僕は小学校二年生の時、好きな子がいた。 少し長めの藍色の髪に、綺麗な翠色の瞳。 とても綺麗な子で、まるで女の子みたいだった。 それでもとても、もてていた記憶がある。 必ず週に二、三回は告白されていたし、けれどその子はいつも断っていた。 可愛い子は一杯いたのに何でだろう、と僕はいつも首を傾げていた。 その子と同じクラスになったのは、その年だけだった。 噂では次の年、遠くに引っ越したらしい。 だから彼とは全く接点がなく、僕は彼を気にしなくなった。 それでも、今更彼のことを思い出すなんて、これから何かが起こるという予兆なのだろうか。 そんなことに考えを回らせながらぼんやりと歩いていると、急に車が嫌な音を発した。 キュルキュルキュル・・・・・と耳障りな音が耳につく。 次いで、ドンッ!!という何かの衝突音が辺りに木霊した。 そして次に訪れたのは、奇妙にも思えるほどの静寂だった。 「おい、誰か轢かれたぞ!!??」 誰かの声が静寂を破る。同時に僕もハッと我に返った。 慌てて既に人だかりの出来ている所に向かい、退いて下さいと言う。 「っ退いて!!」 あまりの人だかりに思わず声を荒げてしまうが、今は周りの反応など気にしている場合ではない。 やっとの思いで人だかりの中心に辿り着くと、力なく横たわっている人がいた。 じわじわと、その人は血溜りを広げていく。 その人を見た目で判断すれば、男性のようだ。 藍色の髪をしていて、僕に背中を見せて横たわっている為顔は窺えない。 僕は迷うことなくその人物の傍らに座り込み、出血場所を探る。 そしてその原因が、頭部であることがわかる。 ある程度止血をして、首に手を当てる。 「・・・・・振れない・・・貴方、救急車を!!」 脈が触れていないことに気付き、焦りが生まれる。 近くの野次馬の中で一番近くにいた男性に叫び、僕はその人物を仰向けにした。 そして顕になったその顔は。 「っザラ・・・君・・・・・・・・・・?」 僕の初恋の人だった。 二十年の恋 ピッピッピ・・・・・・・・・・。 規則的な電子音。 集中治療室と書かれたプレートは、そこにいる人物が絶対安静にしていなければならないという文字でもある。 僕はガラスを隔てて室内を眺めていた。 「あれ?どうしたの、ヤマト先生?」 緊張感の欠片もないような声が聞こえてそちらを振り返り、僕は大きく溜め息を吐いた。 「何か用ですか、フラガ先生?」 僕に近づきながら手を振る男は、一応僕の先輩であるムウ・ラ・フラガ医師だ。 因みに、意外だが彼は外科部長でもあるのだ。 「いや?用って程でもないが・・・知り合いなんだろ、彼と?・・・どういう関係?」 興味津々のように聞こえるが、目は真剣そのものだ。 「・・・・・まあ、一応。ていうか、僕が一方的に知っていたというか、なんというか・・・・・」 言葉を濁しながら、昔のことに思いを回らせる。 同じクラスだったのは小学二年生のあの年だけだった。 だから、彼が僕を覚えているはずがないのだ。 元より僕は目立つ性格ではなかったし、告白をしようとは思わなかったから、印象にも残っていないことだろう。 「・・・担当、外れるか?」 ハッと目を見開く。 勢いよくフラガ医師を仰ぎ見る。 そこにはいつものフラガ医師の顔ではなく、手術をしている時の医者の顔をした彼の姿があった。 「・・・・・っいいえ、僕にやらせてください!!」 ここが病院だということも忘れ、声を荒げて言い縋る。 「しかし、お前も辛いだろう?彼は・・・・・」 僕は精一杯の睨みをフラガ医師に向け、彼の言葉を遮ることに成功した。 「・・・やらせて、下さい・・・・・」 声のトーンを下げ、懇願する。 少し間を置いて、フラガ医師は諦めたように吐息を漏らした。 「・・・・・・・・・・わかった。けど、無理はするなよ?」 その言葉や表情から、僕を心配してくれていることは見て取れる。 僕は素直に返事をした。 「はい。・・・すみません、我儘言ってしまって・・・・・」 苦笑を浮かべて言うと、彼も苦笑で返してくる。 「いや、お前がそこまで言うんなら、余程彼に思い入れがあるんだろう?ま、めげんなよ!」 言い終えると同時に僕の肩を思い切り強く叩く。 ジンジンと打たれた所が痛み、僕は思わずフラガ医師を睨んだ。 「セクハラですよ、フラガ外科部長?」 わざと彼の地位を強調してジトリと睨む。 「え、そう?」 対するフラガ医師は大して気にしていないようだ。 僕はプイッと顔を逸らして、また彼に視線を戻した。 相変わらずの電子音。 まだ彼の目は覚めそうにない。 「支えてやれよ、期待の新人」 隣のフラガ医師がそう言って僕から離れていくのを感じた。 僕は集中治療室の中に眠る彼を見ながら、わかっていますと呟いた。 彼を救いたいと、思ったから。 僕は一つ、重い溜め息を吐いた。 あれから三週間ほどたった。 僕は集中治療室から一般病棟に移された彼の元にいつものように検診に来ていた。 「異常はない・・・か・・・・・」 そう一人ごちると、ふと彼の手に目をやった。 ピクリとも動かない手は、やはり男の手だ。 筋張っていて大きく、僕の手よりもとても大きい。 僕は彼の手を両手で包み込んで、ベッドの傍らに置いてあったパイプ椅子に腰掛けた。 椅子を引くと、ガ・・・という椅子の足と床が擦れあう音が響いた。 ベッドの頭の方には、彼の名前が書かれたプレートがあった。 そこには、『アスラン・ザラ』という彼の名前を示す文字など、病院にとっては大切な情報が書かれていた。 彼こそ、僕の初恋の相手だ。 けれどまさかこんなことになるなんて。 「・・・ザラ君・・・・・」 僕はただ、彼の名を呼ぶことしかできなかった。 と、その時。 一瞬、僕が握っている彼の手の指が動いたような気がした。 ハッとそちらに目をやり、すぐにザラ君の顔を覗き見た。 「ザラさん?聞こえますか、ザラさん!?」 あくまで医者として、声をかける。 そして彼の瞼が小さく揺れた。 しだいに顕になる、僕の記憶の中のものと寸分も違わぬ翠の瞳。 「・・・ザラさん、わかります?」 ホッとするのも束の間、僕はザラ君に語りかけるように言う。 彼は頭部に外傷を負ったのだ。 そして今まで、目覚めることなく三週間眠り続けていた。 だがそれには、別の理由もあるようだ。 外傷と言っても、出血こそ多かったもののそんなに酷いものではなかった。 きっと、精神的なものだろうと予想することはそう容易なことであった。 「・・・・・こ、こ・・・は・・・・・・・・・・?」 小さな声に、僕は胸が躍る心地がした。 「ここは病院。貴方、事故にあったんですよ?」 微笑を浮かべて状況説明をしてやる。 「・・・じ・・・・・こ・・・・・・・・・」 ポツリと呟き、何かを考えているようだ。 そして徐に見開かれていく瞳。 「ど・・・・・して・・・・・・・・・・・・」 僕は彼の表情に、どうしたのだろうと眉を顰める。 「え?」 「どう、して・・・・・・・なんで俺は、生きて・・・・・・・・・・・」 今度は僕が目を見開く。 そしてやはり、と思う。 彼は自分から道路に飛び出て自殺をはかろうとしたのだ。 しかしいつまでもぼうっとしているわけにはいかない。 「っ何言ってるんですか!?」 しかし彼は僕の言葉に耳を傾けようとしない。 「何故俺は・・・・・あの時、死ねたと思った、のに・・・なん、で・・・・・・・・・」 ゆっくりと手を這わせ、自らの顔を覆い隠す。 尚もどうして、何故と繰り返す彼に、僕は声を荒げた。 「いい加減にしなさい!!」 彼の、骨折の為に包帯の巻かれた肩を掴んで、彼の手越しに翡翠を見る。 「折角助かった命なのに、どうして、そんなこと・・・・・死を望むようなこと、言わないで!!」 医者として、彼の発言はとても癇に障る。 彼は我に返ったように更に目を大きく見開かせた。 「・・・ここは病院です。そういうことは、言わないで下さい・・・・・」 先程とは打って変わって声を押し殺して言う。 自分でも、こんな低い声が出るのだなと感心するくらいに、低い声だった。 ザラ君は静かに僕から目線を逸らし、申し訳なさそうに言った。 「・・・・・すみません、でした・・・・・」 彼がどうして自殺をはかったか。 その理由は、粗方見当がついていた。 けれど彼に同情する気はないし、これからもそんなことはないだろう。 例え彼が初恋の相手でも、今僕は立派な医者なのだから。 私情など、挟んではいけない職業だから。 「こちらこそ、ごめんなさい」 僕はそう言って、手を離した。 彼は少しだけ、眉を顰めた。 「僕はキラ・ヤマトと言います。貴方の担当医です。あ、一人称、僕とか・・・変ですけど気にしないで」 落ち着いて、とりあえず自己紹介する。一人称のことも付け加えて。 「俺は、知ってると思うけど、アスラン・ザラと言います。・・・それにしても、ヤマト先生?」 ベッドを苦にならない程度に起こして座っていたザラ君は、不思議そうに僕を見つめる。 「・・・何でしょうか?」 少したじろぐがなんとか声を出す。 こんな美青年に見つめられれば、誰だってドギマギするに違いない。 「俺、貴方とどこかで会ったことない?」 他の誰かが聞いたら、ナンパの殺し文句だろうが、僕にとってそれは事実なのでそうは思わない。 「え・・・・・と、人違いじゃ、ないでしょうか?」 なんとなく気恥ずかしさに嘘をついてしまう。 ザラ君がそうですか、と残念そうに溜め息を吐いた。 「似ていると、思ったんだけどな・・・・・」 ボソリと紡がれた声は、僕の頭にとっては重要なものではないと処理されたようで、僕は大して気に留めることなく別の話題を振る。 「ところでザラさん、ご家族は?貴方が持っている荷物からご自宅の電話番号を調べさせてもらいましたが、かけても誰も出なくて・・・」 僕の言葉に納得したように、ザラ君はああと声を漏らした。 「俺の両親は共働きで、滅多に家に帰らないんですよ。まあ言ってもどうせ見舞いなんて来ないと思いますが」 自嘲の笑みを浮かべながら、ザラ君は布団を握り締める自らの手を見下ろした。 「そ、そんなことないですよ。ほら、親の心子知らずってよく言うじゃないですか!」 何だか悲しげな彼の姿に居た堪れなくなって、僕は慌てて言葉を紡いだ。 ザラ君が驚いたように目を丸くし、すぐにふわりと微笑んだ。 「ありがとう、ヤマト先生」 僕は頬に熱が集まるのを感じた。 「どう、いたしまして・・・・・」 これが二人の、二十年ぶりの再会だった。 あれから二人して他愛のない話しをした。 けれど僕が彼を笑わそうとしても、彼は笑ってはいるけれどどこか悲しげだった。 そうして日も暮れかけた頃、僕は漸く腰を持ち上げた。 「じゃ、また明日。疲れたでしょう?今日はゆっくり休んでね」 ベッドを戻してアスランを横たえると、布団を優しく彼の負担にならないように掛け直してやる。 話をしている間、同い年と言うことで、二人きりの時はお互い呼び捨てで呼び合うことにした。 少し胸が痛んだけど、彼のためだと思うと後悔などしなかった。 アスランは寝返りをうってこちらに向き直りながら言った。 「ああ。・・・おやすみ」 まだ寝るには早い時間だが、病人にとっては丁度いい時間だ。 三週間も寝ていて今日起きたばかりだというのに、無理をさせてしまった。 僕は苦笑を浮かべながら部屋を後にしようとした。 だが、その時。 「ぅ・・・ごほっごほっ・・・・・」 急に咳き込むアスランに、僕は慌てて振り返り彼の背中に手をやった。 「大丈夫、アス・・・・・・・・」 アスランの口許を押さえていた手のひらをふと見やると、そこは赤く染まっていた。 僕は彼の背中をさする手を止めずに、開いている方の手で彼の手を取る。 「ごほっごほっごほっ・・・・・」 尚も続く咳に、吐き出される血痰。 僕は知らず、眉を顰めていた。 予期していた発作。 彼の病気。 彼が事故で運び込まれて検査をした時、わかったものだ。 彼は『肺癌』である。 既に外科手術が必要とされるほど進行しているものだ。 だから今の彼の発作も、当たり前のことでもあるのだ。 まだ三十にもなっていないのに、と僕は悲しく思う。 彼はもう、長くは生きられない。 だから彼は、それよりも早く死んでしまおうと思ったのだろう。 そんな病気で苦しむくらいなら、死んだ方がマシだと思ったのだろう。 「ぐっうぅ・・・・ぐぉほっ・・・・・・」 苦しむ彼に、僕はただ悲しみを覚えることしかできなかった。 翌日、あの発作から落ち着いたアスランは、まだ眠っていた。 僕が近づいても気付いていないようで、目は硬く閉じられているままだ。 僕は今朝フラガ医師に言われたことを、彼に言わなくてはならない。 それがどうにも乗り気でなくて、けれどそうしなければ、彼の生きる確立は格段に減ってしまうから。 ぼうっと突っ立っていると、いつの間に起きたのかアスランがおはよう、と声をかけてきた。 「おはよう。具合はどう?まだ寝ててもいいんだよ?」 彼の体のことを思って言ったことだが、彼は自覚しているのだろうか、緩々と首を横に振った。 「いや。もう目が覚めてしまったから・・・」 苦笑を浮かべて言うアスランに、僕もまた苦笑を返した。 「ね、アスラン・・・?」 パイプ椅子に腰掛けながら、僕は彼の目を真正面から見据える。 「・・・・・何?」 空気を察したのか、アスランは真剣に僕の目線を受け止めてくれた。 「いきなりだけど、アスランの怪我が治って、体力が元通りに近い状態に戻ったら・・・・・・・・・・」 本当は嫌だ。こんなことは言いたくない。 けれど、言わなければ彼は。 「・・・・・手術、受けてみない?」 アスランはこの言葉を予想していたようで、悲しげに目を逸らした。 「もう手術しか、治る見込みはないの。アスランの癌細胞はもう、内科治療では治せないの・・・・・」 アスランが寝ている間に調べて、彼が様々な病院で診察を受けていたことは知っている。 知り合いの病院の医師にも詳しく聞いたから。 アスランはきちんと自分の病気のことを知って、理解していると聞いたから。 だから、いきなり手術の話に持っていけるのだ。 「・・・・・手術は、受けないよ・・・・・・・・・」 ポツリと漏らされた言葉に、僕はアスランを凝視した。 「手術は、受けない」 今度ははっきりと言った言葉。 「な、んで?」 声が、震えた。 しかしアスランは笑顔を浮かべて。 「手術を受けたって、もう何年生きられるかわからないんだ。そんなの受けたって・・・・・」 視線を窓外に移し、目を細める。 僕はただ彼の横顔を見るだけで、何も言えなかった。 「でも、それは・・・・・」 言葉を紡ごうとしても、彼の言葉に遮られる。 「俺には、俺を必要としてくれる人なんていない・・・・・生きていたって・・・・・・・・・・」 そこまで言って言葉を区切る。 僕はただ目を見張り、手を振るわせた。 けれどすぐに我に返り、首を振った。 「そんなこと、ない・・・・・そんなこと・・・・・・・・・僕は、アスランに、生きてて欲しい!!」 驚いたように目を見開いて、アスランが僕に視線を戻した。 僕は鼻がツンと痛くなるのを感じながらも、必死に言葉を探した。 「例えあと数年でも、アスランが生きていてくれたら、それだけで嬉しい!!」 ポロリと零れる涙と言葉は、無意識に。 「キラ・・・・・・」 目を見開くアスランは、僕の言葉が信じられないようで。 「・・・・・そんなの、医者のエゴだろ?」 どこか冷たい言葉が返ってきた。 「・・・・・ち、がう・・・」 堪えきれない涙が恥かしくて俯く。 「自分が治療した患者が生きていてくれて嬉しいのは当たり前だろう?」 「・・・ちがう・・・・・」 首を振っても返ってくる冷たい言葉。 「ただの自己満足だろう!?」 とうとう荒らげられた声は、僕の胸に深く突き刺さった。 「違うっ!!僕は、君が・・・アスランが・・・・・好きだから・・・・・・・・・」 言ってからハッと我に返り、激しく後悔した。 言うつもりはなかったのに。 アスランは突然の予期せぬ言葉のせいか、目を見開いたまま固まっている。 「・・・な・・・・・」 しかし言ってしまえば後の祭り。 僕は腹を括ることにした。 「どこかで会ったことがないなんて嘘。ホントは僕たち、小学二年生の時、同じクラスだったの・・・・・覚えてる?」 恐る恐る訪ねると、アスランはやっぱり、と呟いた。 「・・・・・どうして、嘘なんか?」 小さく睨まれて、僕は気まずく俯いて目を逸らす。 「あ、えと、恥かしくて・・・・・」 ちらりとアスランの顔を見やると、彼は不思議そうな顔をしていた。 また、俯く。 「アスラン、が、その・・・・・・・・・・初恋の、相手だから・・・・・」 きっと今の僕の顔は赤く染まっていることだろう。 そうして俯いていると、何故かアスランが噴出した。 驚いて顔を上げると、アスランが口を抑えて震えていた。 「だ、大丈夫!?ほ、発作?」 慌てて背中を擦ろうとしたが、すぐに彼が発作を起こしていないことに気付いた。 彼の口許から零れるのは、押し殺した笑い声。 「っアースーラーンー??」 半眼でアスランを睨み、背中を抓る。 「い、痛いって!っはは・・・・・あははっ!!」 声を上げて笑うアスランに怒りを覚えながらも、初めて心の底から笑ってくれたアスランに嬉しさが募る。 しかしそれも束の間。 「はあ・・・・・ごほっごほ・・・・・」 咽るアスランの背中を、今度は抓らずに擦ってやる。 「ほら見なさい。大声で笑うからだよ」 ジトリと睨みながら言ってやると、発作の合間に器用にも謝るアスラン。 そんな彼に笑いが込み上げてきて、僕はそれを必死に堪えた。 発作が治まり、アスランが落ち着いて、僕はそろそろ病室を後にしようと立ち上がろうとした。 そこに、アスランが声をかけてきた。 「っキラ!!」 僕は何だろうと首を傾げながらも、座り直した。 しかしアスランは言葉を紡ぐことなく、どうやら、何かを言うのを躊躇っているようだ。 「どうしたの?」 中々言おうとしないアスランを急かす。 「あ、あのさ・・・・・俺、も・・・・・・・・・・」 言っている意味がわからず、僕は、え?と聞き返す。 「だから、その・・・・・俺もキラのこと、好きだった、ていうか・・・・・キラは、俺の初恋だったんだ!!」 発作の後で少し掠れた声で一気に捲くし立てるアスランに、僕は硬直した。 「・・・・・・・・・・」 何も言えなくなってしまう。 「・・・キ、キラ?」 アスランが気遣わしげに声をかけてくるが、僕は頭の中を巡る考えに目を回しそうだ。 「・・・・・アスランが?」 頭を抱えて漸く声を出す。 「・・・・・僕を?」 頭の中で整理しきれない時は声に出すのが一番だと思う。 「・・・・・・・・・・好き、だった?」 やっと整理しきってホッとする間もなく。 「え、ええぇぇえ!!??」 僕はここが病室だと言うことも忘れて思い切り叫んだ。 傍らのアスランは苦笑している。 「そ、な、え、ちょ、ま・・・・・」 声を出そうとしても空回り。 中々言葉にならないのがなんとももどかしい。 「何度も話しかけたのに、キラ、全然相手してくれなくて・・・嫌われてたのかと思ってたよ」 苦笑を浮かべながら、明後日の方向を見ながら話し出す。 というか、話しかけられた記憶がないのだが。 「嘘だぁ・・・・・だって僕、全然覚えてないよ?」 僕の返答に、アスランは目を丸くした。 「え、でも一日に一度は話しかけてたと思うよ、確か?」 また硬直する。 小学二年生の時だ。忘れてしまっていても仕方ない年頃だが、好きな人から話しかけられて覚えていないはずがないではないか。 と、そこまで考えて首を傾げる。 そういえば、毎日僕は何故か誰かに話しかけられるとどこかに逃げていたような気がする。 「・・・・・ねえ。アスランが話しかけた後、僕、逃げなかった?」 「うん。脱兎の如くどこかに逃げて行ったね」 即答だ。 「・・・・・やっぱり」 溜め息と共に吐き出す声。 そうだ。 あの頃の自分は極度の上がり症で、アスランに話しかけられるとすぐに逃げて天津さえ恥かしすぎてその記憶を無くしてしまっていたのだ。 それが一年間続いたと言うのに気付かなかった僕はある意味すごい。 それでもめげずに話しかけ続けたアスランもすごいと思う。 「・・・・・もしかして、恥かしかったから、とか?」 まるで僕の心の中を読んだかのように核心を突いてくるアスランに、僕は諦めの溜め息を吐いた。 「・・・・・ごめんなさい」 目を伏せて小さくお辞儀をすると、クスクスと笑うアスランの声。 またか、と顔を上げると、先程とは違って綺麗に微笑むアスラン。 「・・・な・・・・・」 しかしすぐに真剣な目を向けられ、僕は口を噤んだ。 「手術、受けるよ・・・・・」 いきなりどういう風の吹き回しだろうか。 「・・・・・いいの?」 半ば挑むように言うが、アスランはその表情を崩さない。 「ああ」 そしてまた、ふわりと柔らかい笑みを浮かべて。 「生きる目的が、見つかったから・・・・・」 そっと、目を見開く。 「ねえ、キラ?」 優しい表情をそのままに、アスランは小さく首を傾げた。 「・・・・・何、アスラン?」 彼の微笑みを見ていると、何故だろう。 心が、落ち着く。 「手術が成功したら、君に伝えたいことがあるんだ」 アスランの大きな手は、いつの間にか僕の頬に添えられていた。 「聞いて、くれる?」 答えはただ一つ。 「もちろんだよ」 なんとなくだけど、君の言いたいことはわかるから。 だって君は今きっと、僕と同じ気持ちだろうから。 今でも好きだよ、アスラン。 だから、僕が支えになるから。 一緒に生きよう。 あとがき キリ番8000を踏んでくださったリク様に捧げます。 患者アス←女医キラで最後両思い、というリクを頂いたところ、こんなものに。 こんなのでよろしければ貰ってやってください。 by.奏織沙音 修正しました。 まだまだひよっこです。 感想や苦情等、お待ちしております。 尚、苦情についてはmailにこっそりお願いします。 |
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