あれから仲直りしたキラとアスランだが、毎日アスランの病室に通うキラは微熱が続くアスランを心配していた。 なんだかんだであれから約二週間が経ち、明日が卒業式の前日だという今日この頃。 今日は久方振りの登校日である。 先週もあったのだが、アスランが突然の高熱で倒れたと聞き、思わず学校をサボってアスランの元に駆けつけて、結局行かなかったのだ。 昨日、アスランの病室から立ち去る間際、最後なんだから俺のことなんて気にせず行って来い、とベッドの中で眠ることを余儀なくされている アスランに言われてしまったのだ。 きっとその言葉の中には、自分の代わりに学校を見納めて来て欲しいという願いも込められていたのではないかと、キラは思う。 キラたちの学校では、卒業式は近くの音楽センターで行われる。 というのも、それは今年限りの話だ。 キラたちの学校の体育館は、今現在工事中である。なんでも、生徒数が年々増えてきている為、体育館も改築して大きくしようというらしい。 ちなみに、校舎の方は既に出来上がっているという。 その為、今年は学校からもそう遠くはない、生徒も全員十分に入れるスペースがある音楽センターで卒業式を行うのである。 そして今日、キラたち三年生が学校に来る、最後の日である。 「あら、今日は来たのね?」 そう言ってキラの席の前で仁王立ちしている少女は、言わずもがなフレイである。 「・・・まあね。フレイ、今日早いね」 嫌味を言うフレイに何か悪態でも返してやろうかと一瞬考えたキラだったが、バレンタインのことを思うとそれはさすがのキラも気が引けた。 「いつもより一本早い電車に乗ってきたからね。キラはまた歩き?」 フレイの問いに一つ頷くと、彼女は事も無げにふうん・・・と相槌を打った。 「ザラ君とはどう?上手くいってんの?」 自分の席でもないのに、さも自分の席だというように椅子を引いて座り、キラの方を向き直ったフレイは、どこか面白そうに問うた。 「う、うん・・・・・この前は、ありがと。本当、感謝してる」 彼女が、フレイがいなければ、きっと今、キラはまだ立ち直れていなかっただろう。 そしてそれは、アスランも同じことで。 「どういたしまして。今度奢ってよ?」 悪戯っぽくそう笑い、フレイは安堵の笑みを浮かべた。 あんな手助け一つであのキラがこんなに素直に礼を言うだなんて、とフレイは内心でクスリと笑った。 「わかった。覚えてたらね」 そう答えたキラに、フレイはわざとむくれて見せた。 しかしすぐにそれは消え失せ、やがて教室の一角に少女たちの楽しげな笑い声が響いた。 だがそれがすぐにまた消えて驚愕に変わるなど、キラもフレイも予想だにしていなかった。 そしてその時はすぐ、そこまで。 ガラリ、と扉が開き、何気なく視線をそちらにやる。 そして案の定、二人、否クラス全員が、驚愕に目を見張った。 「おはよう」 その人物はしっかりと、キラのアメジストを見つめながら言ってくる。 「・・・・・・・」 しかし、驚きすぎて何も言えないキラに、その人は困ったように苦笑した。 そうしてから漸く、キラは徐に口を開いた。 「・・・アス・・・ラン・・・・・・・・・?」 そこに立つのは紛れもなく、キラの彼氏であり病院で絶対安静の、アスラン・ザラその人であった。 最後の登校日 「・・・・・・・・・・で、なんで君がこんなトコにいるのさ?」 しばらくの間の後、キラたちの近くまで歩み寄ってきたアスランを、キラはじとりと睨みつけた。 それに苦笑で返すと、アスランはキラの隣の席に、これまた我が物のように座るアスラン。持ち主に一言かけようとは思わないのだろうか。 「ちょっと抜け出してきただけさ。大丈夫。多分未だばれてないよ」 そういう問題ではない。 微笑を浮かべながら悪びれもせずそうのたまう彼に、キラの米神がピクリと震えた。 「あのね、アスラン」 「なに、キラ?」 引き攣った笑みを浮かべつつ声を絞り出すキラに、アスランは表情を変えないまま小首を傾げて見せた。そういうところが可愛くて仕方ないのだが、 この際見なかったことにしよう。 「ちょっとやそっとで抜け出してくる病院患者がどこにいるのさ?」 「ここにいるじゃないか」 やはり悪びれもなく返してくるアスランに、キラの堪忍袋の尾は切れ掛かる。が、それをなんとか理性を総動員して食い止めるキラ。 「てかこのこと、レノアさんやパトリックさんは・・・・・」 「知るわけないだろ?知ってたら、止められるに決まってる」 信じられないとばかりに目を丸くするアスランに、君の方が信じられないと言ってやりたくなるキラだが、これも我慢してやることにする。 「・・・・・僕が追い返すとは思ってなかったの?」 「・・・・・キラならそうすると思ったさ」 ふと微笑を消して真顔になるアスランに、なら・・・と声を上げようとするが、それはアスランの次の言葉によって掻き消されてしまった。 「でも、今日が最後だろ?」 え、と目を丸くするキラに、アスランはいつもの苦笑を浮かべて見せた。 「学校に来るの、今日が最後なんだろ?」 「それは、そうだけど・・・・・でも、それとこれとは・・・!!」 再び上げようとした声を、またもアスランの声が遮る。 「卒業式は無理でも、キラと過ごしたこの学校には、別れを言いたい」 真っ直ぐ向けられた翡翠に、二の句が告げないキラ。 自然と、沈黙が空気を支配する。 しかしそれを破ったのは、その二人のやり取りをじっと傍観していたフレイであった。彼女は突然、何を思ったか笑い声を上げたのだ。 「あっはは!!キラの負けね!!」 腹を抱えて笑うフレイに、キラは思わずむすっと頬を膨らませた。 「な!!何さ、負けって!?」 「いいじゃない、一日ぐらい。第一別に午後まであるわけじゃないんだから。彼もヤバイと思ったら帰るでしょ?」 それはそうだ。登校日は元より午前中のみだし、アスランも自分の体調に危機を感じたら、きちんとキラなり先生なりに話すだろう。 ご尤もなフレイの言葉に、でも・・・と口篭るキラに、アスランは一層眩しい笑顔でキラの肩をポンと叩いた。 「大丈夫だよ。いざとなったら、キラの肩、借りるから」 それが建て前だとわかっているからこそ、心配なのだが。 まあ、今日は大目に見るとしよう。しかしレノアへの連絡だけはしておこうと心に決めたキラであった。 そして時間は過ぎ、残すところあと一時間となった、休み時間。 集会の時も辛そうだったが、今もなんだか辛そうだ。 俯いた顔が青白いのが、遠目から見てもよくわかったから。 「保健室、行く?」 大丈夫かと問えば、彼はきっと大丈夫だと答えるだろうから、そんなことは聞かない。だって本音は、顔に書いてあるのだから。 「いや、まだ大丈夫だ」 しかし結局、大丈夫だと言われてしまう。 「大丈夫に見えないから言ってるの。ほら、行くよ?着いててあげるから」 アスランの背中に手を当て、擦ってやりながら苦笑を浮かべるキラに、アスランは申し訳なさそうにいいよと言った。 「これ以上、キラに迷惑かけるわけにはいかないよ。ほら、予鈴も鳴ったし、席に着いた方がいいんじゃないか?」 その言葉通り、チャイムが鳴って生徒たちも席に着き始める。 「・・・アスランが保健室に行くって言うまで席に着かないよ」 頑として譲らない姿勢を見せれば、ほら。 「・・・・・わかったよ」 簡単に納得するアスランに気をよくしたように、キラは満面の笑みを浮かべてフレイにちょっと保健室行って来る!!と言ってアスランと共に教室を 出た。 「・・・・・・・席に着くんじゃなかったのか?」 「え?だって君、保健室に行くとは言ってないじゃないか。わかったって言っただけでしょ?」 してやったり、とばかりに笑うキラに、飽きれ交じりの溜め息を吐いたアスラン。 「なるほどね」 その表情は青白いながらも、いつもの苦笑を湛えていた。 保健室に着くと、誰もいなかった。 恐らく職員室にいるであろう先生を呼ぶほど、キラもアスランも几帳面ではない。 「ほら、横になって。今体温計持って来るね」 アスランをさっさとベッドに寝かせ、保険室内にある体温計を探し出すキラ。 そこに、アスランの手助けならぬ声助けが入る。 「その棚の一番下の引き出しにあるよ」 ベッドから顔だけ出してそう言うアスランに、ありがとうとだけ返し、彼の言った場所を探り出す。するとすぐに見つかって、さすが常連は違うな、 とどうでもいいことを考えた。 これは余談だが、アスランはよく保健室に通っていたらしい。一ヶ月に一度は休むアスランは、保健室なら日常茶飯事に使っているのである。 「はい。・・・・・入れてあげようか?」 体温計をアスランに渡そうとするが、ふとそれをやめて彼の脇に指してやろうかと考える。というのも、彼があまりに辛そうな表情をしているからで。 「いや、大丈夫だ」 だから、アスランのその言葉は信用ならないんだって、とキラは内心で毒づきながら、アスランの言葉を無視して体温計を取り出してアスランの胸元を 寛げ、適当に脇に指す。 この時アスランの頬が赤く染まったことは、アスランのみぞ知ることとなった。 そうして待つこと数十秒。 ピピピピッ・・・と音を立てる体温計を、これまた彼の了承なく勝手に取り出すキラ。これは他の男性にもやるのだろうか、とふと考えてしまった アスランは、思わず眉を顰めた。 「・・・・・・・アスラン」 静かに体温計を見つめていたキラだったが、どうしてだかその声音は常のものより低い。 「・・・なに?」 そう声を出したが、それは敢え無く無視された。 そしてキラはどこからともなく携帯電話を取り出して、どこかに電話をかけ始める。 大人しくそれを見守っていたアスランだったが、キラの言葉に目を見開いた。 「あ、もしもしレノアさんですか?」 「ちょ、ちょっと待てキラ!!」 静止をかけるアスランの言葉に耳も貸さず、キラはアスランの熱が39度以上あることを言う。先程こっそりメールをしておいたから、きっと校内の ロータリーあたりに車を駐車してアスランの帰りを今か今かと待っているだろう。 しかし39度とは、微熱どころではないではないか。 「はい、では後ほど」 そう言ってあっという間に電話は切られてしまい、アスランの表情は心なしか更に青ざめた。 「キィーラァー!!!」 声を上げるアスラン。だがその声からしても、掠れていて小さい。これは重症だ。 そうして数分も待たずにして現われたレノアに強制的に車に押し込められ、ついでだからとキラも共に病院へと帰って行ったのであった。 そうして漸く患者を取り戻した医師や看護士たちは、安堵の表情を浮かべ、そして揃って慌て始めた。 何しろ、39度の高熱だ。こうしちゃいられない、とばかりに慌しくなる病院内のソファに、キラは腰掛けていた。 「全く、無茶ばっかりするんだから・・・」 その口調とは裏腹、キラの表情には大きな不安が表れていた。 意識的に最悪の事態のことを考えることを避け、ただアスランの無事を願う。 ふと、隣に温もりを感じて、徐に顔を上げると。 一瞬、アスランと見間違えそうになったが、それも道理。アスランは母親にであるのだから。 「レノアさん・・・・・」 「キラちゃん、大丈夫よ。あの子はこのくらいで、死ぬような子じゃないわ」 優しげな微笑を浮かべたまま、『死』と言う言葉をいっそ臆面もなく言ってのけたレノアに、キラの視界が歪んだ。 「ごめん、なさ・・・・・っ!!」 彼を、アスランを追い返すことも出来たのに。もっと早く保健室に連れて行くことも出来たのに。 「キラちゃん、いいのよ。大丈夫。気にしちゃだめよ。あなたがしっかりしてなくちゃ、あの子は支えを失ってしまうでしょう?」 ハッと、息を呑んで。 涙を頬に伝わせて、視界を元に戻そうとする。 「あなたはあの子の支えでいてあげて?」 それがアスランの望みなのだと。 「レノア、さん・・・・・」 再び緩む涙腺に、レノアは苦笑を浮かべてキラを安心させるように抱き締めた。 「今は、信じましょう?」 大丈夫だからと。 アスランが言うと信用ならない言葉でも、彼の母親であるレノアが言えば、それは忽ち真実になる。そう、キラには感じられた。 ギュッと、レノアの背中に回した指先に力を込めて、ただ願う。 アスラン、どうか、無事でいて・・・と。 そして間もなくして、医師の言葉が舞い降りてきた。 「もう大丈夫です。今後、このようなことはないようにしてくださいね」 いつもより少し厳しめな口調に、レノアもキラもすみませんと頭を下げた。 「それと・・・・・」 そうして続けられた言葉に、レノアもキラも、目を見開いて。 「心臓の、ドナーが見つかりましたよ」 涙を流して、喜んだ。 あとがき 迷惑なアスランですみません本当。そしてキラが大胆です(笑)。 明日が卒業式なので、なんとなく書いてみました。 アスランの心臓のドナーがついに見つかりました。 毎度の如く、私は医療関係には全く流通していませんので、悪しからず。 TOP |