「どうしよう・・・・・」

 呟いた声は虚しく、朝日の差し込む部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Xmas

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨日あの後アスランとキラはしばらく互いの温もりを確かめ合うかのように抱きしめ合っていた。

 そこに、二人がなかなか降りてこないのを訝ってかカリダが様子見に来た。

 アスランたちは慌てて離れ、カリダに少し話し込んでしまったのだと言い訳をして、そそくさと部屋を後にした。

 居間では既にご馳走がテーブルの上に用意されていた。

 「あら、やっときたのね。初めまして、キラちゃん?アスランの母です」

 「あ、初めまして!!いつもお世話になってます」

 キラは突然のアスランの母親の登場に辟易しながらも、殊勝に頭を下げた。

 「こちらこそ、アスランがお世話になってるわ。これからも、よろしくね」

 そう言うレノアの微笑みの奥底に、何か寂しさに似たような輝きを見たような気がしたが、キラは特に気にするでもなく微笑んだ。

 そうして食事を始めて少し経ってから、アスランの父親だと言うパトリックも加わり、クリスマスパーティは夜の七時を過ぎるまで行われた。

 そろそろお開きにしようという時には既に、父親二人は酔い潰れてその妻たちに呆れられていた。

 アスランは母に代わって父の腕を自分の肩に回して、自分よりも幾分か背の高い父親を支えて立った。

 「じゃあ私たちは帰るわね。ごめんなさいね、こんなに長居してしまうなんて」

 「いいのよレノア。また、こういう風に家族揃ってパーティとか、出来るといいわね」

 カリダがそう言うと、何故か悲しそうに微笑むレノア。

 「そうね・・・」

 そんな彼女を、カリダも傍らのキラも不思議そうに首を傾げるしかなかった。

 アスランはそんな三人に苦笑を浮かべ、キラに視線を向けた。

 「じゃあキラ、明日、十時に」

 それは待ち合わせの時間。

 アスランが迎えに来てもいいのだが、初めてのデートと言うこともあって現地で待ち合わせすることになったのだ。

 キラ曰く、ちょっとした憧れ、ということだそうだ。

 「うん、わかった。遅れないようにね」

 悪戯っぽく笑いながらキラはそう言うと、アスランもまたおどけた様にキラもな、と笑った。

 そうして別れて、後片付けとか風呂に入ったりだとかして床に就き、今は朝。

 肝心なことをすっかり忘れていた。

 昨日、アスランへのプレゼントを買わずに帰ってきてしまった為、何も用意していなかったことに今気付いたのだ。

 只今の時刻は丁度朝の八時である。

 待ち合わせの時間まで、あと二時間。

 内、家から待ち合わせ場所まで三十分はかかるので一時間半しかない。

 ケーキでも作ろうかと一瞬考えたキラだったが、流石に時間が足りない。

 今の時間、開いてる店と言えばコンビニくらいだ。

 そこでケーキでも買おうか。

 否、よく考えたら、昨日皆でクリスマスケーキを食べたばかりだし、アスランは甘いものが苦手だと言っていた。

 それに、適当に買ったケーキなど、なんだか自分のプライドに傷がつくような気がして、キラはその考えを却下した。

 それにしても、どうしよう。

 しばらく悩んでいたキラだが、ふいに何かを思いついたように顔を上げた。

 「そうだ!!」

 そう声を紡ぐや否や、キラは一目散に部屋から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか間に合った。

 そう安堵の吐息を漏らすと同時に、背後からここ数日で聞き慣れた声が聞こえて、キラは驚いて振り返った。

 「キラ」

 「アスラン!?・・・若しかして、待った?」

 これでも五分前に着いたのだが、彼は余裕な表情ですぐそこのベンチに腰掛けていた。

 二人の初デートの待ち合わせは、キラが所望した遊園地の直ぐ目の前の公園だった。

 アスランはその公園のベンチに腰掛け、悠々と自販機で買ったと思われる緑茶を啜っていた。なんとも爺臭いが、彼の無駄に整った顔立ちに、

キラは何も言えなかった。

 「いや、今来たところだよ」

 嘘だ。そう言うのなら何故、そんな悠然と緑茶などを啜っているのか。

 「飲む?」

 キラの怪訝そうな視線が緑茶に行っていた為、アスランはその視線に気付くとキラに緑茶の缶を掲げて見せた。

 「結構です!!」

 キラはふいっとそっぽを向き、けれど直ぐにアスランの隣に腰掛けた。

 そして手に持っていた、普通に持ち歩くには些か大きいバスケットをアスランに押し付けた。

 「・・・?」

 「クリスマスプレゼント。・・・昨日買いそびれちゃって・・・お昼だけど」

 恥ずかしそうに頬を染めて、やはりそっぽを向くキラに、アスランは目を見開いた。

 「・・・・・・・・・・」

 一向に返ってこないアスランの声に、キラは徐々に不安になってくる。

 「・・・要らないなら、別にいいけど」

 そう言って引っ込めようとするキラの手を、咄嗟に出したアスランの手が止めた。

 「いや、要る!!」

 その勢いに気圧されながらも、キラは苦笑を浮かべた。

 「ありがとう、キラ。大事に食べるね」

 そう言って、嬉々とバスケットを抱えるアスラン。キラはその姿に思わず噴出してしまう。

 「な!?キラ、笑うな!」

 心外だとでも言うように声を上げるアスランを、キラは更に笑った。

 そうして二人の楽しい楽しい初デートが幕を開けたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日初めて知ったことだが、アスランは乗り物が苦手らしい。

 乗り物と言っても、ジェットコースターとかの絶叫マシーンに限るが。

 なんだか、意外だ。

 因みに、キラはお化け屋敷が苦手である。

 どうにも、轆轤首とか首なしの落ち武者だとか血まみれな女とか、そう言う類のものを見るのが苦手なのだ。

 アレらを見ると、どうにも食欲がなくなるのだ。

 なので二人が楽しむのは、専ら静かなアトラクション、または歩きがてら絶叫マシーンに乗ってギャーギャー騒いでいる人たちを眺めるぐらいだ。

 「ねえアスラン、そろそろお昼にしない?」

 十二時も過ぎてそろそろ腹の虫が鳴り始めた頃、キラは隣に歩くアスランに言った。

 「そうだな。じゃあ、あそこで食べようか?」

 そう言いながら指差したのは、まだ寒い為に芽すらも出ていない桜の木下にあるベンチだった。

 そのベンチは丸太をそのまま使用しているようで、どこかアンティークさを感じさせる造形にキラは迷わず頷いた。

 そうしてそこに二人一緒に腰掛けて、アスランはキラとの間にバスケットを置いてそれを開いた。

 中からは、冷めているといっても美味しそうなおかずたちが覗く。

 キラは更におかずたちの入っている段を手に取り、横に置いた。

 バスケットは二段重ねだったようだ。

 「はい、これで手、拭いて」

 そう言って渡されたのは、よくコンビニで渡される使い捨てのお絞りだった。用意がいい。

 「ああ、ありがとう」

 そう言って受け取り、ビニールを破ってウェットティッシュを取り出す。

 ひんやりと冷たい感触が、手全体に沁みる。

 キラもそれを見やりながら、アスラン同様手を拭いた。

 そして二人は共に、弁当に手をつけ始める。

 まず先におかずを口に放り込んだのは、アスランの方だった。

 苦し紛れに作った弁当だから、味は保証できない。

 じっとアスランを見据えるキラの瞳は、徐々に不安げに揺れ始める。

 アスランからのコメントが、なかなかこない。

 焦らしているのか、それとも声にならないほどまずいのか。

 「・・・・・どう、アスラン?」

 あまりに長い沈黙に、キラは思い余って問うた。

 だがしかし、返ってきた答えはキラの予想とは反して。

 「美味い!!美味しいよ、キラ」

 ごくりと噛み砕いたおかずを飲み下し、アスランは漸く口を開いた。

 まさかこんなに嬉しそうに美味しいと言ってくれるとは思っていなかったので、キラは目を丸くして驚いた。

 「キラって、料理上手いんだな」

 そう言うや否や、早々に次の一口がアスランの口内に消えていった。

 あっけらかんとその様を見ていたキラは、ハッと我に返って自分も昼食に手をつけ始めた。

 そしておかずを一つ口に含んで。

 「ホントだ、美味しい・・・」

 実は、本当に失敗していたら嫌なので、味見をしなかったのだ。

 けれど結果、いつもよりも美味くできている。

 アスランのことを考えながら作っていたせいかも知れないとキラは思い、こっそりとほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから二人はしばらく遊園地をフラフラして、それからショッピングなどを楽しんだりして、なんだかんだでもう日は沈んで六時だ。

 アスランとキラは互いの家の前で立ち止まった。丁度道のど真ん中だが、今の二人は気にしない。ここら辺は、滅多に車が通らないのだ。

 「キラ、ちょっと待っててくれる?」

 アスランは突然そう言ったかと思うと、キラを置いて自宅に入って行ってしまった。

 一体何なのだろうか、と首を傾げるのもつかの間、すぐにアスランが姿を現した。

 「早かったね」

 「ああ、すぐそこに置いておいたから」

 そう言って彼は、キラに手を伸ばしてきた。

 「?」

 そんな彼を不思議そうに見上げ、キラは徐に彼の手を見た。

 するとそこには、手の平にちょこんと乗った鳥。

 よく見ればそれはメタリックグリーンで、本物の鳥とは少し違う。

 カシャンカシャンと音を立てて動く辺り、どうやらロボット鳥のようだ。

 「アスラン、これ・・・・・?」

 「俺からのクリスマスプレゼント。お昼のお礼も兼ねて」

 そう言いながら、ロボット鳥をキラに近づけるアスラン。

 キラは慌てて両手を出すと、ロボット鳥は予めプログラムされているのか、迷うことなくキラの手の平に飛び乗った。

 「可愛い・・・名前は?」

 キラはその愛らしい姿に頬を緩め、アスランに問うた。

 はずだったが。

 『トリィ!!』

 と、突然泣き声を発したロボット鳥に、キラは目を丸くした。

 「なんか、泣き声とかないと寂しいかと思って、プログラムしたんだけど・・・」

 おかしいかな、とアスランは照れたように苦笑した。

 いや、おかしいも何も、鳥は『トリィ』とは鳴かないと思うが。

 などと心の中で突っ込もうと思っても、やはりアスランにそれを言うには些か良心が痛む。

 「い、いいんじゃないかな。もしかして名前、トリィ?」

 ふと、泣き声から考えて頭に湧き上がった名前をアスランに確認する。

 すると、その通りと微笑まれた。なんとも安直な名前だろうと思う反面、そのネーミングが彼らしいと感心してしまうキラだった。

 ふと、キラは疑問を感じた。

 「ねえアスラン、若しかしてこの子作ったのって・・・・・」

 「ああ、俺だよ?趣味なんだ、マイクロユニット。よく従姉弟に作らされていたから」

 苦笑を浮かべてそう言ってくるアスラン。

 キラは繁々とトリィを見つめる。

 「これ、飛ぶ?」

 「うん、飛ぶよ」

 「あ、首傾げた」

 「可愛いだろ、キラみたいで?」

 「え、僕!?」

 「そうだよ。キラをモデルに作ったんだ」

 それにしては色が緑なのが気になるが。

 「ありがとう、アスラン。大事にするよ」

 そう言うとアスランは嬉しそうに顔を綻ばした。

 

 

 

 俺がいなくても、寂しくないように。

 俺がいなくなっても、寂しくないように。

 きちんと手入れさえしていれば、それは永遠に動くから。

 ずっと君の傍に、いてくれるから。

 だからトリィ、その時が来たら、キラをよろしくな。

 余計なお世話かもしれないけど、こうでもしないと、後悔してしまいそうだったから。

 だからこの色だけは譲れない。

 自分と同じ、翡翠色。

 いらなくなったら、捨ててもいいから。

 それでもどうか、心の片隅で。

 君一人になっても、少しだけでいいから。

 あんな男がいたと、思い出の中に俺を生かしておいてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

これの為に全部で6話書いたのに、結局主のXmas当日は一話で終了しました。短いし。

トリィ渡して終わりかよ!!って感じですね。イブのが見所あるかもです(笑)。

ていうかものすっごくわかりやすい傍線でホントすみません。傍線張るの、苦手なんです。

ていうかもう、殆どの人が予想ついてると思うんです。最後だけ一人称だけど、気にしないでください。

次はお正月ですね。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。







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Photo by CAPSULE BABY PHOTO