ポタリ、ポタリ・・・・・。

 

 滴り続ける、紅い水。

 それを食い止める術を、二人は知らなかった。

 否、正確には、そんな余裕などなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サヨナラを言わせて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無重力空間の中、薄暗い通路を、二人の男女が肩を組み合いながら進んでいた。

 藍色の髪の青年は、半ばもたれるようにして鳶色の髪の少女の肩に縋っている。

 宙に浮いているもう片方の腕からは、止め処なく血が流れている。

 だがそれは決して、腕の怪我ではない。

 彼の背は、最早元の色がわからないほどに血に染まっていた。

 「・・・・・キ、ラ・・・・・・・・・・」

 唇を小さく動かして震える声音に、少女は彼の藍色の髪に不安げに目を向けた。

 自分の名を、常とは違う弱々しい声で呼ぶ彼に、眉根を寄せる。

 「っアスラ・・・・!!」

 涙が込み上げるが、彼に見せんと精一杯耐える。

 彼の背に爪を立てないように、ギュッと拳に力を入れた。

 「・・・も・・・・・・・・・・いい、から・・・・・」

 搾り出すように発される声に、彼の状態が芳しくないことが自ずと知れる。

 「いい・・・って・・・・・?・・・っよくない!!・・・・・・・よく・・・ないよ・・・・・」

 首をゆるゆると振り、彼の言葉を拒否する。

 「いい、んだよ・・・・・俺はもう、ダメ・・・・・・」

 「ダメじゃない!!」

 彼の言葉を遮り、少女は声を荒げる。

 「・・・・・・・・・・」

 「ダメ・・・・・じゃないよ・・・・・・・・・・?」

 先程とは打って変わり、アスランには劣るでも弱々しい声で首を左右に振り続ける。

 「キ・・・・・ラ・・・・・・・・・・」

 今にも消えてしまいそうな、声。

 ああ、この人は。

 自分が愛するこの人は。

 遠くに、いってしまうんだ。

 そう、思ってしまう自分の心が、許せない。

 「アスっ!!君は生きるんだ!!今、死んだら・・・許さないから・・・・・」

 零れ落ちる、雫。

 キラの透明の涙と、アスランの腕から零れ落ちる血液が、宙に漂い混ざり合う。

 どうして、君は泣かないの?

 ふと、そんな疑問が思い浮かぶ。

 彼の翡翠の瞳には、涙なんて浮かんでいなかった。

 それどころか、どこか諦めにも似て曇っている。

 ふと、開ける視界に、顔を上げる。

 そこには、今は銀色に静止している大きな二つの人体機械があった。

 それは、そこに鎮座しているだけで、どこか威厳を感じさせる雰囲気を醸し出す。

 一つは、キラが乗るフリーダム。もう一つは、アスランが乗るジャスティスである。

 だがキラは、迷うことなくアスランごと自分の機体のコクピットを目指した。

 「・・・キラ・・・・・?」

 それを不審がってか、アスランが怪訝そうに眉根を寄せた。否、それとも痛みからか。

 「今の君には、アレは操縦できないだろ?だったら、僕と一緒に乗った方がいい」

 アスランを見ずに前方にあるコクピットを見据えたまま、キラはきっぱりと言って見せた。

 「ま、て・・・キラ。俺は、大丈夫、だから・・・」

 掠れた声で訴えても、キラは一向にその言葉を聞き入れようとはしなかった。

 そんな彼女に、アスランは一度瞑目すると、そっとキラの肩を押しやった。

 「アスラン?」

 キラは信じられない、というような目でアスランを凝視した。

 「先に、行け、キラ。・・・俺は後から、行くから・・・・・」

 だから俺を置いて行けと、アスランは無理やり微笑を作った。

 キラを安心させるように。

 どうして彼はここまで、馬鹿なんだろうと、キラは思う。

 「っ馬鹿!!そんな身体でっ、動かせるわけないだろう!?」

 コーディネイターでも、コツを掴まねば出来ないほど難しいものなのだ、MSは。

 それなのに彼は、出血多量であるにも関わらず、機体を動かし自分の後を追うというのだ。

 きっと彼は、悟ってしまっているのだろう。

 自分がもう、助からないことを。

 自分はもう、ここで死すのだと。

 けれど、キラにはどうしても諦めきれなかった。

 「ダメ・・・・・ダメだよアスラン、諦めちゃ!!」

 彼の肩を掴み、必死に言い縋る。

 「僕はっ・・・・・僕は、君を、失いたくないんだ!!」

 もう二度と、離れ離れにはなりたくない。

 もう二度と、会えないなんて考えられない。

 嫌だ。

 その心を、どうしてわかってくれない?

 「キラ・・・・・」

 そんな目で、見ないで。

 「お願いだ、キラ・・・」

 そんな声で、呼ばないで。

 「大丈夫、だから・・・・・」

 そんなわけ、ないのは知っているから。

 「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 「愛、してるよ・・・・・キラ」

 

 

 

 

 

 どうして今、その言葉を囁くの?

 どうして君の身体は、傾ぐの?

 だってまだ、こんなにも暖かいのに。

 だってまだ、こんなにも優しい表情をしているのに。

 

 

 

 どうしてその翡翠を、見せてくれないの?

 

 

 

 するり、と抜け落ちる彼の逞しかった肩。

 無重力なのに、どうして彼の身体は沈んでいくのだろう?

 まるでここが、海の中のように。

 遠く、遠くへと、沈んでいく彼。

 徐々に冷えていく、我が指先に。

 キラは彼を『失くした』のだと実感した。

 それと同時に、押し寄せる衝動。

 

 

 

 

 

 「っあ、ぁ・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 どうして貴方は、逝ってしまうのですか?

 

 

 

 

 

 「う、ああぁ・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 どうして貴方の声が、聞こえないのですか?

 どうして貴方の息遣いさえも、聞こえないのですか?

 

 

 

 

 

 「っぅ・・・・・あああぁぁぁぁぁぁあぁあぁ!!!!!」

 

 

 

 

 

 どうしてまた、僕の前からいなくなってしまうのですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

初バッドエンドです。一応本編パロです。最終回辺り。

ギルに銃向けてるキラ。レイは実はキラを撃とうとしてて、それをアスランが庇ったって感じです。多分・・・(おい)。

救いようのない話でホントすみません。






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