

最初、アスランの役をアズラエルさんがやる予定だったのです。

だから途中、台詞が妙なんですよ。

ていうか短い。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。







Illust by 13-Thirteen

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