時々考える。 今の僕たちの間にある壁を越えると、どうなるんだろうと。 この壁を越えたなら 「あ、えと、あの・・・・・僕と付き合ってください!!」 必死に頭を下げてくる少年は、名も名乗らずにそう言った。 所謂告白というヤツだ。 「あ・・・悪いんだけど、僕、今男の子と付き合う気はないんだ・・・・・ごめんね?」 告白というヤツは必要以上に精神的ダメージを受けるものだと思う。 だから僕は、なるべく相手を傷付けないように言葉を選びながらそう言った。 本当は異性と付き合う気はある。そうじゃなければ僕は、矛盾している人となってしまうから。 問題はその相手がいる、ということだ。 敢えてそれを言わないのは、勝手に言って変な噂でも立ったら、彼に迷惑がかかってしまうから。 名前はアスラン・ザラ。 二年の終業式の日に、告白された。 不思議なことに、二年の初めからずっと隣の席で、おまけに彼の異母弟は僕の両親の経営する保育園に通っているという。 僕も満更ではなくて、快く承諾した。 それから付き合い出した僕とアスランだけど、周りはまだ僕たちの関係を知らない。 だってまだ、付き合い出して二週間しかたってない。 それに、付き合い出したのは終業式で、今日はまだ始業式なのだから。 けれど例外はいる。 僕の親友、ミリアリアだ。 フレイに連絡しようとしたけど、ミリィに噂流されるだけだからやめておけと言われた。 「・・・・・・・・・・そう、ですか・・・・・そうですよね・・・・・こっちこそ、すみません」 そう言って肩を落として去っていく少年。せめて名前を名乗って欲しいと思うが、彼の心の痛みを考えると言うに言えなかった。 僕はしばらく少年の背中を見つめていたが、すぐに別方向へと足を向けた。 向かう先は新しい教室。 既に始業式も終えて、後はLHRを残すのみ。 始業式が始まる前に見たクラス名簿には、またアスランの名前があった。 もしかしたらまた隣の席になるかもしれない、などと思いながら歩いていると、途中で声をかけられた。 「キラ!!」 春休み中も毎日聞いていた、愛しい声。 「アスラン!!」 僕は満面の笑みを浮かべて彼の名を呼んだ。 藍色の少し癖のある髪に、翡翠のような輝きを持つ瞳。加えてその整った容姿。 女の子が皆憧れる存在であり、僕の恋人であるアスラン・ザラ。 彼は女の子顔負けの綺麗な微笑みを浮かべながら、こちらに近づいてくる。 「どこ行ってたんだ?探したんだぞ」 小さな苦笑を浮かべて言い、僕の額を軽く小突くアスラン。どんなことをしていても格好いいというのは、惚気だろうか。 「ちょっとね。あ、ねえアスラン?僕たちの関係って、学校では内緒にしておかない?」 アスランはもてるし、周りの女子たちが悲しむのは嫌だ。 それにやっぱり、僕みたいな庶民と付き合うなんて変な噂が立つに決まってるし、アスランに迷惑なんてかけたくない。 「・・・・・キラは、そうしたいの?」 どうやら彼は、渋々ながらも僕の意見を尊重してくれるらしい。そのことに期待しながら、僕はコクリと小さく頷いた。 「わかった。キラがその方がいいって言うんなら、俺は構わないよ」 彼の甘い声が耳朶につき、僕は知らずのうちに頬を染めていた。 それにいち早く気付いたのは、当たり前だけれど目の前にいるアスランだった。 僕の頬を抓って、顔赤いよ、と言ってくる。 やっぱりその声は甘くて、僕の頭は蕩けそうなくらいだ。 「さ、そろそろ教室、行こうか?」 アスランはそう言って僕の腰に、僕の手よりも大きく筋張った手を添えて歩き出した。 それはどこからどう見ても恋人のように見えるのだが、アスランはそれに気付いているのか気付いていないのか よくわからない表情をしていた。 僕はしばらく驚きに目を丸くしていたが、すぐに抵抗する。 「ちょ、アスラン!!・・・・・・・・・・もう・・・」 だがその手は中々離れなくて、僕は仕方なしにそのまま教室に向かった。 そんな恋人らしい雰囲気を醸し出す僕たちを恨みがましい目で見ていた人がいたなど、僕も、きっとアスランも、気付くことはなかった。 一学期が始まって、もう一ヶ月経つ。 あれから何かと嫌がらせらしきものがあったような気もするけど、僕は知らん振りをしてアスランには黙っていた。 アスランには、余計な迷惑なんてかけたくなかったから。 けれど事態は僕の知らない間に、思ったよりも悪化していたようで。 「ちょっと!!いい加減ザラ君に近づくの、やめてくんない?」 放課後、僕がいつものようにアスランと帰ろうと、待ち合わせ場所に向かっているところを数人の女子たちが引き止めた。 「え・・・・・」 僕はちゃんと隠していたはずなのに、どうして。 そう問いたかった。 しかし、よくよく考えてみれば、彼女でもないくせにいつもアスランと一緒に登下校したり、お昼を一緒に食べたりしているなんて、 周りの女子から見れば怒りの対象になるに決まっているのだ。 だが。 「いや・・・・・僕は、離れないよ!!」 俯いていた顔を上げて、真っ直ぐ相手を見据える。 否定しないのは、僕のつまらない意地だ。 否、今までアスランと付き合っていることを隠してきた反動かもしれない。 女子たちは突然大きな声を出した僕に面食らったようで、一瞬動きを止めた。 「な・・・・・ふざけるんじゃ無いわよ!!あんたみたいな平々凡々の小娘が、ザラ君に近づいていいと思ってるの!?」 女子の中でもリーダー格と思しき少女が、右手を大きく振り上げた。 叩かれる。 そう思って、咄嗟にギュッと目を瞑る。 パンッ・・・と乾いた音が当たりに響き渡る。 けれど僕には痛みも、打たれた感触さえも感じられなかった。 来ると思っていた衝撃が中々来ないので、僕は恐る恐る目を開いた。 そして目に映ったのは。 「アス・・・・・ラン・・・・・・・・・・?」 宵闇の髪が、風に吹かれて小さく舞った。 きっと、僕が打たれる直前、間に入って僕の代わりに頬を打たれたのだろう。 その証拠に、彼の左頬は赤くなっていた。 「ちょ・・・・・アスランッ!大丈夫なの!?」 慌ててアスランの顔を覗き込むけれど、彼は目の前の相手を見据えるばかりで、僕のことなんて目に入っていないようだった。 少し、寂しかった。 それが僕の為だって、わかってるけど。 「・・・キラに、手を出すな。じゃないと俺は、何をするか、わからない」 底冷えするような低い声で言うと、アスランは僕の手を取って歩き出した。 僕はただ呆然と、アスランの手に引かれて行くしかできなかった。 掴まれた手首が、熱くて、痛かった。 僕たちはあのまま、何の言葉も交わさずに学校を出た。 あと少しで、僕の両親の経営している保育園に辿り着く。 僕はこの沈黙が嫌で、口を開こうとした。 「・・・・・どうして?」 だが、先に口を開いたのはアスランだった。 「え?」 言っている意味がわからず、僕はアスランの方を見た。相変わらず、視線は真っ直ぐ前を向いている。 「どうして、俺を呼んでくれなかったの?」 ピタリ、とアスランは足を止めて僕を振り返った。 「アスラン・・・?」 先程まで見えていた翡翠は、俯いているので窺えない。 「中々キラが、待ち合わせ場所に来ないから、何かあったんじゃないかと、思って・・・」 その声は、可哀想なくらい、震えていて。 「学校中、探し回って・・・そしたら、キラが打たれそうになってて・・・・・」 僕の手を掴むアスランの手の力が一層強くなって、僕は痛みに顔を歪めた。 「なんで、俺を呼んでくれなかった?どうして、俺に助けを求めてくれなかったんだ!?」 荒らげられる声に、僕は肩を震わすことしか出来ない。 「・・・・・俺たちって、何なんだろうな?」 ポタリ、と地面に落ちるのは、きっとアスランの涙だろう、と僕は半ば客観的に見ていた。 「・・・恋人じゃないのか・・・・・?」 アスランの言葉に、ハッとする。 アスランは依然俯いたままで、表情はわからない。 けれど、泣いているのはわかった。 その声音は、嗚咽交じりで、震えていたから。 「俺たち、しばらく距離をとろう?」 やっと顔を上げたアスランの頬は、涙に濡れていて。 漸く僕にも、事態の深刻さがわかってきた。 「アスラ・・・・・・・・・・・・」 僕の声を聞かないとでも言うように、アスランはさっさと踵を返してしまう。 「アスラン、待って!!違う・・・違うよ、僕は・・・・・・・・」 君に迷惑をかけたくなかっただけなんだ、と続けようとしたけど、それはアスランの言葉によって遮られてしまった。 「何が違うって言うんだ!?俺はお前の彼氏だ!!」 肩越しに振り返って、一気に吐き捨てる。 「・・・頼って、当たり前だろう?」 初めて聞いた、小さくて弱々しい声に、僕は驚いて言葉を紡ぐことができなかった。 そのまま立ち去ろうとしているアスランを、追いかけようとしたけれど。 僕は足が竦んで動けなかった。 どうして。 どうして彼を怒らせてしまったの。 どうして彼を泣かせてしまったの。 彼は言った。 どうして俺を呼ばなかったのだと。 その答えは、君に迷惑をかけたくなかったからだ。 けれど彼は言う。 彼氏は頼って当たり前の存在なのだと。 けれどやっぱり、迷惑をかけたくないのには変わりなくて。 それと同じくらい、否、それ以上に彼と離れたくなくて。 気がついたら僕の足は、アスランに向かって走り出していた。 トンッ・・・と軽い音をさせて、アスランの背中に抱きつく。 ビクリ、とアスランが肩を震わせたのがわかったけれど、離れる気なんて毛頭ない。 「僕は、アスランが、好きだよ・・・・・?」 小さな声で、アスランにだけ聞こえるように。 「君はもう、僕のこと、好きじゃないの?」 僕の望んだ答えが返って来るようにと願いを込めて、アスランに問う。 けれど、アスランの答えは中々返ってこない。 「僕は、アスランとずっと一緒にいたい」 これは僕の我侭かも知れない。 けれど、今はこんなことしか思い浮かんでこなくて。 「だから、迷惑ばかりかけてたら、僕に飽きちゃうんじゃないかって、思って・・・・・」 君が遠くに行ってしまうことを、ずっと恐れていた。 「僕は、君の隣には、相応しくないのかなぁ・・・・・?」 一層小さい声で、アスランにも聞こえないんじゃないかと思うくらいの声量で呟く。 胸が苦しくて、目の奥がジンと熱くて。 彼のブレザーの紺色が、徐々に滲んでいく。 鼻がツンと、ワサビを食べた時みたいに痛い。 「ねぇ、アスラン・・・・・?」 僕が泣いているのだと自覚したのは、彼が振り返って僕の涙を拭ってからだった。 「・・・キラ・・・・・」 視界が滲んで、アスランの表情はわからなかったけれど、彼はきっとまだ泣いているのであろうことが、彼の震える声でわかった。 そしてその事実が、僕はとても嬉しかった。 だって、それがどんな理由であれ、僕の為に流してくれる涙なのだから。 「・・・・・俺も、君が、好きだよ・・・・・愛してる。世界・・・否、宇宙で一番、ね?」 砂を吐きそうなくらい甘い言葉に僕は、じゃあ宇宙人にも勝ってるってことだね、と言って笑った。 「ねぇ、キラ・・・?」 しばらく僕と一緒になって笑っていたアスランは突然、真剣な瞳を僕に向けた。 「何、アスラン?」 アスランのあまりの真剣ように、僕も笑みを消した。 「今日、俺の家、来ないか・・・?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?」 何を言い出すのかと思ったら、と僕は間の抜けた声を出した。しかしアスランは真剣そのもので。 「明日は休みだし、今日から俺の母、イザーク連れて実家にいったん帰るとか言ってたし」 夫もいないのに、夫婦喧嘩をして実家に帰らせてもらいますとか言ったのだろうか、と僕は疑問に思ったが、 アスランの真っ直ぐな瞳にそんなことを言えるはずがなかった。 「でも・・・・・」 僕は何故か、抵抗を感じていた。 別に彼氏の家なんだし、遊びに行っても不思議ではないと思う。 「・・・やっぱり、嫌?」 そんな縋るような目で見られたら、断るに断れないではないか。 「アスランが、迷惑じゃなかったら・・・・・僕は別に、構わないけど」 どうしてだろう。 アスランの家に行くだけなのに、不安を感じるのは。 「じゃ、イザーク家に連れて帰ったら、迎えに行くから」 アスランのホッとしたような笑顔につられて、僕は危うく頷くところだった。 「う・・・・・って、一緒に行っちゃ駄目なの?」 いつもは僕がついて行っても怒られないのに。 「え!?いや、それは、ちょっと・・・て、キラ?俺の家に来るって意味、ちゃんとわかってる、よね?」 アスランの変な問いに、僕はまた間抜けな声を出した。 「何、アスランの家に行くのに、わざわざ意味とかあるの?」 僕が問い返すと、アスランはあからさまに厭きれた様に大きな溜め息を吐いた。 「あのなぁ、キラ?付き合ってる男女がその・・・相手の家に行くとかっていうのはだな・・・・・」 言いよどむアスランに、僕はますます首を傾げた。 「だからっ、こういうこと!!」 瞬間、目の前にはいつも傍で見ていたアスランの長い睫毛が僕の視界を占拠した。 それから漸く僕は、唇に柔らかく暖かい感触が触れていることに気付いた。 初めての、キス。 「・・・っン・・・・・・・・」 時間にすればほんの数秒だったけれど、僕にとっては何時間にも感じられて。 息が苦しくて離れようともがくけれど、アスランは中々放してくれなかった。 それどころか、口付けは激しくなっていくばかりで。 「は・・・・・・・・ん、ふ・・・」 無意識のうちに僕の口から零れる吐息は、僕の羞恥心を煽った。 「・・・や・・・・・・っ・・・・・・・」 拒絶の声を上げようとするが、それは口の中に入ってきたぬるりとした感触を持つモノによって阻まれた。 それは僕の歯を一本一本味わうように滑っていって、それと共に僕の背筋には悪寒のようなものが走っていった。 初めての感覚に、僕は戸惑いを感じて声を漏らす。 「ん・・・・・・・・・はぁ、な・・・・・に・・・・・・・・?」 そうしてから、それがアスランの舌だと、僕は漸く気付いた。 驚きに油断していて、素早く舌を絡めとられる。 微かな水音が、静かに響いた。 執拗に攻められる舌。 けれど僕はそれに嫌悪感など抱かなかった。 確かに怖いと思うけれど、不安を感じるけど、それがアスランのものだと知っているから。 これがアスランの思いなのだと、知っているから。 だから、受け入れる。 「あす・・・・・・・・・・・・・ら・・・・ん・・・・・・・・」 無意識のうちに浮かぶ涙は、僕の視界の邪魔をした。 どのくらいそうしていたかなんて、最早どうでもいい。 漸く離れた唇と唇の間には、淫らな銀糸が引く。 アスランは余裕の笑みを浮かべていて。 「続きは、後でね?」 そう言ってさっさとイザーク君の元へ向かっていった。 取り残された僕は一人、呆然と立ちすくんで。 「アスランの、ばか・・・・・」 と、ガクガクと震える足を叱咤しながら呟いた。 あれからアスランは本当にイザークを家につれて帰ってから僕を迎えに来て、僕は両親に友達の家に泊まりに行くと言って家を出た。 そうして着いたザラ邸は予想以上に大きくて、僕は驚いてばかりだった。 やがて辿り着いたアスランの部屋も、一人部屋とは思えないほど大きいものだった。 今更だけど、どうしてイザーク君みたいなお坊ちゃまが僕の家の保育園なんかに通っているのか疑問に思った。 まあ、それは今はどうでもいいとして、僕は緊張で止まりそうになる足を叱咤して、アスランがいつも寝起きしているベッドに座った。 ドクン、ドクン、と心臓の音が煩い。 これから起こることが、先程のアスランの行動でわかってしまってからというもの、僕の心臓は暴れるように喧しかった。 「・・・キラ、大丈夫?」 こんな僕を見かねてか、アスランは心配げに眉根を歪めながら言った。 僕は慌てて首を縦に振った。 「だ、大丈夫だよ!!ちょっと、緊張してるっていうか・・・なんていうか・・・・・」 言葉を濁してしまい、僕はなんだか自分が情けなくなって俯いた。 「シャワー、浴びてきなよ。そっちにバスルームがあるから」 アスランはそう言うと、バスルームがあると思しき方向を指差した。というか、自室にシャワーがあるなんて、なんてすごい家なんだろう。 「うん。わかった・・・・・じゃ、借りるね?」 僕はずっとここで固まっているよりもマシだと思い、バスルームへと向かった。 「・・・・・ごめん、キラ・・・・・・・・・・・・」 アスランが小さく呟いていた声は、僕には届かなかった。 キラがシャワーを浴びに行っている間に、俺も別の部屋でシャワーを浴びて、バスローブを着てキラを待っていた。 そうしていると、遠慮がちに近づいてくる足音。 俺はこの音が誰のモノなのかわかっているから、焦らずに待ち続ける。 やがてそれが止まると、俺は徐に顔を上げて彼女を見た。 その髪はまだ濡れていて、独特の色気を醸し出していた。 「・・・あの・・・・・」 小さく紡ぎ出される声は、静かな部屋には大きく響く。 俺はキラと目が合うと、満面の笑みを浮かべた。 「おいで」 言いながら伸ばした手に吸い寄せられるように、キラは俯きながらも俺に近づいてくる。 俺は優しくキラの手を取ると、そのまま自分の方に抱き寄せた。 「いつからだろうな・・・・・キラと、こうしたいって、思い始めたのは・・・・・・・・・」 ボソリと呟やいた俺の声には、自嘲のような響きが入り混じっていた。 「アスラン・・・・・」 俺の肩口に埋めていた顔を上げて、キラは心配そうに俺の顔を覗き込んだ。不安なのだろう。 だが俺は、込み上げる“何か”に我慢できず、ゆっくりとキラの唇を奪っていった。 啄ばむような口付けに、だんだん夢中になっていく。 暖かい吐息は、次第に熱く。 震える君の、長い睫毛を垣間見ながら。 何度も、何度も、執拗に。 その熟れた唇を、食む。 離れるたびに増す愛しさが、更に俺の理性を奪って行って。 また、口付ける。 歯止めの利かない俺を、君は受け止めてくれるだろうか? 「・・・・・は、ぁ・・・・・・・・・」 空気を求めて口を小さく開けたキラに、俺は自らの舌を差し入れる。 徐に歯列をなぞり、君の紅く熱い舌を探す。 そうして漸く見つけた舌に、自らを絡ませることに成功する。 キラの口の中を味わうように、俺はキラの口内を溶かしていった。 徐々に乱れていく息を整える間もなく、俺は体勢を変えてキラをゆっくり真っ白なシーツに沈めていく。 かかる体重も、口内の快感も、キラは全て受け入れてくれているのだと思うと嬉しくて。 キラが薄っすらと開けた目の先には、きっと俺の火照った顔が映っているのだろうと思うと、一層俺の頬が熱を持っていくのを感じた。 「ふぁ・・・・・・・・・・すら・・・ん・・・・・・・」 俺の名前を呼ぶのも一杯一杯のようで、キラの瞳は涙に濡れていった。 それはきっと、無意識のうち零れたものだろう。 「っキラ・・・・・・」 彼女の名前を呼べば、キラは薄っすらと笑みを浮かべて答えてくれた。 俺は溜まらず、片方の手を支えとしてもう一方の手をキラの柔らかな膨らみにやった。 そっと、壊れ物を扱うかのように触れると、ビクンとキラの身体が撓った。 自分の家に来ると言う意味に俺が言うまで気付かなかったキラのことだから、きっと初めてなのだろう。 俺が初めての相手ということに、いっそう嬉しさが増す。 俺はキラのバスローブの合わせ目から手を忍ばせて、彼女の細身の身体からは想像できないほど大きい膨らみに、目を細める。 その天辺の突起に、指の腹を沿わせると、またキラの身体が大きく弓なりに撓る。 それは自分を感じてくれているということで、俺はもっとキラの乱れる姿を見たくなった。 「ねぇ、キラ?もっと・・・・・・」 感じて、とキラの透けるように白い肌に吸い付きながら吐息を漏らす。 「・・・っあ・・・・・・・・」 開放した唇からは甘い声が漏れ、俺の下半身を刺激する。 唇を放せば、そこには赤い華が咲き、俺のものだと言う証がついたことに小さな満足感を得る。 独占欲。 その言葉が今の俺にはぴったりだった。 俺はキラの柔らかな肌に舌を這わせ、時々吸っては華を咲かせていった。 それは徐々に下へと向かい、俺はついにキラの秘部に手を伸ばした。 既に湿るそこは、俺の視線を感じているのか、小刻みにひくついていて。 俺は込み上げる衝動に逆らうでもなく、けれど優しくそこに触れた。 途端、今まで以上に撓るキラの身体に、俺は込み上げる高揚感を感じた。 絡めとった愛液を口に運び、ペロリと舐めれば甘く苦い味がした。 「・・・・・もう、こんな・・・・・キラ・・・・・・・・・・」 もっとそれを味わいたくて、俺は秘部に舌を這わせた。 そこを刺激するたびに反応するキラに、今キラは感じてくれているのだと実感する。 今まで手を出さなかったのは、キラを傷付けたくなかったから。 俺の欲を、彼女は受け止め切れないと思っていたから。 今もその不安はある。 けれど予想以上に、彼女は俺の思いを必死に受け止めようとしてくれている。 それが、どうしようもなく嬉しくて。 俺は時折聞こえるキラの甘い声と、彼女の淫らな姿に酔いしれていった。 舌を届く限りまでキラの中に伸ばして、弄る様に堪能する。 が、それだけでは面白くない。 俺は舌を引っ込めると、そのまま唇をキラの胸に這わせた。 「はぁ・・・・・・ん・・・・・・・・」 急に抜いたからか、キラはもの欲しそうな声を出して薄っすらと目を開いた。 俺はそんなキラに笑みを浮かべ、瞼に軽いキスを送った。 それから、額、頬、鼻の頭、唇に触れるだけのキスを送ってから、俺はまたキラの胸に顔を埋めた。 そうしている間も、キラの顔から目を離すことはない。 君の悩ましげな眉、潤む瞳。上気する肌に、自分の中にある欲が勢いを増していくのがわかった。 突起を舌で操り、片手の指先はキラの秘部を弄ぶ。 「・・・っあ・・・・・・・・んや・・・・・・・・・」 キラの喘ぎ声も全て、俺のものだと。 俺はキラを味わいながらそう思った。 キラの秘部も大分濡れてきて、俺は抜き差しを繰り返す。 キラが痛みに苦しまないように。辛くないように、と。 時間をかけて、慣らしていく。 淫らな水音が、部屋中に響き渡る。 キラの唇から零れる吐息は、喘ぎ声と一緒に吐き出される。 俺は迫り来る射精感を必死にやり過ごしながら、キラに快楽を与えてやる。 キラの中に抜き差ししていた指もグチョグチョに濡れて、もうそろそろ解れただろうと俺は目を細めた。 「ね、キラ・・・・・?」 俺の問いかけに、キラは潤んだアメジストを向けてきた。 「・・・・・いい?」 この一言が何を表すのか、キラは流石に理解したようで、迷う余裕も無いのか、逡巡することなくコクリと頷いた。 「じゃ、入れるよ?」 俺はバスローブの紐を解き、自身を取り出して、キラの足を上げてからそれを彼女の秘部に宛がう。 ビクリ、とキラは身体を小さく震わすが、俺は構わず押し進める。 キラの腰を持ち、自らの腰をキラに近づけていく。 水音が一際大きく響く。 キラの中は、あんなに時間をかけて解したにも関わらず、狭くて。 俺は自身を刺激するキラの中に、ほんの少し苛立った。 けれど快感の方が勝っていて。 響き渡る水音に混じって、キラの甘い声が響いた。 「あっ・・・ああぁっ・・・・・・はぁ・・・・・・・・あす・・・ら・・・・・・・・・んっ・・・や・・・・・・・・・」 シーツを握るキラの手に、俺の手を重ねる。 「はぁ・・・・・大丈夫、キラ?」 あまりの窮屈さに射精感が募るが、必死に抑える。 「だ・・・・・・・じょぶ・・・・・・・・」 そう言って浮かべる微笑は、儚い。 「も、少し我慢して・・・?」 俺はそういい終えると同時に、キラの両足を自分の肩に乗せる。 「ふっ・・・・・・・・ぁ・・・・・・・・・」 キラは自分の口から漏れる声に恥かしそうに視線を逸らした。 「動く、よ?」 コクリと頷くキラに小さく微笑むと、俺はキラの腰を支えて自らの腰を揺らし始めた。 動かすたびに鳴り響く水音も、淫らなキラの嬌声も、全てが俺の全身を刺激する。 熱い、あつい、アツイ。 それが愛しいものを感じているという証でもあって。 「・・・・・・・っキラ!!」 衝動に駆られて愛するものの名を呼ぶ。 その唇で、彼女の唇を塞いだ。 深く、深く、余すところのないように。 いつの間にか加速していた腰の動き。 キラもそれに答えるように動かす。 絶え間なく響くキラの甘い声も、俺の射精感も、どんどん色濃くなっていく。 俺は我慢できなくて、けれどキラの甘く響く声をもっと聴いていたくて。 それでも俺の欲は、止まる所を知らない。 いったん自分の腰を引いて自身を引き抜く。 「はあぁっ・・・・・・・・・あ、はぁ・・・・・・・・・・・」 途端上がる喚声を、頭の片隅で聞きながら。 俺は一気に最奥を貫いた。 「あっ・・・・・・・・・・や、ああぁあぁぁあああっっっ!!」 一際大きな声と強い締め付けにより襲い来る射精感を、俺は目を硬くつぶって堪えようとするが、抑えきれそうになく。 すぐさま引き抜こうとすればするほど、キラの中の締め付けが、思いの他強くて。 おまけにキラの上気する肌や荒い吐息に、込み上げてくる何かに身を任せずに入られなかった。 キラはキラで、意識が朦朧としているようで、俺の心の葛藤など知るよしもないようだ。 「っごめ・・・・・・」 俺は我慢しきれずに、キラの中に自分の熱を吐き出してしまった。 やっとの思いでキラの中から抜け出すと、いつの間にかすやすやと寝息を立てていたキラの横に寝転がった。 その最中に見つけた血痕に、キラを傷付けてしまったのかと不安に思ったが、それはキラの寝顔を見てどこかに消えていってしまった。 色素の薄い長い髪を一房手に取り、サラサラとシーツに零してゆく。 それがどこか妖艶さと美しさを醸し出していて、俺は漸くキラを自分の色で染めたのだと実感した。 これで、俺たちの間に壁はなくなったねと、そっと微笑んで。 俺は安心して、静かに眠りに就いた。 二人の間に、目には見えない壁があった。 それは今日一つに繋がったことで、何の蟠りも残さずに消えていた。 朝になって二人が目覚めれば、ほら。 彼と彼女の新しい関係が始まる。 あとがき キリ番3456を踏んでくださった陸海様に捧げます。 君の隣、僕の隣の続編でエロありです。 駄文ですみません。 こんなのでよろしければ貰ってやってください。 by.奏織沙音 修正しました。 修正しまくりです。・・・前置きの長さは変わってませんけど。 ホント、裏書くの下手でごめんなさい。 まだ誤字脱字が有りましたら、どうぞmailからご報告くださいませ。 勿論感想は随時お待ちしております。 |
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