えいぷりる・ふーる








































 今はナチュラルが主とする地球連合軍と、コーディネイターが主とするザフト軍との争いが繰り広げられている真っ只中・・・・・のはずだ。

 なのに、こんなことがあっていいのだろうか。

 というか、無駄に戦火を拡大させているだけではないのか。







 俺はアスラン・ザラだ。因みに歳は十六だ。

 俺は今、食堂で仲間たちと共にいつもより少し遅い昼食をとりながら、壁に備え付けられているモニターを見ていた。

 「へぇ、アスランのお父さん、とうとう議長に就任したんですね!おめでとうございます」

 まるで自分のことのように嬉しそうな笑みを浮かべながら賞賛の言葉をかけてくるニコル。なんて可愛らしい性格をしているんだ、と自分を

兄のように慕ってくれている一つ年下の彼に泣いてそう叫んでやりたいのを堪えつつ、俺は苦笑を浮かべた。

 「い、いや。それは・・・・・」

 どことなくぎこちなさがあるその言い方に何かを感じ取ったのか、俺の隣で黙々と食事を続けていたイザークがふと顔を上げた。

 「なんだ、貴様。素直に喜べんのか?」

 なんだはお前だ、イザーク。というか、何故俺の隣でさも当たり前のように食事を取っているんだ!?いつもは俺とは随分離れた、というか

寧ろ端っこと端っこという正反対の位置でディアッカと二人語り合いながら食べていたというのに、今日に限ってこちらのほうに来るとは一体

どういう風の吹き回しなのか。

 「貴様、俺にケンカを売ってるのか?さっきからジロジロと」

 俺の視線に堪えきれなくなったのか、それとも自分の彼に対する疑念に答えまいとする一種の抵抗なのか、イザークは俺を睨んでくる。だが、

いくら睨んだところで、その睨みによる威圧感は彼の髪型によってかき消されてしまうが。

 「別にケンカなんて売ってないさ。ただ、なんで今日はこっちで食べているのか気になっただけだよ」

 素直にそう述べると、イザークは一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐにいつもの皮肉めいた顔でこちらを見てきた。

 「貴様の父親が議長に就任なさったと聞いて、どれだけ天狗になっているかを見に来たのさ」

 ・・・・・仮にも議長となった人を、しかも本人の息子の前で『貴様の父親』という代名詞は失礼にも値するのではないか。まあ、それは今回

だけならまだ許せるか。

 「それで?」

 「・・・・・・・・・・ああ?」

 「だから、それで、どうしたんだって聞いてるんだ」

 俺の言葉の意味を掴みかねたのか、イザークは不機嫌丸出しといった感じで問い返してくる。

 「ふん・・・・・さあな」

 そう言って、再び食事に手をつけ始めるイザーク。どうやら自分が天狗になっていなかったことに、答える言葉を失ってしまったようだ。なん

ともボキャブラリーの少ない男だ。

 「あっ!イザーク、お前こんなところにいたのか!!」

 突然の介入者、ディアッカ・エロ・・・・・じゃなくて、エルスマン。初めて聞いた時は、本当に素で間違いそうだった。というか、一度そう

言ったことがあるようなないような。まあ、気にするようなことでもないが。

 「なんだ、ディアッカ。いちゃ悪いか!?」

 即座に噛み付くイザーク。俺はそんな二人のやり取りなど興味は持たないので、食べかけの食事を口に運び始めた。向かいの席では既に食事を

終えたニコルがトレイを返しに行っていた。向こうで整備兵たちと話しているようだ。どうりで先程の会話に入ってこなかったわけだ。もちろん、

気付かなかった自分も自分だが。

 「そんなこと言ってねえよ。お前にしちゃ珍しいなって言おうとしただけで・・・・・」
 
 更に睨みを強くするイザークに負けたのか、ディアッカは口を噤んだ。まったく、情けないヤツだ。

 「余計なお世話だ!そんな本ばっかり読んでるお前に言われたくはないわ!!」

 代名詞を使っているくせに顔全体を赤くするイザークに、思わず噴出しそうになってしまう。イザーク。言うのが恥かしいなら、わざわざ大声で

いわなくたっていいんじゃないか。というまでもなく、全く別のほうから声がした。

 「何の話ですか、イザーク?声、あっちまで聞こえましたけど?」

 自分が今までいた場所を指で示しながら歩み寄ってくるニコル。

 「うるさいっ!!貴様には関係のないことだ!!」

 プイっと顔をそむけながら言うと、そのまま残りの食べ物を一気に口の中に押し込み、トレイを返しに席を立ってしまった。

 「まるで嵐のようだな」

 俺はようやく食べ終えた食器の乗るトレイを手に持ち、返却口に向かってゆっくりと歩き出した。 



















 俺たちは場所を食堂からパイロットたちの集うブリーフィングルームに変えた。別に誰が言ったわけでもない。なので、こんな口論も時折ある。

 「何故俺の後をついてくる、アスラン!?」

 イザークを先頭にして、俺、ニコル、ディアッカの順にブリーフィングルームへと向かっていた。

 「行き場所が同じなだけだろ?いちいちつっかかるなよ」

 鬱陶しいイザークを面倒に思いながらもきちんと答えを返す自分はまだ優しい方だと思うのは俺だけだろうか。

 「ふざけるな!!だったら貴様が部屋に帰ればいいだけのことだろう!?」

 これにはさすがの俺も、カチンときた。

 「はあ?なんで俺がわざわざ自分の部屋に戻らなきゃならないんだ?そんなに嫌ならお前が戻れ」

 今俺たちが歩いているのは自室からかなり離れた通路。必然とそれはイザークの部屋からも遠いことを表す。

 「誰がそんな面倒なことをするか!!」

 「だったら文句言うなよ」

 「イザークもアスランも、周りの人に迷惑ですよ!休んでいる人もいるんですから」

 いつものように止めに入ってくるニコル。彼の言うことも尤もなので、俺もイザークも押し黙った。

 程なくしてブリーフィングルームに着くと、開口一番にイザークが言った。

 「ところで、何故お前たちもここへ来る!?」

 「・・・・・休みに来たに決まっているだろ。他に何の理由があってここに来るんだよ?」

 俺は近くのソファに座りながら言った。

 「貴様になどきいとらん!!」

 「だったら主語つけろよ」

 「少しは読心力を学べ、貴様は!!」

 「一々怒鳴らなくても聞こえている。ていうか、読心力じゃなくて読心術じゃないのか?力学んでどうすんだよ・・・・・。それに、なんで俺が

わざわざお前の心なんかを読まなきゃならないんだ?」

 「きっさまああぁぁあぁあぁ!!!」

 今日の俺はとことん機嫌が悪い。なので思わずイザークにつっかかってしまうのだ。しかし、毎日のようにこんなイザークの癇癪に文句を言わず

に付き合っていたなんて、俺はすごいと思う。

 「うるせえよお前ら」

 ソファに仰向けになって何やら見るからに如何わしそうな本を読んでいるディアッカが文句を言ってくる。はっきり言って、お前には言われたく

ないと思った。というか、どこから出したんだ、その本?まさかブリーフィングルームに常備してあるわけではなかろう。

 「そうですよ!折角みんなで集まったんですから。あ、そうだ!」

 相変わらず仲裁役のニコルは何かを思いついたように声を上げた。

 「トランプでもしましょうよ!!」

 そう言ってトランプが入っているらしいケースを掲げるニコル。だから、どこから出したんだって・・・。

 「嫌だ!なんで俺がそんなことしなきゃならん!?」

 少しは疑問を持とうよイザーク。

 「おっ!いいねえ、久しぶりに」

 何気に乗り気なディアッカ。エロ本よりもトランプを取るのか。意外だ。

 「アスランはどうします?」 

 遠慮がちに問いかけてくるニコル。断る理由もないので頷いてみる。

 「こいつがやるのならやってもかまわん!!」

 どうやら、また俺に勝負を仕掛けてくるらしい。まだ諦めてなかったのか。懲りないヤツだ。

 「じゃあ、何しましょうか?」

 言いながら、ニコルはケースの中からトランプを取り出してきり始める。シャッシャッと小気味よい音が鳴る。

 「うーん・・・ババ抜きとか?」

 「スピードで勝負だ、アスラン!!」

 ディアッカは人差し指を顎に当てながら本気で悩んでいたようだが、イザークはやはり俺に勝負を挑むようだ。

 「俺は何でもいいが・・・・・ダウト、とかは?」

 「「「ダウト?」」」

 何だそれは、とでも言いたそうな表情をしてこちらを見てくる男三人。男に見つめられても嬉しくないのだが。

 「知らないのか?」

 「んなわけあるか!!」

 俺の言葉を即座に否定するイザーク。どうせ知らないに決まっている。何よりも、先程の表情を見ればよくわかる。

 「聞いたことありませんね。どういうルールなんですか?」

 「俺も知らねえな」

 素直に答えるニコルとディアッカ。ここで俺はあることを思いついた。

 「じゃあ、イザーク。お前説明してやれよ」

 俺は自分の中で一番とも言える最高の笑顔をイザークに向けた。

 「なっ・・・き、貴様が言えばいいだろう!?」

 一瞬たじろぐイザークだったが、すぐに怒鳴り返してくる。

 「いいじゃないか。それとも、お前より俺の方が上手でわかりやすい説明が出来るって言いたいのか?」

 「っ!!!そんなことは言っていない!!俺は、ただル・・・・・」

 突然言葉を止めたイザーク。俺はその先を促すように「ル?」と疑問系に首を傾げた。

 「〜〜〜〜〜〜っわかったよ!!やればいいんだろう、やれば!!?」

 イザークにしては珍しく、妥協する。単純なヤツだなあと思ったが口には出さず、俺はこっそりとほくそ笑んだ。

 「いいか、よく聞け貴様ら!!ダウトっていうのはだな・・・・・疑うんだ!!」

 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?」」」

 ニコルとディアッカだけでなく、俺までもが間抜けな声を出してしまう。

 「・・・・・えっと、それは、そのダウトっていう単語の意味ですよね?」

 ニコルが遠慮がちにイザークに問いかけた。

 「そうだ!!」

 自信満々に踏ん反り返るイザーク。

 「んなことは俺だって知ってるって。つーか今、トランプの話してるんだよな?」

 ディアッカは不安げに俺に答えを求めてきた。

 「ああ・・・・・そうだが・・・・・・・・・・」

 まさか単語の意味をこんなに自信満々に言うだなんて思いもしなかった。

 「貴様が説明しろといってきたんだろうが!!文句言うな!!!」

 いや、文句言うなと言われても・・・。

 「ニコル、ディアッカ、ちょっと・・・」

 俺はイザークに声が届かないほどの位置に二人を呼び寄せた。

 「なんでしょう?」

 「なんだよ?」

 それぞれが用件を聞いてくる。ディアッカにいたっては怒りのようなものもふつふつとこみ上げてくるような気がしたが、今は無視する。覚えていたら

後で倍返ししよう。

 「イザークのヤツ、たぶん・・・ていうか絶対にダウトのルール知らないだろうから、二人だけに教えるよ」

 その言葉に目を丸くした二人。

 「いいんですか?後でうるさいですよ、あの人は」

 うんざりしたような声で言うニコル。彼の背後に黒い靄のようなものが見えるのは目の錯覚なのだろうか。

 「へぇ。面白そうじゃん。たまにはこっちにつくのも悪くねえ」

 口端を軽く吊り上げ、悪戯っ子のように言うディアッカ。きっと、いつもイザークに振り回され続けていたから、やり返すにはいいチャンスと思った

のだろう。

 「じゃあ、まずはルールを・・・・・」

 そうしてトランプゲーム、『ダウト』の説明を始めた。 




















 「おい!何をコソコソ話している!?」

 突然、遠くからイザークの声が聞こえた。

 どうやら寂しくなってきたらしい。イザークも人間の内、ということだ。

 「今行く!・・・・・そういうことだ、わかったな?」

 俺はイザークに軽く返事を返すと、今まで俺の話に耳を傾けていたニコルとディアッカに念を押した。

 「わかりました」

 「おっけー!まかせとけって!!」

 そうしてトランプを配ろうとする矢先に、シュン、と音を立ててドアが開かれた。

 瞬時に、俺を含めニコルとディアッカ、意外にもイザークまでもがそちらに目を向けた。

 そこにいたのは。

 「ねえ、僕も混ぜて!!」

 鳶色の短めでサラサラと指通りのよさそうな髪と、本物のアメジストよりも何倍、否、何億倍もの輝きを誇るその瞳を併せ持つ、俺たちと同様、

エリートの証である赤い軍服を身に纏った少女であった。

 「なっ!?貴様、何者だ!!??」

 瞬時に反応したのは、目を大きく見開いたイザークであった。本人は気に入っているようだが、その異様なまでに切りそろえられた髪が癪に

障るのは否めない。

 「この艦に配属された方でしょうか?」

 イザークの声で我に返ったのか、冷静に言葉を紡ぐニコル。ディアッカもその隣でしきりに頷いている。

 まあ、そんなヤツらのことはどうでもいい。

 そう、どうでもいいんだ。

 俺は自分でも開きすぎだろうと思うくらい目を見開き、目の前の彼女を見つめた。

 それはもう、イザークが今冷静なら大声で笑い転げるだろうくらいに。俺ほどではないが、驚きを隠せないでいるイザークに今だけは感謝した。

 「今日、ここに配属になった、キラ・ヤマトといいます!!どうぞ、よろしくお願いします!!!」

 俺の反応を気にも留めず、キラと名乗った少女は自己紹介をした。

 そう、俺の目の前にいるのは紛れもなく、俺が幼年時代を月で共に過ごした愛おしい少女、キラ・ヤマトだったのだ。

 しかし、何故だ。

 彼女は今、足つき基、アークエンジェルにいるはずだ。

 その彼女が、どうしてここにいるんだ。

 俺は心底不思議で堪らなかった。

 もしかして、キラはやっと俺の言ったことに納得してくれたのだろうか。

 何度も説得しても、聞き入れてくれなかった彼女。その彼女が今ここにいるということはつまり、俺の言葉を受け入れてくれたことと解釈

してもいいということだろうか。

 「キラ!!!」

 気がついた時には、声を一杯に張り上げて叫んでいた。

 キラは驚いたように目を丸くしたが、すぐに微笑んでくれた。

 「アスラン・・・・・」

 その微笑みの奥にはほんの僅かだけど、悲しそうな、寂しそうな色を感じさせたような気がした。

 「何、二人知り合いなの?」

 ディアッカが意外そうに聞いてくる。どうせ俺は影で堅物とか、男色趣味とか言われているよ。今まで馬鹿馬鹿しくて言い返さなかったけど。

 ムスッとした俺とは逆に、キラは苦笑を浮かべるだけだ。

 その表情に、俺は何か、キラが重要なことを隠しているのではないかと思い、キラ・・・と彼女の名を呼んだ。

 「ごめんなさい。ちょっと、アスラン借りてくね?」

 その言葉に反応しかねて固まる俺の腕を引き、キラはさっさとブリーフィングルームを後にした。





















 「ちょ、キラ!!お前、どこにいくんだよ・・・・・?」

 俺の声に聞く耳持たず、キラは前を見据えたまま歩き続ける。

 「・・・・・ほら、着いたよ・・・入って」

 そう言って手早く部屋のロックを外し、中に入るキラ。まだ腕は放されておらず、必然的に俺も中に入る。

 俺が中に入り、キラはさっとドアにロックをかける。

 「・・・・・キラ?一体、どうしたんだよ、急に?」

 何もかもが急すぎて、俺の頭は追いついても心まで追いついていかない。

 「ごめん、アスラン・・・・・・・・・・実は、僕、今オーブにいて・・・・・」

 知ってる。というか、つい先日オーブで会ったし。

 「それで、ちょっと気分転換に外散歩してたら、なんか、変な人が現れて・・・・・」

 変な人?所謂、変態ということか。

 「僕は目を合わせるつもり、なかったんだけど・・・ばっちり目があっちゃって・・・・・・・」

 俯きながら言うキラ。しかし言っていることはなんともおかしいことで。

 「そしたらいきなり、声かけられて・・・・・」

 ・・・・・・・・・は?声をかけられた?

 「それで、なんて?」

 俺は先が気になってキラの言葉を促す。

 「うん。なんか、僕に一日限りの軍人にならないか、て言われて・・・・・」

 「な・・・・・」

 キラの言葉に流石の俺も絶句する。

 軍に入るなど、芸能人のスカウトみたいに軽く言うことではない。ましてや、一日限りなど。

 「僕・・・・・ちゃんと話したかった。戦場じゃない、ところで・・・・・・・・・・」

 「キラ・・・・・・・・・・」

 どんなに怪しいとわかっていても。

 どんなに甘い言葉だとわかっていても。

 今しかチャンスはないというのなら、それにかけてみようと、キラは思ったのだろう。

 「わかった。そうだな・・・・・俺も、ちゃんと会って話がしたいって、思ってたところなんだ」

 そうして俺らは話し出す。

 しかしそれは数分もしないうちに、口論へと変わっていった。

 「だからっあの艦には友達がいるんだって何度もいってるでしょ!?」

 「お前らの母国だろう、オーブは!?だったら、降りればいいだろう!?」

 「でもっ僕はもう、正規の軍人になったんだ!!今更抜けることなんてできないよ!!」

 「キラっ!!今こうして、ここにいるじゃないか!?まさかまた、戻るって言うんじゃないだろうな?」

 「そうだよっ!!!」

 しばらく続いた口論。しかし先に止めたのは、俺だった。

 「・・・・・・・・・・なんだって?」

 「僕は、帰るよ・・・・・アークエンジェルに」

 勢いを無くした語調で、自嘲するように言うキラ。

 そんなキラを見ても、苛立ちしか浮かばない俺は、何だか情けなくなってくる。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・なよ・・・・・・・・・・」

 あまりに押し殺し過ぎて、音にならなかった声にキラは首を傾げた。

 「ふざけるな!!俺が、一体今まで、どんな思いでお前と戦ってきたと、刃を交え続けてきたと思っているんだ!?」

 ハッとしたように目を見張るキラに構わず、俺は続ける。

 「戦闘のたびに、お前を連れ戻そうと、説得して・・・・・それでも聞き入れようとしないお前を、俺が今どう思っているか、

わかって言ってるのか、お前は!?」

 ビクリと、キラの肩が震えた。

 「物心つくころにはもう、お前を好きで・・・・・お前はお前で、自分の可愛さとか考え無しに男子と接して・・・・・いつも

俺は冷や冷やさせられて・・・・・・・・・・だから、キラは俺が守ってやんなくちゃって、思ってて・・・・・だから・・・

だから・・・・・・・・・・」

 キラは地球軍の人間に、利用されているのだと思っていた。

 友達を盾に、脅されているのだと。

 けれど現実は違って、キラは自分の意思で従軍しているという。

 それでも。

 「俺は今でも、お前を守りたいと・・・・・救いたいと思っている」

 真直ぐと、キラに視線を向ける。

 キラのアメジストは揺れて、頼りなさ気で、やはり俺が守ってやんなくちゃなと、思わせるもので。

 「アスラン・・・・・・・・・・」

 「キラ、だから、お願いだ。ここに・・・・・・・・・・」

 ここに残って欲しいと、言おうとした。しかし。

 「ごめんね、アスラン・・・・・」

 「キラ!?」

 「僕はやっぱり、帰るよ」

 キラの答えに、正直動揺する。

 俺の本当の気持ちを知っても尚、キラは地球軍の人間を選ぶというのだろうか。

 「キラ、俺はっ!!」

 俺の引き止める声も聞かず、踵を返そうとするキラを俺は無我夢中で彼女の腕を掴んだ。

 それが思いのほか力が入りすぎてしまったようで、キラは顔を顰めた。

 しかしそれに構っていられ程、俺には余裕なんてなくて。

 彼女を逃してやるものかと、腕から擦り抜けていかないようにと。

 俺はその華奢な身体を掻き抱いた。

 「っアスラン!?」

 驚いて目を剥くキラを後ろから抱きしめる俺はどこか滑稽で。

 「行くな、キラ!!」

 キラをこちらに向かせ、自分の唇を押し付ける。

 何度も何度も、貪るように、その温もりを確かめようと口付ける。

 それはどこまでも柔らかく、蕩けるようで。

 「んっ・・・・・ふ・・・・・・・・・・・アス・・・・・・・・・・」

 息が苦しくなってきたのか、キラは小さく吐息を漏らした。

 しかしその隙に俺はキラの口内に自らの舌を侵入させる。

 「っはぁ・・・・・や・・・・・・・・・・・」

 キラの中を探るように味わい、それはどんどん激しさを増す。

 離さない。

 二度と離すものか。

 例えそれが無理やりになろうがならなかろうが、そんなことは関係ない。

 「っキラ・・・・・・・・・・・・!!」

 例え今日が、エイプリルフールでも。

 この気持ちは嘘じゃない。

 「・・・・・キラ・・・・・・・・・・・・・キラ・・・・・・・・・・・・・・・・」

 狂おしいほどに、愛しくて。

 時間が止まればいいのにと、強く思った。

 「んぁ・・・・・・・・・・・スラ、ン・・・・・」

 ギュッと俺の肩を強く握るキラ。

 そろそろ息が続かなくなってきたのだろう。

 俺は渋々ながら、キラを解放した。

 キラはそのまま俯いて、小刻みに震え始める。

 そこでハッと、俺は我に返った。

 「あっ・・・ご、ごめんキラ・・・・・・・・・・」

 俺は一体今、何をした?

 キラを引き止めたくて、彼女の腕を引いて。

 後ろから彼女を抱き、こちらに向かせて唇を奪った。

 それも、強引に。

 「・・・・・・・・・・か・・・・・・・・」

 自己嫌悪に陥っている俺の耳に、彼女の掠れた声が聞こえたが、あろうことか聞き取れずに首を傾げた。

 「アスランの、ばか・・・・・そんなことしたら、帰れなくなっちゃうじゃないか・・・・・・・・・・」

 目に一杯の涙を溜めて、悔しげに言うキラ。

 そんな彼女に、俺は先程自分のしたことなど忘れて微笑んだ。

 「帰らなければいいじゃないか」

 目を瞬いて、雫が彼女の頬を伝った。

 「帰らなければいいんだ・・・・・帰るな、キラ」

 強い、意思を込めて言う。

 「もう二度と、俺から離れないで・・・・・ずっと、傍にいて?」

 藁にも縋る思いで、俺はキラに縋る。

 もう嫌だ。

 どうして愛しい彼女と刃を交えなければならないのか。

 どうして彼女と敵同士になってしまったのか。

 それでも俺の気持ちはずっと、変わらなかった。

 どんなに拒絶されても。

 どんなに攻撃を受けても。

 彼女に対する気持ちはこれっぽっちも変わりはしなかった。

 それどころか、それは募るばかりで。

 「好きだ、キラ・・・・・・・・・・愛している」

 俺がそういったのと同時に、キラはくしゃりと顔を歪めて俺に抱きついてきた。

 やっと。

 やっと、手が届く場所に戻ってきたキラを、俺はギュッと抱きしめた。

 もう二度と、離れないように。

 もう二度と、敵同士にならないように。

 そう、祈って。

 キラはここに、残ると言った。

 そうして迎えた夜。

 俺はずっと気になっていたことを尋ねた。

 「なあ、キラ?」

 「ん?」

 布団から顔だけ出して答えるキラに、俺は微笑を浮かべた。

 「キラに声をかけ立っている、変人って、一体誰だ?」

 そう。

 軍では絶対にありえないことだ、これは。

 だからアスランは不思議で堪らなかった。

 そのありえないことをやってのけたのだから。

 「ああ、えと、確か・・・・・金髪で、ウェーブかかってて、ちょっと長めで・・・」

 ん?ちょっと待て。なんだか自分の身の回りに、そのような容姿の人物がいたような気がするのは気のせいだろうか。

 「それで、一番変なのが、顔半分の白い仮面をつけているの!!変わってるでしょう?」

 決定打だ。

 そう。キラの行っていた変人・・・否、変な人とは、他ならぬアスランたちの隊長ことラウ・ル・クルーゼのようなのだ。

 容姿だけでわかってしまうのもどうかと思うが、あの隊長以外で仮面をつけている人がいたらそれはそれで問題だ。

 「あれ?アスラン、どうしたの?」

 当たり前だが、緊張感の欠片もないキラに、俺はがっくりと肩を落とした。

 「なんでもないよ・・・・・」

 それにしても、隊長を一瞬でも変態と思ってしまった。

 これは一生、俺の心のうちに留めておくとしよう。

 俺は一つ溜め息を吐くと、キラの髪の毛を梳いた。

 「ずっと、一緒にいようね、キラ・・・・・」

 優しく、微笑んで。

 「うん・・・・・もう、離れないから」

 キラも笑い返してくれて。

 俺はキラを抱きしめた。





















 とある一室。

 「ふ・・・・・偶には嘘も、いいものだな」

 部屋内には声を発したもの以外誰もいないというのに、その人物はクツクツと笑った。

 その人物こそ、キラに「一日だけ軍に入ってみないか」と声をかけた、ザフトでも名を知らない者はいないほどの智将、

ラウ・ル・クルーゼである。

 彼の言う嘘とは、キラを一日だけという期間だけ、従軍させるということだ。

 実際は、ずっと従軍させる気である。

 別にアスランに協力したわけではない。

 これは全て、自分の為なのだ。

 だからラウはわざわざオペレーションスピットブレイクの準備で忙しい中、彼女にあって嘘を吐いたのだ。

 まさか本当にひっかるとは思わなかったが。

 ラウはまた、喉を鳴らした。

 手に入った。

 自分の目指す世界の鍵の一つである、少女が。

 ラウはその日一晩中、部屋の中で笑い続けていたという。

 部屋は防音になっていたが、彼の部屋の前を通った兵士たちは、その後一月はよほどの用がない限り、寄り付かなかったそうだ。








































あとがき

何故か季節はずれにエイプリルフールネタを書いてたのですが、

確かその時はパトさんが4月1日に議長就任、という事実を知ったからで、

もしそれが嘘だったらという設定で書き始めたものです。








Photo by *05 free photo

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