誰もいない廊下に、一人分の靴音が木霊する。

 外からは、何やら励ましの声などが聞こえてくる。

 恐らく、バスケ部辺りだろう。

 もっと遠くからは、剣道部の気合の声が耳につく。

 今年入ってくる一年生は、何人いるのだろうか。

 きっと彼らの気合に圧されるか引くかするのだろう。

 話さなくてもわかるだろうが、今は放課後である。

 今年、高校三年生になったばかりのキラ・ヤマトは鳶色の髪を靡かせながら、ある一室に向かう途中だった。

 しかしふいに、その足がピタリと止まった。

 何故なら。

 「・・・・・ずっと、好きだったんだ」

 誰かの告白。

 聞いたことのある声。

 キラにとっては、聞き慣れ過ぎた声であった。

 「カガリ、姉さん・・・・・?」

 呆然と呟く声はどこか虚ろで。

 そしてそれは隔たりもなく、キラの向かう先の教室に届いたのだった。

 「っキラ!?」

 カガリとは別の、男の声。

 これもキラにとっては聞き慣れ過ぎた声だった。

 いつの日からか思いを寄せいていた男の声。

 「・・・・・アス・・・ラン・・・・・・・・・・?」

 アメジストが零れんばかりに目を見開いて、キラは二人をその瞳に映した。

 「キラ、これは!!」

 何か言おうとするアスランの声を遮る、力。

 傍らのカガリがアスランの腕を引き、顔を自分の方に向かせた。

 そして。

 時間が、止まったかのような錯覚。

 気がついたらキラは、走り出していた。

 「キラ!!」

 後ろから追いかけてくる愛しい声も、無視して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心の小箱

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰って、真っ先に自分の部屋に飛び込んだ。

 それから何をするでもなく、ただ両手で両膝を抱えて俯いていた。

 脳裏に浮かぶのは、あの教室で見た姉と幼馴染。

 姉の名はカガリ・ユラ・アスハ。

 キラの実の姉である。

 カガリは昔から世話焼きで、キラはカガリに甘えってぱなしだった。

 カガリとキラのファミリーネームが違うのは、二人の出生の違いに関わってくる。

 カガリは政治家として有名なアスハ家の長女として生まれた。

 所謂、お嬢様と言うやつだ。

 その点キラは、カガリの父親が施設から預かった子供であった。

 両親がいないキラ。

 寂しくて、寂しくて、しょうがなかった日々を救ってくれたのが彼、ウズミ・ナラ・アスハであった。

 しかしそんな簡単に我が子に出来るものではなく、仕方なしにウズミの親友夫婦に託したのだった。

 それがキラの今の両親。母はカリダ、父はハルマである。

 施設上がりのキラを厭うでもなく、絶えなく優しさをくれた両親。

 彼らが両親で、本当に良かったとキラは思っている。

 話を戻すが、そのカガリが何故キラと姉妹なのかというと、唯単にカガリがそう呼べといったからである。

 アスハ家とヤマト家は結構離れているが、幼い時からカガリはよく遊びに来ていたのだ。

 だから二人はそこらの姉妹よりも仲がいい。

 カガリは父親の後を継ぐ気はないらしく、体育教師となって今はキラの学校にいる。

 自分の道を貫くことは大切だが、カガリが何故体育教師になったのかをキラは今日わかったような気がした。

 それは恐らく、否きっと、幼馴染のアスラン・ザラの存在だろう。

 彼の父もまた政治家で、話ではよくカガリの父と対立しているらしい。

 そんなことはどうでもいいが、そのアスランは見目麗しい美貌の持ち主である。

 カガリとは同い年で、三人でよく遊んだりもした。

 アスランは小さな時から勉強熱心で、いずれは教師になりたいと言っていた。

 カガリもそれを聞いていて。

 今日聞いたカガリの告白。

 アスランを好きになったのがいつだかは知らないが、カガリはきっとアスランを追いかけて教師になったのだろう。

 そう考えれば考えるほど、合点がいって。

 キラは更に顔を膝の間に埋めさせた。

 キラはアスランが好きだ。

 ずっと前から。

 気付いたのは最近のことだけど。

 でも、好きなことに変わりはない。

 アスラン、と声に出すだけで、胸が締め付けられる。

 指先が、色を無くしていった。

 カガリはキラの気持ちを知らない。

 キラからは何も言ってなかったから。

 だからキラの前で堂々と、アスランの唇を奪うことが出来たのだろう。

 彼女に悪気がないのはわかっている。

 カガリは純粋にアスランが好きなのだということなど、わかっているのだ。

 本来なら、応援していただろう。

 幼い頃から自分を、本当の妹のように可愛がってくれた人の恋なのだから。

 けれど。

 キラがアスランを好きだということは、疑いようのない事実で。

 今のキラには唯、自分の気持ちを抑えるのに精一杯だった。

 抑えなければ爆発してしまう。

 今すぐにでもアスランの元に行って、好きだと、大好きだと大声で叫びたい。

 そんな気持ちを抑えなければ、きっとカガリは傷付いてしまうから。

 だからキラは自分の気持ちを隠すことに決めた。

 いくら血が繋がっていないといっても、カガリはキラの唯一の姉だから。

 アスランをそっと思うのは、罪ではないと信じているから。

 だからキラは心に誓う。

 キラの心の中にある小さな箱に、自分の気持ちを押し込めて。

 ずっと二人を見守っていようと。

 二人を祝福してあげようと。

 キラは自分の頬が濡れるのも気にせずに、唯一心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからカガリを家まで送って、真っ直ぐに家路についた。

 無駄に大きな家は殺風景で、人っ子一人いない。

 母はアスランが高校に上がる前に天に召されたし、父は仕事で忙しくて滅多に家に帰ってこない。

 だから別段気にするでもなく、アスランは自分の部屋に向かうのだった。

 パタン・・・と静かに扉を閉め、アスランはネクタイを緩めながらベッドに腰掛けた。

 無駄に広い部屋。

 よく、幼馴染のカガリとキラが遊んだものだ。

 アスランは着替えもせずに寝転がる。

 初めて知った、カガリの気持ち。

 まさかとは思うが、自分を追いかけて教師になったのだろうか。

 そんな考えが浮かんできて、アスランは慌てて頭を振った。

 しかし、とアスランは眉を顰めた。

 何故自分などがいいのだろうかと。

 確かに彼女は、たとえ多少男勝りであっても、魅力的だと思う。

 しかしそれは女性としてではなく、一人の人間としてでしかない。

 カガリはアスランにとって、親友でしかないのだ。

 小さな時から一緒に遊んだり、学校もずっと同じで、勤め先も一緒だ。

 今まで偶然だと思っていたものが必然だったのだと、アスランは今日思い知らされた。

 アスランの中に、罪悪感が生まれる。

 しかしそれは、決してカガリに向けたものではない。

 それはもう一人の幼馴染である、キラに向けたものだった。

 何故彼女が脳裏に浮かんだのかはわからない。

 けれど、自分がキラに罪悪感を抱いていることは否めなかった。

 二十五歳にもなって、ファーストキスだ。

 しかもそれをキラに見られてしまった。

 キラとしたかった。

 ふと浮かんだ思い。

 目を、見開いた。

 そして、それが自分の本音ではないと言い聞かせながら、アスランは頭を振る。

 「キラ・・・・・・・・」

 どうしてか、彼女の姿が恋しくなる。

 会いたくなる。

 彼女のアメジストを見つめていたいと思う。

 抱きしめて、自分の腕に閉じ込めてしまいたいと思う。

 アスランはまだ、この胸に渦巻く感情を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必死だった。

 ただ、振り向いてもらいたくて。

 彼が、アスランが、自分を女として見てくれていないことは、わかっていたつもりだった。

 普通の女性より、自分が男っぽいと言うことは自分が一番よくわかっている。

 けれど、恋は別だ。

 例え自分が男勝りでも、根は女だし。恋をするのは、至極当然なことだ。

 今まで自分は誰にも自分の気持ちを言ったことはない。

 だって、言う必要がないから。

 可愛い妹だって、自分を応援してくれるに違いない。

 カガリはいつの間にか、キラが自分に逆らわないと信じて疑わなくなっていたのだ。

 いつもカガリの言葉に頷いて、カガリの言うことを聞いて。

 世話焼きのカガリには、後ろをついて回るキラが可愛くて、だからまるで自分のもののように扱った。

 決して悪い意味ではないが、だからだろうか。

 キラはいつの間にか、自分で物事を判断できなくなっていた。

 自分のしたいことを見つけられず、どんなことでもカガリに断ってからするし、カガリがダメだと言えばどんなにしたいことでもしなかった。

 自分の力で物事を判断できなくなったキラが今、窮地に立たされていることを、カガリは知らなかった。

 キラは今まさに受験生。

 その先にあるのは進学か、就職か。

 人生でもって一番重要でもある選択である。

 キラ自身が決めなくてはならないことなのだから。

 これは家族にも、勿論カガリにも口出しできないことで。

 けれどカガリはキラによく言っていた。

 『お前は大学に行くんだろ?なら、私が勉強、見てやるからな!』

 あの優しいキラが断れるはずもなく。

 キラは大学に行くことを余儀なくされた。

 それでも必死に大学に行けるように勉強をしているキラは、カガリの気をよくするには十分で。

 だからカガリは気付かない。

 キラの本当の気持ちに。

 キラが本当は、大学なんて行きたくはないということに。

 キラが本当は、アスランに思いを寄せていることに。

 カガリはアスランの『答え』に期待しつつも自分の机に向かった。

 教師になってからというものの、カガリの生活は一気に忙しくなった。

 教師と言うのはとても大変な仕事なのだと、カガリは教師になってから気付かされた。

 同時に、今までお世話になった教師たちに向ける感謝の気持ちが膨れ上がり、一軒一軒電話をかけた程だ。

 そんなことをしている暇があったら働け、とも言いたくはなるが、そこはそれ、彼女の取り柄というやつだ。

 明るくて、誰にでも話しかけて、周りからは太陽のようだと言われたこともある。

 カガリはそれを自覚しているから、だからこそ自分の非を認めたくなかったのかもしれない。

 それが自分の不幸に繋がることも知らずに。

 カガリは明日聞くことになるであろうアスランの返事に、彼の微笑みを脳裏に思い浮かべながら思いを馳せる。

 きっといい返事が聞けると信じて。

 カガリは口許を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 身体がだるい。

 何をするにも億劫だ。

 母には学校を休むかと問われたが、三年間皆勤を目指しているキラにとってそれは躊躇われた。

 本当はアスランやカガリに会うのは嫌だけど、進学の為にはしょうがない。

 進学?

 自分は本当に進学するつもりなのだろうか。

 本当はしたくない。

 お世話になった両親に、これ以上迷惑をかけたくないのも事実だが、それ以上にキラは自分の力で生きてみたかった。

 いつも最終的判断をカガリに任せていて、自分では何も考えることはしなかった。

 だからキラは、自分をもっとしっかりとした人間にしたかった。

 自分の意思を持ち、しっかりと自分の行きたい道を目指して突っ走る。

 そんな人生を送りたいと、今もキラは思っているのだ。

 けれどそれをしようとしないのは、唯一の姉、カガリの存在あってのことで。

 彼女の面目を潰すようなことをしたくないのもまた、事実だった。

 「ふぅ・・・・・・・・・」

 自分でも知らぬうちに溜め息を吐く。

 生徒も疎らな教室。

 キラはまさか自分の溜め息が誰かに聞こえていたとも気付かずに、頬杖をついた。

 しかしそれはすぐに崩れることになる。

 「・・・キラ、ちょっと、いいか?」

 突然聞こえた声に、キラは驚きのあまり体勢を崩す。

 肘を机から滑らせて、危うく顎を撃ちそうになるのを、その人は救ってくれた。

 「・・・・・・アスラン・・・・・・・」

 キラは礼を言うことも忘れて、呆然と呟いた。

 アスランはそのエメラルドの瞳を、真っ直ぐアメジストに絡ませた。

 「話が、ある」

 そう言って彼は、キラの細腕を優しく掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こういう日に限って寝坊をしてしまうのは、何故だろう。

 寝坊と言っても、アスランの返事を早く聞きたいが為に早く起きようとしただけで、実際はいつもと変わらない時間だったのだが。

 カガリは信号待ちするのも鬱陶しく、近道を通って学校に向かう。

 後で、もっとゆっくり来ればよかったなどと後悔することを、この時のカガリは予想し得なかった。

 アクセルを踏んで、道を走り抜ける。

 早くアスランの返事が聞きたい。

 ただ、それだけ。

 アスランがやっと自分のものになると、心が弾む。

 カガリはにやける顔を引き締めるが、それでも口許は緩まる。

 カガリの心は弾み、身体が軽い。

 今ならどこへでも飛んでいけそうな気分だ。

 もちろん、アスランも一緒に。

 それが束縛だと、カガリはまだ気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日、行こうとした教室。

 ドアの上には進路資料室と書かれたプレートがあった。

 その名の通り、進路関係の資料が置いてある教室だ。

 その教室の、中。

 キラとアスランはしばらく黙ってお互いの出方を待ち構えた。

 話があると言ったのは、アスランの方なのに。

 キラはそう思い、徐に口を開いた。

 「・・・・・話って、何?」

 わざと声音を冷たくする。

 アスランは気付いただろうか。

 「・・・・・・・・・・ああ」

 アスランは相槌を打つが、中々言葉を紡ごうとしない。

 キラは唯、イライラした。

 「僕、もうそろそろ教室に戻りたいんだけど・・・・・予鈴、鳴ったし」

 本鈴まであと七分くらいしかない。

 それが鳴るまでに席についていなければ、遅刻になってしまう。

 「あ、すまない・・・・・」

 どこか茫然自失のような響きに、キラは眉根を寄せた。

 「どうしたの、アスラン?」

 訝しげな視線に、アスランは慌てて首を横に振る。

 「い、いや、なんでもない・・・・・。それより、キラ。君、誤解していないか?」

 その言葉に、キラは更にいぶかしむ。

 「俺とカガリのことだ」

 そう言われて、キラは自分の心臓が跳ねたのを感じた。

 「・・・・・何、誤解って、僕が・・・・・・・?」

 コクリと、小さく頷くアスランはまた言葉を紡ぎだす。

 「カガリとは、そんな・・・・・恋人とか、そんなんじゃないんだ」

 ズキン、と胸が痛んだ。

 「でも昨日、言ってたじゃない・・・・・カガリ、アスランを好きだって・・・ずっと、好きだったって!

それに・・・・・・・・・・キス、も、してたし・・・・・・・・・・」

 アスランの眼差しから逃れるように俯き、ポツリポツリと言葉を紡ぐ。

 「っそれは!!!」

 言い返そうとするアスランの声を、キラの強い眼光が遮った。

 「誤解も何もないじゃない!!・・・・・なんで、僕にそんなこと言うの・・・・・・・・・・・・?」

 語気を強く、最後は泣きそうなくらい弱く、言う。

 なんで、どうして、と問わずにはいられない。

 「・・・・・・・・・・キラ」

 アスランの呟きも、今のキラには聞こえなかった。

 「僕は、カガリも、アスランも、好きだよ・・・・・?」

 『好き』の種類は違うけれど、偽りではない。

 「小さな時から、ずっと一緒で・・・・・僕、寂しくなかったよ・・・・・?」

 本当に小さな頃から、それこそ物心つく前から、三人一緒だった。

 「でも、いつか・・・・・いつか壊れてしまうんじゃないかって、いつも怖くて・・・・・」

 いつか、別れの時が来てしまうんじゃないかと思って。

 「ずっと、ずっと・・・・・ずっと・・・・・・・・・不安だった・・・・・」

 搾り出すような声は、震えていて。

 「・・・キラ」

 その声音に、同情のようなものが含まれているような気がして、キラはキッとアスランを睨み据えた。

 「今だってそう!!・・・今にも、壊れそう・・・・・・・どうしてこんなに、脆いんだろうね・・・?」

 アスランはその言葉にドキリとする。

 考えたことがないといえば、嘘になる。

 アスランが十二歳くらいの時から、ずっと一緒にいたキラとカガリ。

 キラの出生のことは、父親経由で知っていた。

 あの有名なアスハ家が、孤児を引き取ったと。世間体ではあまりよろしくないことだからと、ウズミの友人の家で引き取ることに

なったのだと聞いた。

 それがキラのことだと言うことも、キラが隣に越してきたことで知っていた。

 だから同情の念も、なかったとは言い切れない。

 だから、罪悪感を抱いたのかもしれない。

 けれど本当は、そんな理由じゃないことも、なんとなくわかっている。

 その感情がなんなのかは、わからない。

 しかしそれは少なくとも、幼馴染としてでもなく、親友としてでもない。ましてや家族なんてものでもない感情だと言うことは、

薄々感づいてはいたのだ。

 けれどアスランはそれを一度も経験したことがなくて。

 否、もうずっと前からそんな感情があったのかもしれない。

 だからこそ、気付かなかった。気付けなかったのかもしれない。

 「キラ」

 気がついたら、彼女は自分の腕の中で。

 「ごめん」

 気がついたら、涙を流していて。

 「好きだ」

 気がついたら、声に出ていた。

 キラが息を呑む気配が伝わってくる。

 驚くのも無理はない。

 だって自分も今、気付いたのだから。

 さんざん知らないとかなんとか言っておいて、結局は答えが出ている。

 そんな自分がどこか滑稽で、アスランはこっそりと心の中で自嘲した。

 「・・・アスラン・・・・・・・・?」

 どこか上の空な声に、込み上げる自らの気持ちにアスランは口許が綻ぶのを感じた。

 「愛してる」

 一度身体を離し、揺れるアメジストを見据え、近づける。

 額をキラのそれと合わせて、目を瞑る。

 ずっと一緒だった。

 だから気付かなかったのかもしれない。

 気付けなかったのかもしれない。

 君に向ける、愛しさに。

 アスランは自らのエメラルドを顕現させ、キラのアメジストと絡ませる。

 驚きが隠せない様子のキラに、ふと笑ってみせる。

 キラは不思議そうに首を傾げて、不安そうに揺れるアメジストを瞬かせた。

 「カガリは、俺にとって大切な・・・幼馴染だ・・・・・」

 キラの目が見開かれる。

 アスランはそれを静かに見据えるだけで。

 「だから彼女は、恋人としては、見れない・・・・・」

 自分の中に眠っていた本心を呼び起こし、キラに告げる。

 「俺が好きなのはキラ・・・・・君だよ」

 優しい声音。

 望んでいた。

 欲しかった。

 単純に、手に入れたかったもの。

 どんなに高価な宝石でも、どんなに高額なお金でもない。

 それはアスランにしかもらえないモノだから。

 瞳一杯に溜まった涙は止まることを知らず、ぽろぽろと頬を伝って重力の赴くままに落ちていく。

 「アスラ・・・・・・・・・・・・・」

 ああ、こんなにも早く、誓いは崩れてしまうのだと。

 「僕・・・・・・・・・・・・・・・」

 キラは涙を流しながら、そっと微笑んだ。

 「好き・・・・・・大好き・・・・・・・・・・・・・・・」

 ふわりと、優しい風が、キラの鳶色と共に舞う。

 それと同時に零れる涙は本当に綺麗で。

 ぎゅっと、お互いを離さないように。

 「「愛してる」」

 重なる声と同時に、抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の幼馴染が恋人となったのを、カガリはまだ知らなかった。

 彼女がそれを知ることになるのは、朝の職員会議の後。

 アスランの謝罪の言葉と共に聞かされることとなる。

 それが彼女にとってプラスになるかマイナスになるかは、また別の話になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

キリ番5555を踏んでくださった菜華様に捧げます。

教師アス×生徒キラ(幼馴染)でシリアスと言うリクを貰いましたところ、こんなものに。

勝手にカガリを出してしまいました。菜華様、カガリ好きさんでしたらごめんなさい。

何だか余計にシリアスになりすぎましたけど。

こんなものでよろしければ貰ってやってくださいまし。

 

by.奏織沙音

 

 

 

 

 

修正しました。

カガリはアスランとキラが大好きなだけなんです。許してやってください。←

感想等、お待ちしております。






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